このアナンシの近くに、五という名前の魔女(まじょ)が住んでいました。
五は自分の名前が大きらいで、みんなが自分を五と呼ぶのをとても嫌がっていました。
ある朝の事です。
アナンシが魔女の家をのぞくと、魔女は大ナベで魔法の草を煮ているところでした。
ナベから煙(けむり)が立ちはじめると、魔女は魔法のつえを振り上げて恐ろしい呪文(じゅもん)をとなえました。
「五と言う言葉を言った者は、その場で死んでしまえ」
それを聞いてアナンシは、ニヤリと笑いました。
「『五と言う言葉を言った者は、その場で死んでしまえ』か。これは良い事を聞いた。こいつをうまく使えば、ごちそうにありつけるぞ」
あくる朝、アナンシは市場へつながる道へやってきました。
アナンシはサツマイモの山を五つ道ばたにつくって、誰かが通るのを待っていました。
そこへ、アヒルの奥さんが通りかかりました。
アナンシは、アヒルの奥さんに声をかけました。
「おはよう、色白で美しいアヒルの奥さん。ごきげんは、いかがですか?」
「ありがとう、アナンシさん。あなたはごきげんいかが?」
「ええ、それがねえ」
アナンシは、悲しそうな顔をして見せました。
「ごらんの通り、サツマイモを作ったんですがね。頭が悪いものですから、いく山とれたか数えられないんですよ。すみません、代わりに数えてくれませんか?」
「いいですとも」
アヒルの奥さんは、サツマイモの山を数え始めました。
「一、二、三、四、五」
アヒルの奥さんは五と言ったとたん、魔女ののろいにかかって死んでしまいました。
「うっししし。いただきまーす!」
アナンシはアヒルの奥さんを、丸ごとペロリと食べてしまいました。
そしてまた、道ばたに座って誰かが通るのを待っていました。
そこへウサギの奥さんが、長い耳をパタパタさせながら通りかかりました。
「おはよう、長い耳がすてきなウサギの奥さん。ごきげんは、いかがですか?」
「ありがとう、アナンシさん。あなたはごきげんいかが?」
「ええ、それがねえ」
アナンシは、また悲しそうな顔をして見せました。
「ごらんの通り、サツマイモを作ったんですがね。頭が悪いものですから、いく山とれたか数えられないんですよ。すみません、代わりに数えてくれませんか?」
「ええ、いいですとも」
ウサギの奥さんは、サツマイモの山を数え始めました。
「一、二、三、四、五」
そして五と言ったとたん、ウサギの奥さんも死んでしまいました。
「うっししし。いただきまーす!」
アナンシはウサギの奥さんも、丸ごとペロリと食べてしまいました。
しばらくすると今度はハトの奥さんが、きれいなピンクの足で歩きながらやってきました。
「おはよう、ピンクのきれいな足のハトの奥さん。ごきげんは、いかがですか?」
「ありがとう、アナンシさん。あなたはごきげんいかが?」
「ええ、それがねえ」
アナンシは、また悲しそうな顔をして見せました。
「ごらんの通り、サツマイモを作ったんですがね。頭が悪いものですから、いく山とれたか数えられないんですよ。すみません、代わりに数えてくれませんか?」
「ええ、いいですとも」
やさしいハトの奥さんは、かわいいピンクの足でサツマイモの山に飛び乗りました。
そして山から山へと飛び移りながら、数を数え始めました。
「一、二、三、四、それから、わたしの乗っている分」
それを聞いて、アナンシはハトの奥さんに言いました。
「ハトの奥さん、あんたの数え方はおかしいですよ」
「まあ、ごめんなさい、アナンシさん。それじゃ、もう一回数えるわね」
ハトの奥さんは、また数えました。
「一、二、三、四、それから、わたしの乗っている分」
アナンシは、歯をむき出して怒りました。
「違う! そんな数え方じゃ、だめだ!」
「本当に、ごめんなさい。アナンシさん。もう一回やってみますわ」
やさしいハトの奥さんは、また数えなおしました。
「一、二、三、四、それから、わたしの座っている分」
アナンシは、顔を真っ赤にして怒りました。
「何てバカなハトだ! いいか、こうやって数えるんだ。一、二、三、四、五」
そして『五』と言ったとたん、アナンシはバッタリ倒れて死んでしまいました。