まことに気楽な生活であり、たわいない雑談をしていれば、一日がすぎていく。しかし、ひまを持てあまし、ふつうの話題にあきてくると、議論はしだいに過激な方向へと進みはじめた。
「どうもおれは、あのゾウというやつは虫が好かん」
「まったくだ。ずうたいの大きいやつは、尊大でいかん。われわれの存在を、無視しているような態度だ」
ハトたちは不満をくすぶらせた。これはゾウのおこぼれで食っている屈辱感からきたものだが、だれもそれをみとめたがらず、口にもしなかった。ゾウの悪口をいう以外に、その処理法はなかったのだ。
「ひとつ、みなでいっせいに飛びかかり、くちばしで突っついてやろう。団結と奇襲をもってすれば、勝てないことはない」
軽薄な一羽が興奮して叫んだが、ほかのハトがとめた。
「それはむりだ。もっといじの悪い、巧妙な手段でやっつけてやろうではないか」
ハトたちは、どうすべきかを相談した。陰謀の計画を練るぐらい、世に楽しいことはない。連日、策をたてるのに熱中した。やがて名案がまとまり、代表のハトがゾウのそばへ行き、もっともらしく話しかけた。
「偉大なるゾウさま。あなたこそ動物の王でございましょう」
「そうかね、ありがとう」
「それなのに、人間に飼われて満足しているとは、なさけないではありませんか」
「そんなことは、いままで考えもしなかった。しかし、いわれてみると、そうかもしれぬ」
「いまこそ目ざめて戦うべきです。人間よりからだは大きく、力は強く、頭脳も大きく、鼻もあるではありませんか。負けるはずは、ありません。その実力を示すべきです」
ハトの陰謀は、気のいいゾウをおだてて、あばれさせる点にあった。そして人間にやられるのを見物し、笑いものにしようというのだ。そうなれば、より大きい屈辱にまみれるのはゾウであり、自分たちではなくなる。
しかし、ちょっとした誤算があった。ゾウが予想以上にひとがよかったのだ。ゾウは本気でそう思いこみ、頭はさえ、体内に力がみなぎった。かこいをけやぶり、町へあばれだし、目にふれるもの、鼻にふれるもの、すべてを破壊しはじめたのだ。数発の銃弾をくらって、息をひきとるまでやめようとしなかった。
だが、いずれにせよ、ハトたちにとっての長い屈辱の日々は終りをつげた。祝福すべきことではあったが、ハトたちは生存競争のはげしいよそでは暮らすことができず、数日のうちに、みな空腹のため悲しく死んでいった。