大きなけものも、小さなけものも、みんなそれぞれ自分にあったくらしかたをして、平和に住んでいました。
ところがある日、その森に、一匹のライオンがやってきたのです。
ライオンは、てあたりしだいにけものをつかまえては、なさけようしゃなく食べてしまいます。
けものたちはこまりきって、いろいろとそうだんしました。
そうだんがまとまると、みんなでそろってライオンのところへいきました。
ライオンは木のかげにねそべって、ひるねをしていました。
けものたちは、ライオンからずっとはなれたところにたちどまりました。
そして山イヌが、前にすすみでていいました。
「えらいライオンさま。おねがいがあってまいりました」
ライオンは、だるそうにふり向きました。
「なんの用だ?」
「ライオンさま。あなたさまがこの森においでになりましてから、わたくしどもは、一日もおちついていられません。いつ、あなたさまに食べられるか、わからないのですから。いっそのこと、みんなでそろってにげだそうかなどと、考えてもみました。でも、それではあなたさまがおこまりでしょう」
ライオンは、ふきげんそうにうなり声をあげました。
「まあ、まあ、お聞き下さい」
と、山イヌは話しをつづけました。
「そこでライオンさま。いかがでしょう。わたくしどもが毎日くじをひいて、くじにあたったものがあなたさまのお食事になる、と、いうことにしては。そのかわり、ほかのものは自由に、森をかけまわらせていただきたいのでございます」
ライオンは、ちょっと考えこみましたが、
「よかろう。ではさっそく、きょうからそうしろ」
と、いって、またひるねをしました。
そこでその日から、毎日、お日さまがちょうどま上にくるころに、森のけものたちは集まってくじをひきました。
そしてくじにあたったものが、ライオンのところへつれていかれました。
さて、ある日のこと。
小さな子ギツネが、くじにあたりました。
すると、子ギツネは、
「みなさん、ぼくをライオンのところヘ一人でいかせてください。ぼくはライオンをやっつけてやるつもりです。みんながまた、もとどおり平和にくらせるようにね」
と、いいだしました。
「ライオンをやっつけるって? ちっぽけなおまえがかい。どうして、そんなことができるんだ?」
けものたちは、口ぐちにさけびました。
「それはご心配なく。とにかく、一人でいかせてください」
そして子ギツネは、一人ででかけました。
けものたちは、遠くからそっと、ついていきました。
ライオンのいるしげみのすこし手前で、子ギツネは木のかげにかくれました。
ライオンはねそべって、食事がくるのをまっていました。
ところが、きょうにかぎって、なかなかけものたちはあらわれません。
「どうしたんだ? おそいぞ。まあよい。もうすこしまとう」
ライオンは、またねむりました。
お日さまは、どんどん西にかたむいていきます。
それでも、食事はきません。
おなかのすいたライオンは、本気でおこりだしました。
はねおきると、ものすごいいきおいで、森のほうへかけだしました。
そのとき子ギツネが、かくれ場所からとびだして、ライオンをよびとめました。
「ライオンさま。王さま。なにをそんなに、おこっていらっしゃるのですか?」
「なにを、おこっているだと!」
ライオンは、おそろしい声でほえました。
「一日じゅう、腹をすかせてまっていたのに、おまえたちはやくそくをやぶったではないか。もうゆるさん。すぐにおまえを食べてやる!」
「ああ、つよいライオンさま! おまちください。じつは、たいへんなことがおこったので、お知らせにきたところです」
「なんだ。早くいえ!」
「きょう、あなたのお食事のくじに、わたくしのおとうとがあたりました。さっそくつれてこようとしましたら、とちゅうで、ほかのライオンがとびだしてきたのでございます。そしてことわりもなく、あなたさまのお食事のおとうとをさらっていってしまいました。そこであなたさまにたすけていただこうと思って、こうしてかけつけてまいったのでございます」
ライオンは、くやしがりました。
「なんだと! わしよりつよいライオンが、いるというのか!」
「とんでもない! もちろん、あなたさまのほうがおつよいにきまっています。ただ、そのライオンめは、あなたさまなんか二つかぞえるうちに、やっつけてみせるなどと申しまして。ライオンさま。もしよろしかったら、そのライオンのかくれがへ、ご案内しましょうか?」
「すぐに案内しろ!」
と、ライオンはさけびました。
子ギツネはさきにたって、ライオンを森のおくへさそっていきました。
子ギツネは、森の井戸(いど)のそばでたちどまると、声をひくくしてライオンに教えました。
「ほら、ごらんなさい。あそこですよ」
ライオンは井戸に近づいて、中をのぞきこみました。
するとくらい水のそこで、大きなライオンがキバをむいています。
もちろん、そのライオンは水にうつった自分なのですが、ライオンはそんなことには気づきません。
「こいつめ、見ておれ!」
と、さけぶなり、ライオンは深い井戸にとびこみました。
そして、そのままおぼれ死んでしまいました。
小さな子ギツネは、おどりあがって喜びました。
「見てくれ! 見てくれ! ライオンをやっつけたぞ。もう、おそろしいライオンはいないんだ。平和がまたきたんだ!」
森のけものたちは、みんな井戸にかけつけて、ライオンが死んだのをたしかめました。
けものたちは、小さな子ギツネをほめて、うなずきあいました。
「つよいことは、たいしたことだ。だが、かしこいことは、もっとすごいことだ」