影法師もゆっくり椅子から立ち上がる
影法師と私は重なるギリギリの場所にいて
お互いにお互いの様子を伺っている
ねぇ 影法師さん そばにおいでよ
私もそばにいてあげるから
雲が出て 影法師の輪郭が薄れてくると
私は少し気弱になっていた
影と戯れていた幼いあの日
自分の影法師には どれだけ走っても
走っても 追いつくことはできなかった
眼の前に たったふたりきりなのに
階段を一段とばしで跳び降りて
ジャンプして 身を乗り出しても
ゆらゆら揺れるだけの影法師は
私からスルスル逃げてしまう
夕方 陽射しの向きが変わると
今度は 私の後ろを追い始める影法師
振り返ると 一定の距離を保ちながら
私に接近しそうで 接近できない
ほら 私を追い抜いてごらん
影法師に無理だとわかっていて
ため口をききながら背中を向けても
影法師は 何も語らず立ち止まったまま
背丈が幾分長くなった影法師は
ひょろひょろついて来るだけ
私が後ずさりすると 同じように
足元から後ずさりする 道化師みたいな存在
ねぇ 一体どこまでついて来るの
私は 今までどんな影法師を育ててきたの
途方に暮れて立ち止まり また歩き始める
私としっくりいかない 天の邪鬼な影法師