男の子が一生懸命、一生懸命作ったので、その雪だるまには命が生まれました。
その日の夕方、命が生まれた雪だるまが、一人言を言いました。
「あれ? 何か変だなあ? ぼくの体の中で、ミシミシと音がするぞ」
雪だるまは瓦(かわら)のかけらで出来た目で西の空を落ちていくお日さまをにらんで、また一人言を言いました。
「まぶしいな。ギラギラ光っているよ。でも、ぼくはまばたきをしないよ」
そしてお日さまが沈み、東の空から姿を見せ始めたお月さまを見つけると、雪だるまはまた一人言を言いました。
「なんだ、いなくなったと思ったら、今度はあっちから出て来たのか。でも、もうギラギラするのはあきらめたみたいだな」
そんな雪だるまの一人言を聞いていた番犬が、小屋から出て来ると雪だるまに言いました。
「新入りさん。盗み聞きしていた様で悪いけど、あんたがさっき見たのはお日さまで、今、空に浮かんでいるのはお月さまって言うのさ。
お日さまは朝に出て来て、お月さまは夜に出て来るんだ。
ついでにもう一つ教えておくと、今夜は寒くなるよ。
なぜなら俺の左足が、そう教えてくれるのさ」
イヌの言った様に、夜が深くなると寒さが増して雪が降ってきました。
雪が月明かりに輝き、まるでダイヤモンドが降っている様にきれいです。
(わあ、きれいだなー)
雪だるまが見とれていると、すぐそばで若い女の人と男の人の楽しそうな声がしました。
「あなた、とっても素敵ね。夏もいいけど、こんなに素敵な景気は冬にしか見られないわ」
「ああ、そうだね。それに雪だるまも、冬にしか作れないからね」
二人は笑って、楽しそうに屋敷に入って行きました。
「あの人たちは、誰なの?」
雪だるまは、イヌに尋ねました。
「あれは、大きいお坊ちゃんと奥さんになる人さ。
大きいお坊ちゃんは俺が小イヌの頃、ストーブのある女中さんの部屋でぼくを可愛がってくれたんだ。
ちなみにストーブってのは、寒い日には世界一素晴らしい物だよ」
「ふーん。ストーブって、ぼくみたいに白くて冷たい物なの?」
「いいや、正反対だね。女中さんの部屋を見てごらん。ストーブがあるから」
雪だるまは女中さんの部屋で赤々と燃えるストーブを見たとたん、体の中がうずくのを感じました。
「あっ。ぼくの身体の中で、またミシミシ音がする。あのストーブのそばに行きたいな」
「何を言っているんだい。あんたがストーブに近寄ったりしたら、溶けてしまうよ」
イヌが言うと、雪だるまは言い返しました。
「いいさ、溶けたって構わない。ぼくはどうしても、あのストーブのそばに行きたいんだ」
「やれやれ。そんな事を言ったって、誰があんたを部屋に入れるもんかね」
イヌはそう言いながら小屋に戻って、寝てしまいました。
「でも、ぼくはどうしてもストーブのそばに行きたいんだ」
やがて辺りが真っ暗になると、ストーブの火はますます赤くなって、とても美しく見えました。
お日さまの光とも、お月さまの光とも違う、穏やかで全てを包んでくれそうな光です。
女中さんが時々ストーブの口を開けてマキをくべると、中から炎がサッと飛び出して、外の雪だるまの顔まで赤く照らします。
ストーブの炎に顔がほてるのを感じた雪だるまは、また一人言を言いました。
「ああ、ぼくはストーブが大好きになったらしい。なぜだかわからないけど、どうしてもそばに行きたいんだ。これは、恋なんだろうか」
その夜はとても寒くて、女中さんの部屋の窓ガラスには氷の花が一面に咲きました。
雪だるまにとって寒さは気持ちが良いはずなのに、雪だるまはとても悲しくなりました。
だって窓ガラスに咲いた氷の花が、ストーブの姿を見えなくしてしまったのですから。
朝が来ました。
イヌは小屋から出ると、雪だるまに言いました。
「今日は暖かくなるぞ。おれが左足がそう言っているのさ」
確かに天気が良くなり、お日さまがギラギラと輝き始めました。
すると雪だるまは、だんだんと溶けていきました。
イヌは雪だるまを見ると、悲しそうに言いました。
「残念だけど、あんたとは今日でお別れかもな」
次の日の朝、イヌは雪だるまの立っていた所に、ストーブの火かき棒が転がっているのを見つけました。
それを見て、イヌは雪だるまがストーブに恋をした理由が分かりました。
「そうか。あんたの体は火かき棒がしんになっていたのか。それであんなに、ストーブのそばに行きたがっていたんだね」
やがて女中さんが落ちている火かき棒に気づいて、自分の部屋に持って帰りました。
女中さんが火かき棒をストーブのそばに置くのを見て、イヌは優しく言いました。
「良かったね、想いが叶って」。