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魔术师-奇中の奇(2)

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示: 死体の上には、例によって、早咲きの桜の花弁が、雪の様に撒(ま)きちらしてあった。死体を飾るこの花びら、さい前聞えた横笛(
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 死体の上には、例によって、早咲きの桜の花弁が、雪の様に()きちらしてあった。死体を飾るこの花びら、さい前聞えた横笛(フリュート)の葬送曲、凡てが()つての奥村源造のやり口である。
蛇は人々の立騒ぐ物音に驚いたのか、死人の頸を離れ、スルスルと床を這って逃げようとした。
「畜生め、畜生め」
気の強い一郎は、いきなりそれを追って、蛇の頭を革のスリッパで踏みにじった。
蛇はピチピチ躍り廻って、一郎の足に巻きついて来たが、頭を踏み砕かれては、おしまいだ。もろくもグッタリと死に絶えてしまった。
一方では二郎と妙子とが、父を蘇生(そせい)させようと、色々介抱して見たが、善太郎氏は遂に(よみがえ)らなかった。
「だが、一体この蛇は、どこから入って来たんだろう」
悲歎(ひたん)の数分間が過ぎて、やっと気を取直した二郎が云った。
ドアには少しも隙間がなかった。庭に面した窓のガラス戸は、皆釘づけになっていた。天井の通風孔には、厳重に金網が張りつめてあった。それらを凡て調べて見たが、どこにも破損した箇所はない。
不思議だ。蛇だけならまだしも、蛇の外に人間が入って来た筈だ。そして、善太郎氏の死に切ったのを見届けて、又煙の様に出て行った筈だ。なぜと云って、蛇には横笛も吹けないし、花びらも撒けないからである。
魔術師奥村源造は死んでしまった。彼の死体は共同墓地で腐っている。それにも拘らず、奥村源造は生きているのだ。彼は彼自身の名札を示し、生前と寸分違わぬ不思議の手段によって、敵と狙う玉村氏を殺害したのだ。
読者諸君、この奇怪事を何と解釈すればよいのであろうか。寝室は釘づけにした箱の様に密閉されていた。その中へ蛇が()()ったのさえ不思議であるのに、蛇の何百倍も容積のある一人の人間が、自由に出入りしたのだ。手品の箱なら種仕掛けもあろう。だが、この部屋には絶対に仕掛けのないことが分っている。つまり、全然不可能なことが行われたのだ。
一郎も二郎も妙子も、父を失った悲歎に加うるに、この不可解事を見せつけられ、まるで思考力を喪失(そうしつ)したかの如く、茫然として為すすべを知らなかった。
兎も角も警察に知らせなければならぬ。一郎は電話室へ走って行って警視庁と明智のアパートへこのことを報じた。
やがて、波越警部と明智小五郎がやって来た。彼等は同じ事件で、同じ玉村家で再び顔を合せた。
綿密此上(このうえ)もない調査がくり返された。併し、何の新発見もない。
「明智さん。あなたのご意見は? 残念ながら、僕には、まるで見当がつきません」
波越警部は正直に打開(うちあ)ける外はなかった。
「そうです。不可解と云えば不可解です」明智は流石にいつものニコニコ顔ではなかった。「密閉されたる部屋に人間が出入り出来ないのは、云うまでもありません。仮令彼が合鍵を持っていたとしても、見通しの廊下にちゃんと番人がいたのですからね。
しかも、あの書生は、一点疑う余地のない人物です。もう三年も此家(このいえ)に雇われている上に、正直者と評判の男です。又仮令あの男が犯人を見逃がしたとしても、家の中には沢山の召使達がいるのだし、玄関にも裏口にも人の忍び入った形跡がないのだから、不思議はやっぱり同じ事です。
そういう考え方をすれば、不思議は色濃くなるばかりです。併し、殺人が行われたからには、犯人が入らなかった筈はない。波越さん、あなたは『蜜柑の皮をむかずして中身を取出す法』というのをご存じですか。高等数学の数式上では、それが可能なのです。つまり、この犯罪は、中学などでは教えない、高等数学に属するものかも知れませんね」
明智は妙なことを云い出した。一体高等数学の犯罪なんて、あるものかしら。又、高等数学を心得た犯人は、そんなに易々と密閉された部屋に入り得るものだろうか。
「目の角度を変えるのです。同じ物体でも、正面から、うしろから、横から、斜めからと、色々な見方がある。そして、見方を変えるに従ってその物体も、ある場合には、まるで違ったものに見えるではありませんか」
波越警部は、明智の云う意味がボンヤリと分って来る様な気がした。
「では、若しやあなたは、……」
彼はハッとした様に顔色を変えて、明智の目の中を覗き込んだ。ボンヤリと分って来た意味が余りにも意外な、恐ろしい事柄であったからだ。

 

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