美しいものはみにくく、まっすぐなものはよじれて見えるカガミです。
「よしよし、いいものができたぞ」
天使(てんし)をからかいたくなった悪魔は、このカガミを持って天へ向かいました。
ところが途中で、悪魔はカガミを落としてしまったのです。
カガミはくだけてちらばり、そのかけらの一つが、大きな町に住んでいるカイという男の子の目に入りました。
ちょうど、仲よしのとなりの女の子ゲルダと屋根の上で絵本を見ているときでした。
カガミのかけらが目にささったカイは、ずっと仲よしだったゲルダをにらみつけていいます。
「おまえなんか、大きらいだ!」
カイはそういうと、走っていって雪の女王に会いました。
「おいで。おまえを待っていたんだよ」
女王はカイをそりに乗せると、北の国めがけて走っていきました。
ゲルダは力イが帰ってくるのを待ちましたが、いつまで待っても、カイは戻ってきません。
「カイちゃんをさがしにいこう」
ゲルダは決心すると、人びとにカイの居場所をたずねました。
「ああ、カイは雪の女王といっしょにいったよ」
「雪の女王? その人は、どこにいるの?」
「ずっーと北の、世界の北の果てさ」
ゲルダは、雪の女王のいる世界の北の果てをめざして、ドンドン歩いていきました。
そしてようやく、雪の女王のすんでいるお城にたどり着きました。
「カイちゃんは、どこにいるのだろう」
ゲルダが城のまわりをウロウロしていると、一匹のカラスがやってきていいました。
「その子なら、王女さまと結婚して王子さまになっているよ。つれていってあげるよ」
ゲルダがカラスと一緒にお城に入っていくと、ご殿の奥で眠っている王子がいました。
「ああ、カイちゃん」
ゲルダがよぶと、王子は目をさましました。
よく似てはいるけれど、目をあけた王子はカイではありません。
ゲルダの話を聞いた王子は、馬車(ばしゃ)を用意してくれました。
そして、馬車で進んでいくゲルダをつかまえたのは、山賊(さんぞく)です。
「金を出せ!」
山賊は、ゲルダをしばりあげました。
「放しておやり」
ゲルダのロープを切ったのは、山賊の娘です。
ゲルダは山賊の娘にカイの話をすると、こういいました。
「北の女の家にいってごらん」
娘はゲルダをトナ力イに乗せて、北の女の家にいきました。
「雪の女王のご殿には、男の子がひとりいる。でも、その子は、なにもかもを忘れてしまっているのだ。だからその子がカイだとしても、あんたがだれかわからないだろうよ。それでもいくのかい?」
北の家の女の言葉に、ゲルダはきっぱりと答えます。
「いきます。大好きな力イちゃんに会いにいくわ」
カイは、雪の女王のご殿にいました。
「ぼくはどうしたのだろう。仲よしの友だちがいたはずなのに、その子の名まえも思い出せない」
つぶやくカイに、女王がいいました。
「おまえの心は凍ったのだ。ずっと、雪のご殿にいるほかないのさ」
ゲルダは、やっとのことで雪のご殿に着いて、カイを見つけました。
「ああ、力イちゃん、とうとう見つけたわ。会いたかった」
ゲルダは力イにとびつきます。
「きみは、だれなの?」
たずねる力イを、ゲルダはゆさぶりました。
「ゲルダよ。力イちゃんの仲よしのゲルダよ」
ゲルダの目から涙があふれて、カイのまぶたをぬらします。
するとその涙が、力イの目から、悪魔のカガミのかけらを洗い落としたのです。
「ああ、ゲルダ。ぼくはここで、なにをしていたんだろう」
ふたりは手をつないで、雪のご殿から出ていきました。
「あんたの仲よしを見つけたのね」
ゲルダとカイを乗せたトナカイに、手をふったのは山賊の娘です。
「もう二度と、離ればなれになってはいけないよ。ゲルダほど、あんたを大切に思っている子はいないんだから」
娘はカイにいいました。
「わかった。ぼくはずっとゲルダのそばにいる」
カイとゲルダは、自分たちの家に帰るまで、ずっと手をにぎりしめていました。