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灰色巨人-女王逃窜

时间: 2021-11-28    进入日语论坛
核心提示:空中のとりもの サーカスのがくやは、大テントの横の小テントの中にあるのですが、そこに数十人の座員がはいっているので、たい
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空中のとりもの


 サーカスのがくやは、大テントの横の小テントの中にあるのですが、そこに数十人の座員がはいっているので、たいへんなこんざつです。そのがくやの一方のすみに、さっき、「十人の女王さま」に出た若い女の人たちが、まだ女王さまの赤い服のままで、かたまっていました。みんな長ぐつをぬいでいましたが、宝冠はまだかぶったままです。そこへ、道化師の一寸法師が、こそこそとはいってきました。もう道化服はぬいで、ふだんぎのジャンパー姿です。かれは、女王さまたちの中のひとりの女の人のそばに近づいて、その耳に、なにかささやきました。その女の人は、「にじの宝冠」をかぶっているのです。
 にじの女王さまは、一寸法師のささやきをきくと、びっくりしたように立ちあがって、キョロキョロとあたりを見まわしました。そして、いきなり、人びとをかきわけるようにして、テントのうら口へとび出しました。
 うら口から外をのぞくと、そこには、制服の警官がふたり、目をひからせて立っていました。にじの女王は、それを見て、おどろいて首をひっこめました。そして、はんたいに、こんどは大テントの方へ走りだしました。
 ちょうどそのとき、明智探偵と中村警部が、がくや口へやってきました。にじの女王は、ふたりのわきをサッとすりぬけて、大テントの中へ、とびこみました。
「あっ、いまの女が、そうだっ。」
 明智探偵は、いそいで、そのあとを追います。中村警部も、いっしょに走りだしました。
 にじの女王は大テントに走りこむと、てんじょうのぶらんこから、さがっている綱につかまると、スルスルと、それをのぼっていきます。宝冠をかぶった赤い服の女王さまが、てんじょうへのぼっていくのです。
 そのとき、場内が、にわかに、ざわめきはじめました。
「あいつを、つかまえろ。あいつが犯人だっ。」
 砂場にかけつけた中村警部が、てんじょうの、にじの女王をにらみつけて、おそろしい声で、どなったのです。
 すると、テントの入口から、四―五人の私服刑事が、弾丸のように、とびこんできました。そして、砂場にかけつけると、その中のひとりが、いきなり、さがっている綱にとびついて、にじの女王のあとを追いはじめました。
 このただならぬできごとに、見物せきは、そう立ちになりました。座員たちも、びっくりして、砂場へ集まってきました。
 綱の上の、にじの女王は、下から刑事がのぼってくるのを見ると、いっそう手足をはやめて綱をのぼり、たちまち、てんじょうにさがっている、ぶらんこにのりました。そして、ぶらんこの棒にこしかけて、そこにかぎでひっかけてある下からの綱を、とりはずそうとしています。
 ああ、あぶない。そのかぎをはずしたら、綱の中途までのぼっている刑事が、まっさかさまに、ついらくするではありませんか。
 刑事も、それに気がつきました。かぎをはずされるまえにのぼりきって、ぶらんこに、とりつかなければなりません。かれは、死にものぐるいに綱をのぼりました。
 そして、右手をぐっとのばして、ぶらんこに、つかまろうとしたときです。
「ワーッ。」
という声が、見物せきから、おこりました。にじの女王は、あやういところで、かぎをはずしたのです。刑事のつかまっている綱が、サーッと下へおちていきました。刑事は、二十メートルの上から、ついらくしたのです。
 瞬間、場内は、はかばのように、しいんとしずまりました。みんなが声をのんで、ついらくする刑事のからだを、見つめていたのです。
 刑事は、まっさかさまに落ちてきました。そのまま地面にぶっつかれば、気ぜつするか、死んでしまうかです。人びとは手にあせをにぎりました。
 しかし、刑事は運がよかったのです。ぶらんこは、砂場の上にはりつめた、救命網の上にありました。刑事はその網に落ちたのです。かれのからだは、太い網の上で、まるくなって、ぽんぽんと、二―三度、はずみました。そして、うまく助かったのです。
 中村警部は、男の座員の中から、空中サーカスになれた人たちをえらんで、にじの女王を、つかまえてくれとたのみました。すると、強そうな三人の男が、ぴったりと身についたシャツとズボン下の、あの衣装で、三方からべつの綱をつたって、スルスルと、てんじょうにのぼっていきました。
 ぶらんこの上のにじの女王は、それを見ると、あわてました。じぶんより空中曲芸のじょうずな男たちに、三方から取りまかれては、どうすることもできないからです。
 女王は、きちがいのように、ぶらんこをふりはじめました。大テントのてんじょうで、宝冠と金モールの赤い服が、サーッ、サーッと大きくゆれて、そのたびにキラッ、キラッと美しいにじが立つのです。
 男たちは、もう、てんじょうにのぼっていました。てんじょうには、ぶらんこをさげる木の棒が、たてよこに組みあわせてあります。男たちは、その棒をつたって、三方から、女王のぶらんこにせまっていきました。
 ぶらんこは、大テントのてんじょうにとどくほども、大きくゆれていました。それが上にあがったときには、にじの女王のからだが、まっさかさまになるほどです。でも、宝冠が落ちる心配はありません。宝冠はほそいひもで、しっかり、あごにくくりつけてあるのです。
 三人の男のうちのひとりは、もうぶらんこのま上まで来ていました。そこの棒の上に、からだをよこにして、手をのばして、ぶらんこの綱をつかもうとしています。
 しかし、女王さまのほうが、すばやかったのです。かのじょは、ぶらんこが、いちばん高くあがったとき、パッと手をはなして、てんじょうの木の棒にとびつきました。そして、その棒の上に、すっくと立ちあがると、大テントの合わせめを、ぐっとひらいて、そこをくぐって、テントのそとへ出てしまいました。
 つまり、サーカスのやねの上へ、のぼったのです。
 三人の男たちは、いそいで、そのあとを追いました。そして、同じテントの合わせめから、つぎつぎと、やねの上へ出ていきました。
 見物人たちには、もう、その姿が見えません。ただ、テントのぬのに、四つの黒いかげが、うつっているばかりです。その黒いかげが、高い高いテントのやねで、おそろしいおにごっこを、はじめたのです。

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