漁師は毎日、舟に乗って沖へ魚をとりに行きました。
一人ぼっちになったおかみさんは、海辺にすわって、一日中海を見ていました。
夕方になると、沖の空はきまって灰色にくもり、やがて暗くなりました。
ある日、おかみさんがいつものように沖の空を見ていると、一羽のカモメが子どもの鳥と一緒にとんできました。
それを見て、おかみさんが思わず言いました。
「ああ、わたしもカモメのように、子どもがほしいなあ」
すると、カモメが言いました。
「では、後ろにある貝がらの中を、見てごらんなさい」
おかみさんが貝がらを見ると、どうでしょう。
その中に、かわいらしい男の赤ちゃんがいるではありませんか。
おかみさんは大喜びで赤ちゃんを拾いあげ、家に連れて帰りました。
漁師もおかみさんも、それはそれは大事に赤ちゃんを育てました。
赤ちゃんはずんずん大きくなり、やがて、海辺を走りまわる元気な男の子になりました。
でも不思議なことに、男の子は大きくなるにつれて、顔が金色にかがやくようになり、男の子が岩の上に立つと波は急にしずかになり、きらきらと光りました。
ある日、海は大あらしになりました。
あらしが何日もつづいて、漁師は海へ出られなくなりました。
魚がとれなくては、パンを買うこともできません。
すると、男の子が言いました。
「お父さん、魚をとりに行きましょう。ぼくが行けば、きっとあらしはやみますよ」
「とんでもない。こんなときに海へ行ったら、舟ごとひっくり返るぞ」
「いいえ、大丈夫です」
男の子があんまりすすめるので、漁師はしかたなく、一緒に舟へ乗りこみました。
でも男の子の言った通りで、荒れ狂う波も舟のまわりだけは、まるでうそのようにしずかで、たくさんの魚がとれました。
「お前は、どうしてあらしをしずめることができるのだ?」
漁師が不思議に思ってたずねても、男の子は、
「今に、わかりますから」
と、笑うだけでした。
それから二、三日して、男の子はいろんな鳥を捕まえてきて、その皮で上着をつくりました。
男の子は灰色の千鳥(ちどり)の皮の上着を着て、空へまいあがりました。
すると海の色は、みるみる灰色にかわっていきます。
その次に、青いイソヒヨドリの皮の上着を着て空へまいあがると、海はまっ青な色になりました。
最後に赤いコバシコマドリの皮の上着を着ると、波は金色にかがやき、空は美しい夕やけになりました。
男の子は、びっくりして空をながめている漁師とおかみさんの前へおりてきました。
「お父さん、お母さん、長い間お世話になりました。ぼくは太陽の子どもです。もう一人前になったので、空へもどらなくてはなりません。夕方、海がぼくの顔と同じようにかがやくときは、決してあらしは来ません。もしもあらしになったら、この上着をお母さんが着てください」
男の子はそう言って、自分の着ていた上着をぬいで、おかみさんにわたしました。
「さようなら」
男の子は二人を残して空高くまいあがり、雲の中に消えてしまいました。
でも、それからというもの、あらしが来てもおかみさんが男の子のくれた上着を着て海辺に立つと、まるでうそのようにやみました。
その間に漁師は海へ出て、魚をいっぱいとることができました。
やがて秋が来て、つめたい風がふきだしたころ、海はひさしぶりの夕やけになりました。
海と空は金色にかがやき、波がきらきらと光りました。
おかみさんは、まっ赤な太陽に向かって手を合わせました。
「わたしのかわいい子。どうか、明日もきっとすばらしいお天気にしておくれ」