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虞美人草 七 (1)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示: 燐寸(マッチ)を擦(す)る事一寸(いっすん)にして火は闇(やみ)に入る。幾段の彩錦(さいきん)を捲(めく)り終れば無地の境(さかい)
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 燐寸(マッチ)()る事一寸(いっすん)にして火は(やみ)に入る。幾段の彩錦(さいきん)(めく)り終れば無地の(さかい)をなす。春興は二人(ににん)の青年に尽きた。狐の袖無(ちゃんちゃん)を着て天下を行くものは、日記を(ふところ)にして百年の(うれい)(いだ)くものと共に帰程(きてい)(のぼ)る。
 古き寺、古き(やしろ)、神の森、仏の丘を(おお)うて、いそぐ事を()せぬ京の日はようやく暮れた。倦怠(けた)るい夕べである。消えて行くすべてのものの上に、星ばかり取り残されて、それすらも判然(はき)とは映らぬ。(またた)くも(ものう)き空の中にどろんと溶けて行こうとする。過去はこの眠れる奥から動き出す。
 一人(いちにん)の一生には百の世界がある。ある時は土の世界に入り、ある時は風の世界に動く。またある時は血の世界に(なまぐさ)き雨を浴びる。一人の世界を方寸に(まと)めたる団子(だんし)と、他の清濁を混じたる団子と、層々相連(あいつらな)って千人に千個の実世界を活現する。個々の世界は個々の中心を因果(いんが)の交叉点に据えて分相応の円周を右に(かく)し左に劃す。(いかり)の中心より(えが)き去る円は飛ぶがごとくに(すみや)かに、恋の中心より振り(きた)る円周は(あと)空裏(くうり)に焼く。あるものは道義の糸を引いて動き、あるものは奸譎(かんきつ)(かん)をほのめかして(めぐ)る。縦横に、前後に、上下(しょうか)四方に、乱れ飛ぶ世界と世界が喰い違うとき秦越(しんえつ)の客ここに舟を同じゅうす。甲野(こうの)さんと宗近(むねちか)君は、三春行楽(さんしゅんこうらく)の興尽きて東に帰る。孤堂(こどう)先生と小夜子(さよこ)は、眠れる過去を振り起して東に行く。二個の別世界は八時発の夜汽車で(はし)なくも喰い違った。
 わが世界とわが世界と喰い違うとき腹を切る事がある。自滅する事がある。わが世界と(ひと)世界と喰い違うとき二つながら崩れる事がある。()けて飛ぶ事がある。あるいは発矢(はっし)と熱を()いて無極のうちに物別れとなる事がある。(すさ)まじき喰い違い方が生涯(しょうがい)に一度起るならば、われは幕引く舞台に立つ事なくして(おのず)からなる悲劇の主人公である。天より賜わる性格はこの時始めて第一義において躍動する。八時発の夜汽車で喰い違った世界はさほどに猛烈なものではない。しかしただ()うてただ別れる(そで)だけの(えにし)ならば、星深き春の夜を、名さえ()びたる(しちじょう)に、さして喰い違うほどの必要もあるまい。小説は自然を彫琢(ちょうたく)する。自然その物は小説にはならぬ。

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