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カモシカになった弓の名人

时间: 2017-12-25    进入日语论坛
核心提示: むかしむかし、ある村に、弓の名人とうわさされる男がいました。 ねらった獲物は、はずしたことがないのが自慢です。 ある時
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 むかしむかし、ある村に、弓の名人とうわさされる男がいました。
 ねらった獲物は、はずしたことがないのが自慢です。
 ある時、山深くわけ入った男は、一頭のメスのカモシカを見つけました。
 男に見つかったカモシカは、必死で逃げました。
 でも、逃げ道をまちがえたカモシカは、がけの手前で動けなくなりました。
「クワーン」
 かなしそうに鳴くカモシカを見て、男はにやりと笑いました。
 ところが弓を引きしぼった男は、つぎの瞬間、自分の目をうたがいました。
 いつ現れたのか、老人がカモシカのそばに座っているのです。
「わしは、山の精じゃ」
と、老人は言いました。
「なぜ、お前は動物を苦しめて、喜んでいる?」
 男は、答えました。
「いいえ、決して喜んではおりません。生きていく為でございます。牛も、馬も、持っていないわたくしは、鳥やカモシカを撃たねば、食べていけないのです」
 男は一生懸命、言いわけをしました。
 話しを聞き終わった老人は、小さな木のうつわをとり出すと、その中へカモシカの乳をしぼりはじめました。
 しぼり終わると、老人は木のうつわを男にわたして言いました。
「さあ、これが今日からの、お前の食べ物じゃ」
 うつわの中で乳は、チーズのように固まっていました。
「この食べ物は、ほんの少しでも残っていれば、次の食事までには、元の量にもどっている。これをやるから、もう二度と山の生き物を殺さないように。どうじゃ、約束できるかな?」
「はい。二度と、弓矢は使いません」
 そう言うと、男は自分の小屋へ帰って、チーズを一口食べてみました。
「こいつは、うまい!」
 もう少しで、全部食べてしまうところでした。
 でも、老人の言葉を思い出して、ほんのちょっぴり残しておきました。
 次の朝、チーズは元通り、うつわいっぱいになっていました。
 食べる事に困らなくなった男は、弓を取ろうとはしませんでした。
 山の精との約束は、守られたのです。
 弓の名人が来なくなったので、カモシカたちは人間をこわがらなくなりました。
 夏も、秋も、冬も、アルプスの山は平和にすぎていきました。
 やがて、次の年の春がめぐってきました。
 男はふと、くものすだらけの弓に気がつきました。
 男はほこりをはらいながら、弓のうなる音を思い出しました。
 それから、動物のあげる悲鳴を。
「ああ、腕がなる。久しぶりに、この弓をつかってみたいものだ」
 ちょうどその時、カモシカの声が聞こえました。
 見ると一頭、まどの外に立っています。
「しめた!」
 男はすぐ弓矢を持って、飛び出しました。
 矢にねらわれても、人間を信じているカモシカは、逃げようとはしません。
「ばかなやつだ」
 素晴らしい獲物を前にして、男は山の精との約束をわすれていたのです。
 力いっぱい、弓を引きしぼりました。
 ビュン!
 あわれなカモシカは、バッタリと倒れました。
 カモシカの肉は、男の夕食になりました。
「いつものチーズは、食後のデザートだ」
 そう思って、男が戸だなを開けると。
「あっ!」
 中から、黒ネコが飛び出して来ました。
 口に、あのうつわをくわえています。
 人間そっくりの目と手をした、気味の悪いネコでした。
「待てっ!」
 男がどなると、ネコはまどから逃げて行きました。
「おしいことをした。だが、まあいいさ。チーズはとられても、おれが猟をはじめれば、それですむことだ」
 その言葉通り、男はまた、毎日のように弓矢をもって、鳥やカモシカをおい回すようになりました。
 山の平和は、終わったのです。
 男は以前にもまして、楽しげでした。
 弓のうなり、矢羽のひびき、動物のひめい。
「これだ! おれは、この音を聞きたかったんだ!」
 山をかけめぐっていた男は、いつか、山の精と出会ったがけに来ていました。
 不思議なことに、そこにはあの時のメスのカモシカがいるではありませんか。
「今日こそ、しとめてやる」
 男は谷をわたれずに、まごまごしているカモシカめがけて矢をはなちました。
 ビュン!
 カモシカはするどいさけび声をあげながら、谷底ふかくおちて行きました。
「やったぞ!」
 男はかけよりました。
 そして谷底をのぞいた男は、山の精を見つけました。
 カモシカのかわりに、山の精が立っていたのです。
 山の精は、じっと男を見つめていました。
(いや、おれが悪いんじゃない。ネコにチーズをとられてしまって、それで仕方なく)
 男は言い訳をしようとして、自分の声にビックリしました。
 その声は人間の声でなく、カモシカの声だったのです。
 いいえ、声だけでなく、いつの間にか男は、カモシカになっていたのです。
「約束を破らなければ、ずっと人間として幸せに暮らせたものを」
 山の精はそういうと、どこかへ消えてしまいました。
 約束をやぶった弓の名人は、それからはカモシカとして暮らすしかありませんでした。
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