おじいさんは森へいき、かれ枝をひろい集めるとそれを町で売って、そのお金でお米とお酒を買ってきました。
「さあ、おまえたち。こんやはひさしぶりに、ばんめしがたべられるよ」
おじいさんはイヌとネコにこういいながら、お米をナベに入れて火にかけました。
やがてお米はグツグツとにえて、おいしそうなにおいが、あたりにひろがりました。
そのとき、
トン、トン、トン。
と、戸をたたく音がしました。
おじいさんが出てみると、みすぼらしい旅人が、戸口にたっていました。
フラフラしており、今にもたおれてしまいそうです。
「わたしはおなかがすきすぎて、もううごく力もありません。どうか、食べ物をおめぐみください」
おじいさんはすぐに、その旅人を家の中に入れて、できたばかりのおかゆをたべさせてやりました。
それから、お酒の入ったツボを出してきて、おわんについでやろうとしました。
ところが、旅人はそのツボをひったくると、ゴクゴクと、みんな飲んでしまったのです。
「プハー。いい気持だ。あんたは、だいじな酒と米とを、すっかりわたしにくれてしまった。お礼にこれをあげよう」
旅人はこういって、おじいさんに小さなコハクの玉をくれました。
「これを、あの酒ツボに入れておきなさい」
こういうと、旅人のすがたは、かきけすように見えなくなりました。
「ふしぎな旅人だ。???たしか、これを酒ツボに入れろといっていたな」
おじいさんは、コハクの玉を酒ツボの中に入れてみました。
するとふしぎなことに、みるみるうちに、酒ツボはお酒でいっぱいになったのです。
おじいさんは、それをおわんについで飲んでみました。
「うまい!」
おじいさんはいままで、こんなすばらしいお酒を飲んだことがありません。
おかわりをしようと、ツボの中をのぞいてみて、おじいさんはまたビックリ。
ツボの中のお酒は、さっきおわんについだぶんだけ、ちゃんとふえているのです。
それからは、おじいさんのくらしは、だんだんらくになりました。
おいしいお酒が、たちまち近所のひょうばんになって、みんなが買いにきたからです。
けれども、お金のない人には、ただでお酒をあげました。
こうしておじいさんとイヌとネコの三人は、なに不自由なく、たのしいまいにちを送っていました。
ところが、ある日のことです。
ふと、気がつくと、いつもツボいっぱいに入っているお酒が、だいぶへっているではありませんか。
よく見ると、あのたいせつなコハクの玉が見えません。
きっと、だれかにお酒をわけてあげたとき、その人のツボの中に、うっかりつぎこんでしまったのでしょう。
おじいさんのお酒は、その日からふえなくなりました。
そしてとうとう、すっかりなくなってしまいました。
おじいさんは、またびんぼうになりました。
「さあさあ、これからまたびんぼうぐらしだ。これが、さいごのごちそうだよ」
おじいさんはこういって、さいごのごちそうをイヌとネコにやりました。
次の日、イヌはネコにむかっていいました。
「ぼくは、コハクの玉のにおいを知っている。そばまでいけば、きっとにおいでわかる」
すると、ネコはいいました。
「あたしは、どこへでもコッソリもぐりこんで、さがしまわることができるわ」
「じゃあ、二人でさがしにいこう」
イヌとネコはさっそく、近所の家を一けん一けんさがし歩きました。
こうして、一週間がたち、二週間がたちました。
いっしょうけんめいさがしましたが、コハクの玉は、どうしても見つかりません。
「ひょっとすると、川のむこうに住んでいる人のところじゃないかな?」
イヌが、首をかしげていいました。
「きっとそうだわ。川のむこうをさがしてみましょう」
と、ネコがいいました。
いまは冬で、川はこおりついていたので、二人はらくに、むこう岸まで歩いていくことができました。
ところが、むこう岸のイヌやネコは、二人を知りません。
ですから、イヌたちは二人が近づくと、
「ウー、ワンワン」
と、ほえたてました。
ネコがコッソリしのびこもうとしても、すぐに見つかって、
「フーフー、ニャーオ、ニャーオ」
と、知らないネコからしかられました。
そこで二人は、人間も、イヌも、ネコも、みんなねしずまってから、コッソリさがしまわりました。
でも、やっぱりコハクの玉は見つかりません。
さむい冬がすぎて、もうすぐ春がやってきます。
川の氷は、とけはじめました。
けれども、コハクの玉は見つかりません。
「ああ、おじいさんは、食べ物もなくてこまっているだろうなあ」
と、イヌがつぶやくと、ネコがいいました。
「ねえ、あたしたち、新しい主人をさがしましょうか? おじいさんといっしょに、うえ死にするのもいやだし」
