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蒙面的舞者 五(1)

时间: 2022-04-03    进入日语论坛
核心提示:五 家(うち)に帰っても、私の悔恨は、深まりこそすれ、決して薄らぐ筈はありません。そこへ持ってきて、私の女房は、彼女にして
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 (うち)に帰っても、私の悔恨は、深まりこそすれ、決して薄らぐ筈はありません。そこへ持ってきて、私の女房は、彼女にして見れば無理もないことでしょうが、病気と称して一間にとじ(こも)ったきり、顔も見せないのです。私は女中の給仕でまずい食事をしながら、悔恨の情を更に倍加したことであります。
 私は、会社へは電話で断っておいて、机の前に坐ったまま、長い間ぼんやりしていました。眠くはあるのですが、とても寐る気にはなれません。そうかといって、本を読むことも、その(ほか)の仕事をすることも、無論駄目(だめ)です。ただぼんやりと、取返しのつかぬ失策を、思いわずらっているのでした。
 そうして、思いに耽っている内に、私の頭にふと一つの懸念が浮んで来ました。
「だが待てよ」私は考えるのでした。「一体全体こんな馬鹿馬鹿しいことがあり得るものだろうか。あの井関さんが昨夜のような不倫な計画を立てるというのも変だし、それにいくら泥酔していたとはいえ、朝になるまで相手の婦人を知らないでいるなんて、少しおかしくはないか。そこには、私をして()いてそう信じさせるような、技巧が(ろう)せられてはいなかったか。第一、井上の春子さんが、あのおとなしい細君が、舞踏会に出席するというのも信じ(がた)いことだ。ああそうだ。問題はあの婦人の姿なんだ。殊に頸から肩にかけての線なんだ。あれが井関さんの巧妙なトリックではなかったのか、遊里(ゆうり)(ちまた)から、覆面をさせれば春子さんと見擬(みまが)うような女を、探し出すのは、さほど困難ではないだろう。俺はそうした影武者のために、まんまと一杯食わされたのではないか。そして、この手にかかったのは、俺だけではないかも知れない。人の悪い井関さんは、意味ありげな暗闇の舞踏会で、会員の一人一人を俺と同じような目に(あわ)せ、あとで大笑いをする積りだったのではないか。そうだ、もうそれに極った」
 考えれば考える程、凡ての事情が私の推察を裏書きしていました。私はもうくよくよすることを止め、先程とは打って変って、ニヤニヤと気味の悪い(ひと)り笑いを、(もら)しさえするのでした。
 私はもう一度外出の支度(したく)をととのえました。井関さんの所へ押しかけようというのです。私は彼に、私がどんなに平気でいるかということを見せつけて、昨夕(ゆうべ)の仕返しをしなければなりません。
「オイ、タクシイを呼ぶんだ」
 私は大声に、女中に命じました。
 私の家から井関さんの住居(すまい)までは、さして遠い道のりではありません、やがて車は彼の玄関に着きました。ひょっと店の方へ出ていはしないかと案じましたが、幸い在宅だというので、私はすぐさま彼の客間に通されました。見ると、これはどうしたというのでしょう。そこには、井関さんの外に二十日会の会員が、三人も顔を揃えて談笑していたではありませんか。では、もう種明しが済んだのかしら、それとも、この連中だけは、私のような目にも会わなかったのかしら。私は不審に思いながら、しかしさも愉快そうな表情を忘れないで、設けられた席につきました。
「ヤア、昨夜(ゆうべ)はお(たのし)み」
 会員の一人が、からかうように声をかけました。
「ナアニ、僕なんざ駄目ですよ。君こそお楽みでしたろう」
 私は、顎を()でながら、さも平然と答えました。「どうだ驚いたか」という腹です。ところが、それには一向(いっこう)反響がなくて、相手から返って来た言葉は、実に奇妙なものでありました。
「だって、君の所のは、我々の内で一番新しいんじゃありませんか。お楽みでない筈はないや。ねえ、井関さん」
 すると、井関さんは、それに答える代りに、アハアハと笑っているのです。どうも様子が変なのです。しかし、私は、ここで弱味を見せてはならぬと、さらに一層平気な表情を作るのに骨折りました。が、彼等は私の表情などには、一向お構いなく、ガヤガヤと話を続けるのです。


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