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地狱风景-脸色苍白的模特

时间: 2021-10-14    进入日语论坛
核心提示:青ざめたモデル その翌日のことである。 まだ何の手掛りをも掴み得なかった木島刑事は、もう一度犯罪現場に立って、兇行の順序
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青ざめたモデル


 その翌日のことである。
 まだ何の手掛りをも掴み得なかった木島刑事は、もう一度犯罪現場に立って、兇行の順序を仮想するために、園主喜多川治良右衛門の案内で例の迷路へ踏み込んで行った。
「この迷路は僕の設計で作らせたのですが、設計者の僕でさえ、どうかすると迷い子になってしまう程、よく出来ているのです」
 治良右衛門が曲りくねった細道を歩きながら自慢した。
「あなたが、こういう酔狂(すいきょう)なものを作るものだから、こんな面倒が起るのです。退屈したお金持程厄介(やっかい)なものはありませんよ」
 刑事は心安だてに、冗談めかして園主の酔狂を非難した。
「イヤ、それをおっしゃられると、恐縮に耐えません。併し、自邸内に起った出来事で、被害者は僕の親友なのですから、僕も探偵になった気で、充分穿鑿(せんさく)します。必ず罪人をお引渡しする積りです」
「そう行けば、うまいですが」
 木島刑事は、治良右衛門の真面目な申出(もうしいで)を鼻であしらった。
「犯人は園内のものに相違ありません。凡てが容疑者です。そして凡てが僕の親友です。実に困った立場です」
「まさかあなたのお友達を、ひっぱたいて、身体に聞くという訳にも行きませんしね。と云って証拠は皆無なのだから、実に面倒です。それもこれも、この迷路のお蔭ですよ。これさえなければ、犯人は大野さんに見られている(はず)ですからね。それにしても、あなたには、誰か疑わしい人物があり相なものですが」
「それが先日からも云う通り、不思議にないのです。ちま子は大人しい女で、敵があろうとは考えられません。(しい)て考えるならば、好かれたからこそ殺されたのです。恋の叶わぬ恨みですね。併し、そうだとすると、園内でちま子を恋していなかったものは一人もないと云って差支(さしつか)えないのです。又ちま子が私以外の何人(なにびと)の愛をも拒絶したことも(たしか)です。随って園内の男は凡て容疑者ということになります」
 話しながら、二三度あと戻りをしたけれど、流石(さすが)に迷いもせず、迷路の中心に達した。
「オヤ、誰かいる」
 一歩そこに踏みこんだ刑事が、びっくりして立止った。
「アア、湯本君、こんな所で何をしているのだ」
 治良右衛門も驚いて声をかけた。
 それはサジスト湯本譲次であった。
 彼はその迷路の中心で妙なことをしていた。彼の前には三脚架にカンヴァスが立てかけてあり、彼の左手にはパレット、右手には絵筆が握られていた。
「何を()いているの?」
 問われると、譲次は、見れば分ると云わぬばかりに、(あご)でモデルを指し示した。
 モデルは地上にうずくまった奇妙な形の青白い肉塊であった。
 実に奇妙な形をしていた。顔を地べたにくッつけて、お尻をもったて、足は腹の下に折れ曲り、手は無理な格好で、顔の前に投出されていた。つまりそれは、世にも豊満な、一糸(まと)わぬ裸体女のモデルであったのだ。
 だが、あの皮膚の、異様な青白さはどうだ。こんな不気味な皮膚を持った女が、この楽園にいたのかしら。
「オヤ、あれは原田麗子さんじゃないか。どうしたんだ。あの妙な格好は。身体が折れてしまい相じゃないか。痛いだろう」
 治良右衛門がモデル女の正体に気づいて叫んだ。
「痛くはないよ」
 譲次が、セッセと絵筆を動かしながら、ぶっきら棒に答えた。
「痛くないことがあるもんか。可哀相じゃないか。()したまえ。このサジストにも困ったものだ」
「痛い筈がないよ。麗子さんをよく見てくれ給え」
 譲次が怒った様な声で云った。
 云われて見ると成程(なるほど)変だ。原田麗子は決してあんないやな色の皮膚ではなかった筈だ。
 治良右衛門はゾッと寒気を感じないではいられなかった。
 木島刑事もそれと悟ったのか、ツカツカとモデルに近づいて、いきなり彼女の肩に手をかけて引起した。
「アッ!」
 二人の口から、同時に驚きの叫び声がほとばしった。
 引起された麗子の身体の下には、真赤な水溜りが出来ていた。そして、彼女の胸には見覚(みおぼえ)のある例の短剣が、心臓深く突き刺さり、乳房も、腹も、太腿まで、ペンキでも塗った様に、真赤に染め上っていた。
「オイ、湯本君、君はこれを知っていたのか、誰にやられたんだ。下手人は何者だ」
 治良右衛門がどもりどもり、譲次に詰問(きつもん)した。
「あいつだ。ちま子さんを殺した奴だ」
 譲次が無感動に云った。
「ウン、恐らくそうだろう。併し、君はどうしたんだ。恋人の死骸をモデルにして、呑気(のんき)そうに絵を描いていたのか」
「そうだよ」譲次は平気で答えた。
「僕は麗子がこんな美しい生物(いきもの)だという事を、今の今まで気づかなかったのだ。それにこの奇怪な美しいポーズ。(かん)に入れてしまうのは(おし)いと思ったのだ」
 湯本譲次は気が違ったのか。恋人の血みどろの死骸を何か世にも美しいものの如く、我を忘れて写生していたのだ。

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