ある日、近所のおかみさんが、白い子ぐまをだいてやってきました。
「見てください。うちの主人が捕まえてきたのです。よかったら、おばあさんにあげますよ」
「まあ、なんてかわいい子ぐまでしょう」
おばあさんは大喜びで、その子ぐまをもらいました。
子ぐまは子犬のように、とてもかわいい目をしていました。
おばあさんは、まるで自分の子どもみたいに子ぐまを育てました。
子ぐまはどんどん大きくなって、やがて立派な大人のくまになりました。
そのくまを見て、近所の男の人が言いました。
「あのくまに、アザラシをとらせたらどうだろう。きっと、すごいのをとると思うよ」
そこでおばあさんが、くまにたずねました。
「くまちゃんどうだい。アザラシをとりに行くかね?」
するとくまは、うれしそうにおばあさんの手をなめました。
「よしよし、それなら行っておいで。でも、けがをしないように気をつけるんだよ」
おばあさんはそう言って、くまの頭をなでました。
くまは男の人たちと一緒に、雪のふる氷の海へ出かけていきました。
「いいか、アザラシを見つけたら、風下の方から追うんだぞ。そうしないとお前のにおいに気がついて、アザラシは逃げてしまうからな」
かしこいくまは、言われたように風下からアザラシに近づき、大きなアザラシを五頭も捕まえました。
これだけあれば、とうぶんの間は食べ物に困りません。
それからというもの、男の人たちはアザラシをとりに行くときは、決まってこのくまを連れて行きました。
ところがある日、くまはよその村の人に、鉄砲で撃ち殺されそうになりました。
おばあさんは心配して、人に飼われているくまだという目印に首輪をつくり、くまの首にまきつけてあげました。
「いいかい、どうなことがあっても、決して人を襲ってはいけないよ」
おばあさんは、やさしく言い聞かせました。
それからしばらくたったころ、どうしたことか、夕方になってもくまがもどってきませんでした。
おばあさんはもう心配で心配で、じっとしていられません。
すると夜おそく、くまが知らない男の人をくわえてもどってきました。
おばあさんはびっくりして男の人をだきあげようとしたら、もうつめたくなっていました。
「大変だ。うちのくまが死んだ人を連れてきたよ!」
おばあさんのさけび声を聞いて、近所の人たちが集まってきました。
「上着がこんなにやぶけているのは、くまにかみ殺されたからだ!」
「首輪のついているくまなのに、それを殺そうとしたから、くまが怒ってかみ殺したにちがいない」
みんな、口ぐちに言いました。
おばあさんはくまをしっかり抱いて、声をふるわせながら言いました。
「お前は、なんておそろしいことをしてくれたんだい。これでもう、お前はわたしと一緒にくらせない。お前は、人のいない遠いところでくらすしかないんだよ」
次の日は、すばらしいお天気でした。
おばあさんはすすと油を混ぜてまっ黒の塗料を作ると、それをくまのお腹に塗りました。
そして、目になみだをいっぱいためて言いました。
「さあ、お行き」
首輪をはずしてもらったくまは、何度も何度もおばあさんをふり返りながら遠ざかっていきました。
それから何年かたって、おばあさんは村の若い人から、遠い雪原で見つけたくまの話を聞きました。
「お腹に黒いもようのある、珍しい白くまだったよ」
そのとたん、おばあさんは思いました。
(きっと、あのくまにちがいない。やっぱり元気でいてくれたんだ)
胸がいっぱいになったおばあさんは、遠い北の空をいつまでもながめていました。