公園での事件
学校の帰りにハラ・ミノルとクニ・ハルコは公園に寄った。ふたりは同級でもあり、家もとなりどうしなので、特に仲よしだった。
どんなに科学が進んだ時代になっても、公園のながめは、むかしとあまり変らない。草花にチョウが飛び、噴水のそばでハトが遊んでいた。
ふたりは道を歩きながら話し合った。
「早く宇宙で活躍したいなあ」
「あたしもよ。星のあいだを飛びまわるの、すてきでしょうね」
いつも宇宙にあこがれる話になってしまう。ミノルのお父さんは宇宙船会社の技師で、ハルコのお父さんは天文学者。だから、ふつうの子供より、宇宙への関心が強かったのだ。
その時、公園の道をむこうから、ひとりの男が歩いてきた。がっしりしたからだで、目の鋭い男だ。ミノルは、どことなく変なところのある人だな、とは思ったが、そのまますれちがおうとした。そのとたん、ふたりは気を失ってしまった。
ミノルは目をさました。なぜ気を失ったのだろう。どれくらい、倒れていたのだろう。まず頭に浮かんだのは、この二つだった。しかし、ハルコも、そばに倒れているのを見て、考えるのをやめ、急いでゆり動かした。
「大丈夫かい」
「ええ……」
ハルコも目をあけた。おたがいにけがのなかったことを知り、ふたりはひとまず安心した。だが、あらためてあたりを見まわし、同じ言葉を叫んだ。
「ここはどこ……」
さっきの公園ではなかった。いままでに見たことも、空想したことさえない光景だった。暗い灰色の空がある。黄色い色をした、弱い光の大きな太陽が照っている。こんなことってあるだろうか。
地面は青っぽい色の砂だった。それは高く低く波のように、遠い地平線まで広がっている。空気がうすいせいか、息苦しかった。
ミノルは目をこすりながら言った。
「いやな夢を見ているようだ」
「地球上ではないようね。あたしたち、宇宙人にさらわれて、連れてこられたのかしら」
「だけど、こんな場所にさらってきて、どうしよういうのだろう」
|砂《さ》|漠《ばく》には、建物ひとつ見えなかった。だれが、なんのために、ふたりを不意にここへ移したのだろう。その原因を考えようとしたが、まるでわからなかった。
「これから、どうしたらいいのかしら」
「まず、落ちついて方法を考えよう。あわててかけまわると、疲れるだけだ」
「むこうに見えるの、森じゃないかしら」
と、ハルコが指さして言った。十キロメートルほどむこうに、植物らしい緑色の森がある。
「ほんとだ。あれをめざして歩こう。植物が育っているのなら、水もあるはずだ」
「夜になって星が出たら、ここが地球から遠いのかどうかの見当がつくんだけど」
ハルコはお父さんから教わって、星座についてはくわしかった。
「たのむよ、そして、朝になったら森の木に登って遠くを見よう。少しでも役に立ちそうなものを、この星でさがそう。ふたりで力を合わせ、なんとかして地球へ帰るんだ」
「ええ、がんばるわ」
ふたりははげましあって、歩きだそうとした。しかし、すぐ足を止めた。変な物音を聞き、地ひびきのようなものを感じたからだ。なにげなく振りむき、ふたりは驚いた。
どこから出現したのか、大きな怪物が歩いてくる。古代の地球の恐竜のような形で、赤と黒のまざった、気持ちの悪い色をしていた。
ハルコは小さな声で言った。
「ねえ、早く逃げましょう」
「だめだ、逃げても、すぐ追いつかれる。そうだ、横になって砂でからだをかくそう。それしか、方法はない」
急いで身をふせ、手ですくって、青い砂をからだにかけ、怪物にみつからないようにした。しかし、ぶきみにほえる声も、地ひびきも、しだいに大きくなる。さらに近づいてきたらしい。
叫び声をあげて走りだしたいが、そんなことをしたら終りだ。身動きをしてはいけないのだ。ひや汗が流れ、心臓がはげしく動く。
地ひびきが止まった。いよいよ襲われるのだろうか。砂のなかでふるえているふたりに、どこからともなく声がひびいてきた。
「ハラ・ミノルくん。クニ・ハルコさん。もう大丈夫です。起きてください……」
これを聞いて、ミノルはハルコにそっとささやいた。
「声がしたようだけど、こわさで、ぼくの頭が変になったせいだろうか」
「あたしも聞いたわ。助けがきたのかしら。思いきって起きてみましょう」
おそるおそる首をあげたふたりは、またも信じられないような光景を見た。怪物も遠くの森もすべて消え、ここは明るいドーム状の部屋だった。そばには目の鋭い男が立っている。さっき公園で会った男だった。
「なにがどうなっているのか、ぼくにはさっぱりわからない」
ミノルが言うと男は笑いながら、
「きみたちを驚かして悪かった。しかし、試験のためにはしかたなかったのです」
「試験とはなんのことです。それより、ここはいったい、どこなのですか」
「ここは、公園の地下にある、宇宙研究所の一室だ。きみたちがいま見たのは、ドーム一面に、映写された映画だ。内部の空気の調節もでき、地ひびきも起こせる、特別じかけの映写室だったのだよ」
映画の怪物に驚かされたのだと知って、ハルコは文句を言った。
「なんで、こんなたちの悪いいたずらをしたの。ひどいわ」
「じつはいま、宇宙基地で、優秀な子供を求めているのだ。もちろん希望者はたくさんいるが、勇気があって落ちついた人でなければ役に立たない。これまで、この部屋でたくさんの子供たちを試験してきたが、みんな泣きだしたり、あわてふためいたりして、合格者はひとりも出なかった。きみたちふたりが、初の合格者だ。わたしは宇宙特別調査隊のキダ・マサオという者ですよ」
男は、身分証明書を出した。目が鋭いのは、宇宙で活躍しているためだったのか、と思いながらミノルは言った。
「合格すると、どうなるのですか」
「宇宙での仕事を手伝ってもらえるとありがたい。しかし、気が進まなければ、ことわってもいいし、それに、おうちの人の許しも必要だ」
ハルコは飛び上がって答えた。
「わあ、うれしい。あたしなんでもやるわ。うちでも賛成してくれるわよ」
ミノルも同じように答えた。ふたりの家は、いずれも宇宙の仕事には理解がある。ふたりは顔を見合わせ、目を輝かした。あこがれていた宇宙で活躍できるのだ。夢のような気持ちだったが、これは夢でもなければ、さっきの怪物のように映画でもないのだ。