病室の白いカーテンごしに
声を聞く
あのうすまんけど
牛乳ビンの蓋をとってつかあさい
馴染みの
九十をこえたおばあちゃんだ
小刻みにふるえる彼女の指
その日以来
人の優位に立つと言う
傲慢な喜びを
親切と言う
美名にすりかえて
何かと世話をやきたがる私
水のように
ゆったりと ゆったりと
私のすべてを
受け入れてくれる彼女
手を合わす
おばあちゃんが私に向かって
無言で手を合わす
手に浮かぶ静脈は
海にも似て深い青だ
その青が私に流れこみ
心が 背中が 手足が
ひたひたと波立ってゆく
その夜
おばあちゃんは逝った
小さなため息を
ひとつ残して
感謝するのは
手を合わすのは
私の方だったのではと
悔いる私の前で
主を失ったベッドは
白々と ただ白々と
黙りこくっている