むかし、この川には橋がありませんでした。
それというのも、何度橋をかけてみても、あらしや大水で、こわれたり流されたりしてしまうのです。
「このままでは、川の両側に住む人たちがかわいそうだ」
と、村長はみんなと力をあわせて、今までよりもっともっと大きな丈夫な橋をかけました。
けれど、今までよりもっともっと激しい大水がおそって、橋はまた流されてしまいました。
「ああ、あんなに頑張ったのに、がっかりだな。これではもう、悪魔にでもたのむしかないな」
すると突然、村長の目の前に大きな男が現れました。
黒い服、赤いズボン、羽のついたぼうしをかぶっています。
「おう、今、悪魔を呼んだか? おれさまはサタンだ。名前ぐらい聞いたことがあるだろう」
村長は、びっくりしました。
サタンといえば、悪魔の王さまの様な存在です。。
「は、はい、たしかにお呼びしました。どうかサタンさまのお力で、ロイス川に、ぜったいこわれない橋をかけていただきたいのです」
「あははははっ、そのくらいお安い御用さ。でもそのかわり、最初に橋をわたったたましいを、おれさまがもらうぞ。いいな?」
「た、たましい! あの、それは困ります。金貨ではだめですか?」
「ふん! そんなもの、悪魔ならすぐつくれる。ほーら、見ていろ」
サタンはだんろに赤々燃えてる炭を、ちょいとつまみあげると、こわがる村長の手にのせました。
「あつっ???くない。おおっ、これはすごい!」
不思議な事に、炭はキラキラ光る金のかたまりにかわっていたのです。
目を丸くしている村長に、サタンは言いました。
「それはお前にやろう。橋も今夜中につくってやるから、必ずたましいをよこせよ。忘れるな」
次の朝、村長がロイス川へいくと、これまで見たこともない、それはそれは立派な橋がかかっていました。
「どうだ! おれさまは、約束を果たしたぞ」
橋の向こうにサタンが現れて、大声で叫びました。
「そっちも約束通り、立派なたましいを頼んだぞ」
「はいはい、ではさっそく。今から行きますよ」
村長は、用意してきた大きな袋の口を開けました。
すると中から、しっぽに黒いリボンをむすんだ犬が飛び出して、
ワン、ワン、ワン
と、ほえながら、橋の上をかけだしました。
「な、なんだ! おれさまがほしいのは、人間のたましいだぞ。???くそっ、悪魔をばかにしやがって。橋をこわしてやる!」
怒ったサタンは、大きな岩をふりあげました。
と、ちょうどそこに、牧師さんがやってきました。
牧師さんは、新しい橋にお祈りをするために、大きな十字架をかかげていました。
「わあっ、やめろ! 助けてくれ!」
サタンは大あわてで逃げだし、それきり二度と戻ってはきませんでした。
悪魔のつくった橋は、とても丈夫で、どんなあらしや大水にもびくともしなかったので、村人たちは大喜びです。
でも、村長はサタンにもらった金のかたまりで、大やけどをしてしまいました。
それは怒ったサタンが、金のかたまりを元の熱い炭にもどしてしまったからです。