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魔术师-燃える骸骨(1)

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示:燃える骸骨 親子四人は、声を限りにわめき罵(ののし)ったけれど、復讐鬼はもう相手にしなかった。彼は唯(ただ)黙々として煉瓦積
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燃える骸骨


 親子四人は、声を限りにわめき(ののし)ったけれど、復讐鬼はもう相手にしなかった。彼は(ただ)黙々として煉瓦積みを続けていた。が、間もなく、その物音さえもしなくなった。扉の外に、完全な煉瓦の壁が出来上ったのである。
 狭いといっても、六畳程の部屋だ。昔の奥村源次郎の様に、急に窒息する気遣いはない。だが上下四方とも厚い煉瓦で完全に密閉された穴蔵だ。いつかは酸素もなくなるであろう。いや、それよりも、空腹の方が先に来るかも知れぬ。いずれにもせよ、じっとしていたら、死ぬ外はないのだ。
 煉瓦の壁を打破る様な、鋭利な武器はない。たった一ヶ所、外へ抜け出す可能性があり相に思われるのは、源次郎の横わっている洞穴だが、そこの土を掘る為には、恐ろしい骸骨に手を触れなければならぬ。死者の悪念におびえ切った四人のものは、まだその洞穴へは入って行く勇気がなかった。
 彼等は乏しいライターの光に、お互の顔を見合わせて、冷い床の上に坐ったまま、黙り込んでいた。
 黙っていれば、黙っている程、底冷えのする地底の夜気と共に、生埋めの恐ろしさが、ひしひしと身に迫って来る。
「アア、駄目だ。ライターのベンジンがなくなってしまった」
 一郎がおびえて叫んだ時には、ライターはもう、螢火(ほたるび)の様な果敢(はか)ない光になっていた。
「この上光までなくなっては耐らない」
 二郎が唸る様に云った。
「アア、どうしましょう。怖いわ」
 妙子は父親の膝にすがりついた。
 だが、消え行く燈火を、どうとり止めることが出来よう。螢火が淋しく二三度(またた)いたかと思うと、ライターはとうとう消えてしまった。
 闇と寒さと、墓場の様な恐ろしい静寂(せいじゃく)の中に、四人の者は、お互の身体に触れ合うことによって、僅かに一人ぼっちでないのを確めながら、どうする智恵も浮ばず、黙りこくっていた。
「誰かマッチを持っていないか。一本でもいい。お前達の顔を見ないで、こうしているのは(たま)らない」
 善太郎が我慢がし切れなくなって云った。
 一郎も二郎も、その言葉に励まされて、ポケットというポケットを探して見た。
「アア、あった。だが、たった三本です」
 二郎が情ない声で云った。
「あったか。早くつけてくれ。早く暗闇を追っぱらってくれ」
 シュッという音がしたかと思うと、部屋中が日の出の様に明るくなった。闇に慣れた目には、マッチの光さえ非常にまぶしく感じられた。
 四人は、その光の中で、これが最後という様に、お互の顔を眺め合った。
 丁度その時、マッチの軸がまだ燃え切らぬ内に、非常に変なことが起った。
「兄さん、ちょっと、あれ動いてやしない? ネ、動いてるわね」
 妙子のゾッとする様な囁き声に、一同例の洞穴を見ると、ゆれる(ほのお)のせいではない。確かに、着物を着た源次郎の骸骨が動いている。
「アッ、こちらへ歩いて来る。アレー」
 妙子の悲鳴に、男たちもギョッとして立上った。
 骸骨は断末魔の苦悶の姿をそのまま、洞穴を出て、一歩二歩と歩くともなく漂うともなく、こちらへ近づいて来る。幻覚ではない。()り固った五十年の妄執(もうしゅう)が、生命なき髑髏(どくろ)を歩かせたのであろうか。
 一同はそれを見ると、余りの不思議さ、物凄さに、思わずタジタジとあとじさりをしたが、その途端、二郎の指の力がぬけて、まだ燃えているマッチが床に落ちた。
 と同時に、ボッという恐ろしい音がしたかと思うと、部屋の中が真昼の様に明るくなった。
 床に落ち散っていたフイルムに火が移ったのだ。
 小型とは云え、十数巻のフイルムが、映写したまま、鉋屑(かんなくず)の山の様に放り出してあった。それが瞬く内に燃え尽す光景は、形容も出来ないすさまじさであった。
 狭い密室内は、むせ返る煙の渦に満たされ、螺線形(らせんがた)のフイルムを燃え走る火焔は、のたうち廻る無数の真赤な蛇だ。
 まるで火山の噴火孔(ふんかこう)熔鉱炉(ようこうろ)真唯中(まっただなか)に落ちこんだのと同じこと。まばゆさに目をあいていることも出来ぬ。鼻をつく異臭にむせて、息も絶え絶えの焦熱(しょうねつ)地獄だ。
「ア、お父さん。……それは何です。……どうなすったのです」
 ()き込みながら、二郎が非常な恐怖に撃たれて、あえぎあえぎ叫んだ。
 一郎も、妙子も、苦悶の内に、夢見心地で父の恐ろしい姿を眺めた。

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