よく見ると椿の花は萼を合わせてあッち向きこッち向きに咲いている。そうしなければ花が競《せ》り合う自然の知恵だろうけれど、背中合わせの姿は妙になまめかしい。
三人姉妹が逆縁になりませんようにと思う中で、たいていは姉さん椿が落ちる。それから三日、中の姉さん娘ざかり。落ちた花をそのまま花瓶の花と対照させておくとなかなかに風情がある。風情よりもその会話が私にはおもしろい。
「いいかげんに落ちなよ、グズだねえ」
「いやよ、わたしは花の盛りよ。姉さんこそひがまないで早く往生したらどう?」
「ご主人さまは通人だからね、落花こそ美しいってさ、フフフ」
「見ててごらん、今にシミ出るしおれ花」
「ふん、くやしかったら落ちてごらんよ」
「いやなこった」と首ふったからたまらない、言いも終わらず中の姉さんトンころり。二人並んで苦笑の姿いとおかし。さてさて末の娘は蕾《つぼみ》も固いまだ七つ。七日経ってやっと紅生姜《べにしようが》の如き赤をのぞかせている。
「あんこ椿は恋の花、出て行く船に手をふって……」と、椿は乙女と決めているのは人間の勝手であって、
もしかして椿は男かもしれぬ
 と考えるとき、落ち重なる椿の花は雑兵の無念さとも見えてくる。だけどあの花びらの冷えは女のものである。蜜を吸うて自分の唇よりもぬくい体温に私はまだ逢っていない。
赤は赤の中へ、白は白の中へ、その中でキワ立つ個性こそ個性だと私は思ってきた。銀杏《いちよう》の葉を拾ってみても一枚としておなじ形はないではないか。紅一点が目立つのは当たり前、女は女の中の女でありたい、男もまた無意識にそう思っているのではないかしら。そのくせ同類の中での気安心も求めている。そんなこんながからみ合っての、
赤は赤の中へ、白は白の中へ、その中でキワ立つ個性こそ個性だと私は思ってきた。銀杏《いちよう》の葉を拾ってみても一枚としておなじ形はないではないか。紅一点が目立つのは当たり前、女は女の中の女でありたい、男もまた無意識にそう思っているのではないかしら。そのくせ同類の中での気安心も求めている。そんなこんながからみ合っての、
いちめんの椿の中に椿落つ
白い景色を出ようとはせぬ白い鳥
白い景色を出ようとはせぬ白い鳥
 ところがこの句に病む妻を重ねた人があったのを後になって知った。椿イコール血という連想は男性に多い。大手術の妻の周囲を私の椿の句がぐるぐるまわってどうしようもなかったとその人は言った。そして、どうせ助からぬいのちなら、この白い病室から一日も早く連れ出してやりたいと思ったとも言った。白い病室から解放されたかったのは妻ではなく、実はその人自身なのだが、そこまでは語らなかった。しかし、自分の運命を悟りながらも生への執着を捨てぬ白い鳥をせつなく眺めたであろう男の辛さが私には見えた。椿の花はなぜか「逃がしてやりたい」花である。
くちびるを逃がす椿の咲く山へ
沈むまで見ている花の首ひとつ
水があれば椿の花を旅立たす
沈むまで見ている花の首ひとつ
水があれば椿の花を旅立たす
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