素肌と木綿のTシャツが
強くふれあう時
乳房の奥から
幽かな
霧笛の音が聞こえてくる
乳白色のびんの底に
閉じ込められたような
心もとない時間
あの日
みどり児が
やっとさがしあてた
わたしの乳首を強く吸った時
静脈を昇ってくる
遠い悲しみと共に
乳房の奥で
ポーと鳴る
霧笛の音を聞いた
霧笛はわたしを
霧の岩壁へと
いざなってくれた
そこには幼いわたしが立っていて
沖へ沖へと遠ざかる
船を見送っていた
以来
何度
霧笛の音を聞いてきたことだろう
本当に
霧の岩壁に立ったことがあるのだろうか
何故
船を見送っていたのだろうか
乳房だけが知っている
記憶の原点
乳房だけが覚えている
悲しみの始まり