空はぐんぐん高くなり
反比例するように
母は小さくなっていく
できないことが増えた
記憶が途切れ始めた
手のひらに掬い取った言葉は
指の間からこぼれ落ちてしまう
けれど
過去を咲かせている母の野は
明るい
八十九年間耕してきた魂に応えて
色とりどりの花がそれぞれの位置で
誇らし気に香を放つ
歌声が聞こえるようだ
心を急がせることはない
空はこんなに大きいのだ
突き抜ける聡明な青さが
今を頷いてくれる
母が天を向く
同じ角度でわたしも空を見る
真っすぐな祈りにも似た青
わたしは
母から出発し
母は
わたしへと還ってくるのだと 知った
青天の下
こうして生きていることの営みよ
生きていることの優しさよ
生きていることの
いとおしさよ