オロ星の怪植物は、豆のさや[#「さや」に傍点]のようなものを空へ投げ上げつづけている。そのひとつを、宇宙船が採集して戻ってきた。調べてみると心配していたとおり、やはり種子だった。その飛び方は、少しずつだが、しだいに高くなっていくようだ。
オロ星人たちは、困りきった顔で話し合った。
「このままだと、やがては大気の外へも飛び出し、宇宙を流れはじめるだろう」
「そして、ほかの星までだめにしてしまうのだ。それを見ながら、なんの手も打てない。くやしくてならないな」
植物退治の研究のほかに、宇宙へ流れ出るのを防ぐ研究もしなければならなくなった。だが、いずれもまだ名案が立っていない。
そばで聞いていたハルコが、突然言った。
「そうだわ、あれを使えばいいかもしれないわ……」
テリラ星のことを思い出したのだ。あそこでは大きな鳥が、かたい木の実を、飛びながらくちばしで突ついていた。それを利用したらどうだろう。
プーボも口を出した。
「その卵をいくつか持ってきています。かえしてみましょうか」
その案は実行に移された。オロ星人は卵を早くかえす装置、鳥を早く育てる薬品などを持っていた。そのため、すぐに大きくなった。また、育てながら、命令どおりにやるよう訓練をした。
やってみると、鳥たちはよく働いてくれた。空を舞いつづけていて、植物が種子を投げ上げると、飛びかかって、くちばしでうち落とすのだ。
夜になると、鳥たちは、海の船へ戻ってくるよう訓練されている。陸上で眠ると、植物にやられてしまうおそれがあるからだ。
「あのおそろしい鳥も、訓練によっては、ずいぶん役に立つものね」
と、ハルコは感心した。鳥の数をふやせば、種子が宇宙へ飛び出すのを、いちおうは防げそうだった。
そのため、キダやミノルたちは、テリラ星へ卵を集めに行くという仕事を引き受けることにした。
宇宙船には、こんどもデギが同乗することになった。途中にあった荒れはてた星を、もっとよく調べるためだった。万一の場合には、オロ星の人びとは、そこへ逃げなければならないのだ。
宇宙船は、オロ星の月の基地を出発し、まず荒れはてた星に立ち寄った。空気も水もありながら、生物がなにひとついない星というものは、なんとなく変な気持ちだ。きみが悪い。
みなは宇宙服を着て外へ出た。砂原だけが、はてしなくひろがっている。歩きはじめてしばらくすると、ミノルが叫んだ。
「なんでしょう。あのへんでキラリと光ったものがあった」
その方角に歩き、近よって拾い上げてみると、それは金貨だった。わけのわからない文字と、もようとがしるされてある。
みなはふしぎがった。地球のものでも、オロ星のものでもないのだ。この砂だけの星の上に、なぜ金貨が落ちているのだろう。別な宇宙人のものなのだろうか。
そのうち、金貨をながめていたプーボは、もようが、この星の陸地の形に似ているようだと言った。
「となると、この星で作られた金貨ということになる。しかし、どう見ても、文明はおろか、生物ひとつない星だが……」
と、デギが首をかしげると、キダは言った。
「あるいは、大むかしに、なにかが起こって、ほろびたのかもしれない。もっとくわしく調べてみることにしよう」
みなは注意ぶかく歩きまわった。そして、遺跡を発見することができた。石でできた大きな建物だが、風に運ばれた砂で、大部分がうずまっていた。なにげなく見ていたら、気がつかなかったかもしれない。
そのようすから、地球でいえばエジプト時代ていどの文明が、この星にかつて存在したらしいと思われた。
「それが、どうしてほろんじゃったのかしら。原爆戦をやったとは考えられないし、悪い病気でも、植物まで死ぬはずはないし……」
と、ハルコが言った。キダは入り口をみつけて、建物のなかに入り、その内側の壁を見て、みなを呼んだ。
「その手がかりになりそうなものがあるぞ。ここに絵が|描《か》いてある……」
なかは静かで暗かった。だが、ライトをあて、その絵を、順を追って見ると、おおよそこんなことがわかった。むかし、この星に大変な害虫が発生したのだ。
カブトムシのような形だった。それがたくさんふえ、あらゆる植物を食い荒らしはじめたのだ。それと戦い、なんとかして防ごうとするが、虫のほうが強力だ。動物も死に、住民たちは食べ物がなくなり、しだいにほろんでいった。
この絵は、なんのために描かれたのだろう。
いつの日か訪れる、ほかの星の人への注意のためなのだろうか。ただ、悲しい最後を描いておきたかっただけのことなのだろうか。それは知りようがなかった。
虫は陸上ばかりでなく、ついには水中の海草までも食いつくし、このような、動くもの一つない星にしてしまったのだろう。
「かわいそうな事件ね。宇宙では、いろいろな悲しいことが起こっているのね」
と、ハルコが涙ぐんで言った。しかし、デギは、まったく別な言葉を口にした。
「わたしはその害虫を、なんとかして手に入れたい。あらゆる植物を食いつくし、このような砂だけの星に変えてしまった、すごい虫です。これなら、オロ星の怪植物をやっつけてくれるのではないかと思えるのです。わたしはこの星で、それをさがしたい」
「テリラ星で鳥の卵を集める仕事のほうは、簡単なことですから、わたしたちだけでやってもいいですよ」
「お願いします。そのあいだに、わたしはその虫の卵をみつけます。寒い地方の海岸の砂のなかあたりに、きっと残っているでしょう」
「では、食料品や必要な物を残していきましょう。ご成功を祈ります」
と、キダは言い、デギに別れをつげ、宇宙船を出発させた。
テリラ星で鳥の卵をたくさん集め、帰りに砂の星に寄ると、デギは大喜びしていた。
そして、持っていたびんのなかの白い粒を見せた。
「とうとうみつけましたよ。これがそうです。たくさんあるでしょう。これをふやして使えば、さすがの怪植物も全滅してしまうでしょう」
「よかったですね、でも……」
と、ミノルは言った。
「植物をやっつけたはいいが、つぎには、手のつけようのない虫に、悩まされることになるんじゃないでしょうか」