溢れるように
綿の実が開いた
細い茎の上に ゆっくりと
立ち上がって来るものよ
その真白い灯火に
君と私の遠い影が
映し出される
出征地から届いたのが
綿の花のオシバだった
祈りは どこへ行ったのだろう
空が燃えた日も
大地が裂けた日も
人を恋うという魂のふるえが
漸く私を生かしていた
ひとつの浄化へと
時は進み
終戦という文字を包み込み
ぬかるみ
泥濘にもがいていたことさえ美しい伝説になった
今 この綿の木に
寄り添うように
君の目がある
綿の実に
君の呼吸がある
私は
記憶の糸を吐き続ける蚕蛾になった
あとから あとから
思いは 降り続けた
初秋の陽射しを浴びて
繭になったばかりの実が光る
敬虔に白く光る
ただ黙って
並んで
見ている人がいる