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魔术师-五色の雪(2)

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示:「イヤ、君が変に思うのは尤(もっと)もです。併しあの娘は親子のきずなで悪魔に従ってはいるものの、父親とは正反対の心の優しい
(单词翻译:双击或拖选)

「イヤ、君が変に思うのは(もっと)もです。併しあの娘は親子のきずなで悪魔に従ってはいるものの、父親とは正反対の心の優しい女です。以前から父親の悪行を(にく)んでいたのですが、今夜こそ、もう耐らなくなって、いっそ父親を警察へ引渡そうと決心したのでしょう。それには又、僕の苦しい立場を救ってやろうという、優しい思遣(おもいや)りもあるのです」
明智は歩きながら、嘗つての怪汽船内での不思議な出来事を手短かに話して聞かせた。
今度の事件では、名探偵を絶体絶命の窮地から救うものは、いつも目ざす怪賊の実の娘なのだ。何という不思議な因縁であろう。成程(なるほど)、成程、さっき明智が恋人が出来たと云ったのは、この文代のことだったかと、二郎もつい引入れられて涙っぽい気持ちになった。明智はと見ると、彼の目も、思いなしか、異様にギラギラ光って見えるのだ。
急ぐ程に、いつしか町を離れた淋しい海岸に出ていた。静かとは云っても、流石に頬を打つ潮風。寄せては返す波の音。もうその辺には目印の五色の雪も残っていない。
見ると行手の丘にポッツリ建っている一軒家。大森の町を出離れて森ヶ崎に近い場所ではあるが、妙な所に思いもかけず、妙な洋館があったものだ。孤独好きな人の別荘か、画家のアトリエか、古風な建て方のささやかな木造洋館だ。
近づいて様子を(うかが)うと、どの窓も密閉されているが、何となく怪しげな気配。それに今来た道を通っては、この家より外に行き所はないのだ。
警官は手別(てわ)けをして建物をとり巻く。明智と二郎とは入口を叩いてさり気なく案内を乞う。中に人が住んでいる事は、ほのかに()れる燈火(ともしび)によっても察しられるのだが、戸を叩いても返事はない。シーンと静まり返って、中では、目を見合わせた連中が、黙り込んで、外の様子に聞耳を立てている感じだ。
「感づいたのでしょうか」
「我々とは知るまい。ただ、場合が場合だから用心しているのでしょう」
暗闇に立っていること(ゆえ)大丈夫とは思ったけれど、二人は充分用心して、屋内から隙見(すきみ)されてもそれと気附かれぬ様、ドアのすぐ横に(うずく)まって様子を窺った。
やや暫くたって、闇の中に、うっすりと、光の線が現われ、それが徐々に太くなって行く。誰かが入口のドアを細目にあけて、外を見ているのだ。家内の淡い光を背に受けて、クッキリと黒い影法師が浮き出し、ドアの隙間が拡がるにつれて、それが洋装の女であることが分って来た。
「どなた?」
何かを期待している様な低い声。確かに賊の娘の文代だ。
闇の中に(しゃが)んでいた明智がヒョイと立上って、一尺の近さで娘と顔を見合わせた。暗いけれど、顔形が分らぬ程ではない。娘はハッと身を引き相にしたが、相手が予期していた人物と知ると、今度は何とも形容の出来ない複雑な表情で、泣き出し相な顔をしながら、ためらい勝ちに、幽かに幽かに目礼の様なことをした。
何と云う不思議な対面であろう。何という奇妙な知己(ちき)であろう。一人は追うもの、一人は追われるもの、彼等は永久に(かたき)同志の間柄だ。顔を見合わすのも、今が二度目、親しく語り合ったことは一度もない。ただ娘は実行したのだ。言葉の百層倍も雄弁に実行して見せたのだ。明智の方では、一度ならず二度までも、この比類なき乙女の純情に、彼女が賊の娘であるが為に、一層強く打たれないではいられなかった。
「早く、早く」
娘は乾いた舌で囁く。明智と二郎とは、娘に導かれて家に這入った。這入った所は、三坪程の小さなホールになっている。
「大丈夫ですか。僕達がつけて来たことを感づいてやしませんか」
「まだ大丈夫です。奥には二人しかいません。お父さんと、森の中であなたに見つかった男です。外の座員達は思い思いの方角へ逃げました。奥では今お酒を呑んでいます。早く捕えて下さい。今度こそお父さんを逃がさないで下さい」
文代は彼女の切ない思いを細々(こまごま)と語りたかった。玉村一家の人々を救う為には、実の親ながら、極悪非道の父を警察へ引渡す外はないと、けなげにも心を極めるまでの、云うに云われぬ苦しさ悲しさを、しみじみ聞いてほしかった。併しこの危急の場合、そんな余裕はないのだ。
「先ず第一にあたしを縛って下さい。あたしは極悪人の子です。一味の者です」
娘は明智に身体をすりつける様にして、強い調子で囁く。
「どうして? 君はもう我々の味方じゃないか」
「でも縛って下さい。そうでなければ、あたしは大きな声を立てます。親を売った娘は縛られるのが当り前です」
可哀相な文代は、もう泣き出し相な声だ。明智にも二郎にも、彼女の心持がよく分った。()(かく)も一応縛ってやるのが(むし)ろ慈悲である。二人は彼女の云うがままに、明智の細い帯を解いて、ホールの柱へ、型ばかりに文代を縛りつけた。
丁度その時、奥の間を忍び出た賊の部下(洋子の死体を埋めた男)が、玄関の横手の小部屋に潜み、ドアの蔭からこの様子を(うかが)っていたが、玄関の三人は少しも気づかなかった。その小部屋には、やっぱり手品の道具であろうか、寝棺(ねがん)の様な黒い箱が置いてある。中には何が這入っているのか、文代すら少しも知らぬのだ。若しそれを知っていたら、彼女は決して、その夜明智を手引きする様な愚かな真似はしなかったであろうものを。
文代を縛り終った明智と二郎とは、外の警官を呼び込む前に、先ず敵の様子を探って置こうと、まるで泥棒みたいに足音を盗んで奥へ奥へと忍込んで行った。
鍵の手の廊下は真暗だ。両側の部屋にも燈火(あかり)はない。ただ突き当りの通風窓からボンヤリ明りがさしているばかりだ。賊はその部屋にいるのであろう。

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