雷が鳴る音を
初めて聞いた
青年の
勇気のような音だ
共鳴して
私の椅子が
音を立て始める
胸の壁を激しく揺すりながら
椅子は
全身で音になろうとする
腰掛けた私の膝の上には
いつも
こどもがいたのだ
心地良い重みが
安堵というひざかけに包まれていたが―
雷鳴を受けて
無数の日常が
ひとつひとつ剥がれていく
積み重ねてきた思いが
飛び散っていく
“母”という冠も
消えていく
今
椅子には私ひとり
つめたく透き通った気配に
身震いしそうだ
何かが見えそうで何も見えない
何も見えないけれど
何かが見えそうではないか
かつて であったものが記憶の中を通過して行き
出口を見つけて
溢れ出そうとする
私の「きのう」は
もう
雪の下だ