「ママに何かあったら、颯太がちゃんと守るんだぞ。男の子なんだからな」
もちろん冗談なのだが、息子の反応を見てみたかった。
僕がそう言うと、颯太は一瞬ポカンとしていたが、「わかった」とでも言いたそうな力強い表情をみせ、唇をかみ締めた。
翌日、出張先のホテルで横になりながら妻に電話を入れた。
「おい、どう? 大丈夫か?」
「私は大丈夫なんだけど、ねえ、ずっと颯太が私のそばから離れないんだけど、あなた何か言ったの?」
開口一番不思議そうに質問された。僕は一瞬何のことか分からなかったが、颯太とした約束のことを思い出した。
「しかもウルトラマンとゼットンの人形持って。ずっと離さないの」
ママを守る、そのためにウルトラマンとゼットンの力を借りるんだ! 同じ男として、息子の思いはすぐに理解できた。
いいぞ、颯太、それでこそ息子だ。妻は不思議がっていたが、僕は息子の事が誇らしく思えた。
結局僕がいない三日間、颯太はずっとウルトラマンの人形を持って、ママの傍らにいてくれたらしい。
後日談がある。実家に帰って母にその話をした。
「颯太君はたくましいねえ」
「泣き虫だけどね」
「それにしても、やっぱり親子だね」
「え?」
「あんたも小さいころウルトラマンの人形持って、妹をいじめた子と喧嘩したことあったじゃない」
「は?」
30年前の自分もウルトラマンの力を借りていたらしい。少し赤面したが、親子だからしょうがないかと思い、とりあえず照れ隠しに寝ている颯太をこちょこちょしておいた。枕元には相変わらず無造作にウルトラマンとゼットンが置いてあった。