砂の星でデギがみつけた虫の卵。それをながめて、キダやミノルやハルコは話し合った。
「ほんとうにすごい虫で、オロ星の植物よりも強いのだろうか……」
「そうだとしても、へたに使ったら、ここのように、砂だけの死の星にされてしまうかもしれないな」
しかし、いくら話してみてもわからないことだ。ひとまず、オロ星の月の基地へ帰ることにした。
出発の前に、みんなは宇宙船をよく洗った。卵をくっつけて持ち帰り、大さわぎのもとになったら困るからだ。月の基地では、人びとが待ちかねていた。植物が空に投げ上げる種子の数が、だんだん多くなってきている。うち落とすための鳥も、ふやさなければならないのだ。
だから、運んできた鳥の卵は、すぐにそのために使われた。宇宙へ進出しようとする植物と、あくまで防ごうとするオロ星人との戦いだ。それは休むことなくつづいている。
だが、このままでは、そのうち突破されてしまうことだろう。早いところ、植物を退治する方法をみつけなければならない。
会議が開かれた。そして、虫の性質をよく調べるため、砂の星に研究所を作るという方針がきまった。また、キダやミノルたちが、その仕事を引き受けることになった。
砂の星に小さな家が建てられた。みなはそこに住み、まわりにオロ星から運んできた、いろいろな植物の種子をまいた。
しかし、怪植物の種子は持ってこなかった。虫との力くらべをやらせてみたいのだが、ここでふえはじめたら、手のつけようがなくなるからだ。
いっぽう、虫の卵をかえしてみた。虫の力は考えていた以上にすごいものだった。大きなカブトムシのような形で、たちまちのうちに植物を食いつくしてしまう。
ある夜、寝ていたハルコはゴソゴソという音で目をさました。それから、あたりを見て大声をあげた。
「あら、大変よ。虫が入ってくるわ……」
戸のすきまから、つぎつぎに虫が入ってくる。わずかな時間で、たくさんにふえたらしい。
キダも叫んだ。
「あ、食べ物がやられている」
虫たちは、パンの粉や、ほしブドウなど、植物からとれた品をねらってやってきたのだ。さらに、紙でできたものまで食われかけていた。
人間は襲わないようだが、飛びつかれると、いい気持ちではない。ミノルは、そばにあった殺虫剤をまいてみたが、なんのききめもなかった。
プーボは、虫をつかんで外へ捨てようと、窓をあけた。そのとたん、かえって多くの虫が入ってきてしまった。みなは家から逃げだし、宇宙船へと避難した。
つぎの日に行ってみると、家の中はさんざんに荒らされていた。もめんのシーツまで、あとかたもなく食べられてしまっていた。この星のむかしの住民たちは、こうして生活ができなくなり、うえ死にしていったのだろう。
しかし宇宙船のなかには栄養剤が残っていたので、みなの食事は、なんとかなった。
「これからは毎日、栄養剤だけを食べることになるわけか。つまらないな」
と、ミノルがこぼした。
虫の強さと、ふえかたの早さとはよくわかった。つぎに知りたいのは、退治法だ、キダは、いろいろな殺虫剤を使ってみたが、どれもだめだった。
もっとも、絶対に死なないわけではない。寿命がくれば死ぬし、食べる植物がなくなれば死ぬ。しかし、あとにはたくさんの卵が残り、いつふえはじめるのかわからないのだ。
虫の卵は丈夫で、薬でも、熱でも、電波でも死なないのだった。虫が怪植物をやっつける力を持っていたとしても、これでは困る。キダは、虫の力だけを利用する方法はないかと、その研究をつづけた。
虫の口から出る液体を集め、それを植物にふりかける実験もやってみた。しかし、すぐ使わないとききめがなかった。ここからオロ星に運んでいくうちに、役に立たないものになってしまう。
虫に放射線を当てたら性質が変るのではないかと思い、それもやってみた。しかし、虫は放射線を受けつけなかった。
なにも成果があがらず、むだに何日かがすぎていった。
そのうち、デギが宇宙船でやってきて言った。
「虫の研究はどうですか」
「それが、じつは、あまり進んでいないのです……」
と、キダがいままでのことを説明した。ミノルはオロ星の植物のことを聞いた。
「怪植物のほうはどうですか」
「空へうちあげるタネの数が、ますますふえてきました。鳥の力ではまにあわない。前よりもずっと高く飛ぶようになり、大気の外へ出るのまで現われた……」
と、デギは、ため息をついた。
「いまのところは宇宙船が見張り、小型ミサイルをぶつけてうち落としていますが、月の基地で作るミサイルより、タネのふえかたのほうが、ずっと早い」
「とすると、やがては突破されてしまうでしょうね」
「そうなのです。こうなったら虫を使う以外にないと、みなの意見がまとまりました。きょうは、それを伝えにきたのです」
「しかし、もう少し研究してからのほうがいいでしょう。この虫が怪植物に勝てたとしても、あとが大変ですよ。この星のように、砂だけになり、永久に植物が育たない。植物をうえても、すぐに卵がかえって、虫が食べてしまうからです」
と、キダが注意したが、デギははっきり言った。
「そのことも、みなは覚悟しています。いまは怪植物が問題なのです。このままだと、宇宙ぜんたいが迷惑します。しかし、虫のことはオロ星だけの問題ですみます」
オロ星の人たちは、ほかの星々のこともよく考えて、こう決心をしたのだった。
鳥の支配するテリラ星へでも、長い年月をかけて移往すれば、なんとか生きのびることもできる。そのため、早く虫をふやして運んできてもらいたいというのだ。
「しかし、そうはいっても……」
と、キダはどうしたものかと迷った。いまが重大な場合なのだ。
みなはデギも加えて、虫の力だけを利用し、あとに問題を残さないうまい方法はないかと考えた。時間をかけて研究すればできることかもしれない。だが、急がなければならないのだ。
みなが、だまったまま顔を見合わせているとき、突然、プーボが言いだした。
「ひとつ名案を思いつきましたよ……」