「この恩(おん)しらずめ! さんざんせわになっていながら、こまっているときにたすけないのか!」
イヌは、おこって、ほえたてました。
「ご、ごめんなさーい」
ネコは、背中をまるめて小さくなりました。
その日の夕がた、二人はいままできたこともないほど遠くの、ある一けんやにつきました。
イヌは、家の外がわをまわって、さがしました。
ネコは、台所から中へもぐりこんで、さがしました。
そして、イヌがものおきに近づいたときです。
「クンクン。???あっ、このにおいは!」
あの、コハクの玉のにおいがしてきたのです。
イヌはいそいで、ネコをよびました。
二人はそっと、ものおきの中にしのびこみました。
どうやらにおいは、ものおきのすみっこにある、ほこりをかぶった箱(はこ)からしてくるようです。
きっと、この家の人は、コハクの玉にふしぎな力があることを知らないのでしょう。
「どうやって、この箱のふたをあけようか」
二人はそうだんして、その家にいるネズミにたのみました。
ネズミはその箱をいっしょうけんめいかじって、穴をあけてくれました。
さっそくネコが、そこから手をつっこんでみました。
ところが、ネコの手はみじかくて、コハクの玉までとどきません。
それを見て、ネズミは小ネズミをよびました。
小ネズミは穴の中にもぐりこんだかと思うと、コハクの玉をしっぽにまいてでてきました。
イヌとネコは、大喜びです。
二人はネズミたちに、なんどもなんどもお礼をいって、夜のあけるのもまたずに、川岸へもどってきました。
ところが川の氷は、もうすっかりとけてしまい、にごった水がごうごうと、音をたてて流れています。
「こまったわねえ。あたしは、泳げないんです」
と、ネコはなきそうになりました。
「だいじょうぶ。きみは、このコハクの玉をしっかりくわえて、ぼくの背中にお乗り」
イヌはこういって、ネコを背中に乗せました。
「いいかい。しっかりつかまっているんだよ。どんなことがあっても、口をあけてはいけないよ」
イヌは川の中へはいって、泳ぎだしました。
川の水はとてもつめたくて、イヌの足は、いまにもこおりそうでした。
けれども、かわいそうなおじいさんがまっていることを思うと、イヌはがんばって泳ぎました。
そして、ようやく岸辺に近づいたそのとき、
「ヤーイ。イヌの背中に、ネコが乗ってるぞう」
と、子どものさけぶ声がしました。
「どれ、どれ。へえ、おもしろいなあ」
子どもたちが岸ベに集まってきて、みんなでゲラゲラ笑いだしました。
それを見ると、ネコもなんだかおかしな気がしてきて、思わず「ククッ」と、笑いかけました。
「だめだっ。笑ってはいけない」
と、イヌがいいましたが、ネコはとうとうがまんができなくなって、「ププーッ」と、ふきだしてしまいました。
それといっしょに、口にくわえていた玉が、ポロリと川の中へおちました。
イヌはあわてて水の中にもぐって、玉をひろおうとしましたが、背中には泳げないネコがいるので、先にネコを岸にあげてから、イヌは川の底にしずんだコハクの玉をさがしました。
でも、コハクの玉は見つかりません。
ネコはイヌにおこられるのがこわくて、高い木の上にのぼってしまいました。
イヌはなんどもなんども川にもぐって、コハクの玉をさがしましたが、もうヘトヘトになって動くことができません。
するとそこへ、近くで魚をつっていた人が、イヌのそばへやってきました。
「どうした? はらがへってうごけないのか? ようし。こいつはさっきつったやつだが、小さいからおまえにやるよ」
と、いって、魚をなげてくれました。
そのときイヌは、おじいさんのことを思いだしました。
「玉は見つからなかったけど、これを持っていってあげたら、おじいさんはきっと喜ぶだろう」
そのころおじいさんは、お金がないので、何日ものあいだ何もたべていませんでした。
イヌもネコも、新しい主人をさがしていってしまったのだろうと、思っていました。
そこへ、イヌが魚をくわえて帰ってきたのです。
おじいさんは、なみだを流して喜びました。
そしてさっそく、魚を焼こうとして、魚のおなかをさきました。
すると、コロリと小さなものがころがりでました。
なにげなく手にとってみると、なんとそれは、あれほどさがしていたコハクの玉だったのです。
コハクの玉のおかげで、おじいさんのくらしは、またらくになりました。
イヌはいつもおじいさんのそばによりそって、いろいろとせわをしてあげました。
けれどもネコはイヌにおこられるのがこわくて、けっして二人のそばへは近よらせませんでした。