たった一人の人間は、ヤカラーといいました。
ヤカラーは、一日じゅう、遊んでくらしていました。
太陽がのぼるとおきだして、あちこちをさんぽしたり、海べヘいって、小鳥のように歌をうたったりしました。
おなかがすけば、リンゴなど果物や木の実を、好きなだけたべました。
あるとき、山が大地にいいました。
「わたしのふもとをうろついているのは、いったいなにものだ? まい朝まい朝、大声で『おれは王だぞ! おれは王だぞ!』なんて歌うから、うるさくてしかたがない。どこかへ追いはらってしまったらどうだ?」
「それはヤカラーですよ。人間なのです」
と、大地はいいました。
すると海が、話にわりこんできました。
「まったく、山さんのいうとおりだ。大地くん。あんたはどうして、あんなことを人間にゆるしているんだね。なにが王だ。わしだって、山さんだって、大地くんだって、あいつの命令なんか、なにひとつうけていないじゃないか」
ヤカラーは、大地と、山と、海の話を聞きつけて、海べヘやってきました。
そして、
「おれは人間だ。王だ!」
と、さけびました。
はらをたてた海は、大波をたてました。
山もさけびました。
「大地くん。きみはなぜ、このヤカラーとかいう人間に、木の実や草の実をとらせているんだ!」
大地はなるほどと思って、ヤカラーにいいました。
「なぜ、わたしの木の実や草の実をだまってたべるのだね。もう、これからはゆるさないよ」
ヤカラーはこまって、海や山を見まわしました。
けれども、海も山もだまっています。
とうとうヤカラーは、大地にたのみました。
「木の実や草の実をたべなければ、わたしは生きていけない。おねがいだ。たべることをゆるしてください」
大地は、こたえました。
「よろしい。ゆるしてあげよう。だが、おまえはかわりに、なにをくれるね?」
「???わかりません。わたしはなにも持っていないし、あなたは大きすぎる。なにをあげたらいいでしょう?」
「おまえを」
と、大地はこたえました。
おなかがたまらなくすいてきたヤカラーは、しかたなくしょうちしました。
ヤカラーは、朝から夕方まで地面をたがやし、タネをまいて、大地のために働くことになりました。
そのかわりヤカラーが、木の実や草の実をたべることを、大地はゆるしてくれました。
しごとがおわってから、さんぽをしたりうたったり、「おれは王だ」と、さけぶこともゆるしてくれました。
こうしてヤカラーは、大地とはなかよくくらせるようになりましたが、海や山とは、なかなか、なかなおりできません。
けれども、それからなん年もなん年も、かぞえきれない年がすぎました。
人間は、もう一人ぼっちではありません。
海や山とも、うまくはなしあえるようになりました。
こうして人間は、生きるためにはもらうだけではなくて、働かなくてはいけないことを知ったのです。