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言葉をください27

时间: 2020-05-15    进入日语论坛
核心提示:ウルフなんかこわくないI市I川が国道と交わるところに古びたビルがある。その二階を仕事部屋としてからもう五年の歳月が流れた
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ウルフなんかこわくない

I市I川が国道と交わるところに古びたビルがある。その二階を仕事部屋としてからもう五年の歳月が流れた。
まわりは工場街で夜は無人となり、私の仕事部屋はポツンと蛍のごとき灯をともす。夜が深まると列車の音が妙に近い。
土手の下には一軒の農家があって、三枚の田をつくっている。菜の花が終わり、苺も藁ごと片付けられると土起こしがはじまる。雨の日が多くなって田に水が張られるころ、窓を開けると真の闇で、川の音をかき消す蛙の声である。六月の闇の匂いは何だろうと私はよく思う。草か煙か水の匂いか蛙の体臭か。耳をすますとどうやら小さな蛙は田の方で、牛蛙のすさまじい声は川からと聞き分けることができる。
仕事に夢中であれば河川敷の一軒ビルは何よりの環境といえよう。窓の下をトラックが通るたびに私の部屋はドドドドと揺れるが、それにも馴れた。窓を開けてカーテンを引いているその青い色が帆のようにふくらむことで、私は風の向きを知る。
ペンから心が離れると、闇は急に重量を増してくる。バリバリと走り抜ける暴走族の音がUターンして窓の下で止まったりすると、私は思わず灯を消してうずくまる。激しい口争いがあって、とつぜん階下のガラスが割れる。一枚、二枚、ああ今夜は七枚ほど割ったなと、冷静に数えているようで、やはり胸は早鐘である。
彼らの一人でも二階の灯を見ていたとしたら、そして死角になっている階段を見つけたらどうしよう。若い狼は群れをなして駆け上がって来るだろう。ドアといってもベニヤ板一枚。蹴破ってさて……想像の中で私のてのひらは汗でぐっしょりだ。三尺棒のありかをたしかめる。川向こうの電機メーカーの大看板の赤が川へ映って私の部屋は滲んだ血の彩である。小刀を握っている自分を眺めて、まさに絵金《えきん》の絵だなあと笑うゆとりが出てくるころ、やっと下の騒ぎもおさまったらしく、またバリバリと轟音を立てて次々と去っていくのであった。
いったん怖気づくともう仕事にはならない。赤い闇に馴れた目で机を押しやり夜具をのべる。窓を閉めるとこんどはヂヂヂヂヂヂヂヂと枕時計が秒を刻む音。ゴキブリが大きな音をたてることも初めて知った。
ねむろう。闇は大きなハンモック。四肢をのばすとどこかの骨が鳴って「ごくろうさんだねえ」という。「仕方ないやね、私の選んだ道だもの」──やがてけだるい幸福が睡魔をつれてやってくる。牛蛙の声も貨車の軋《きし》みも、いつからか降り出した雨の音もみんな私の子守唄である。神さまいのちをありがとう。
墓の下の男の下に眠りたや
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