むかしむかし、ある町に、貧乏な仕立て屋が住んでいました。
この仕立て屋、わるい人ではありませんが、生まれつきのなまけ者で、いつも人からお金をかりていました。
あんまりおおぜいの人からお金をかりたので、とうとう、返すことができなくなってしまいました。
「そうだ、死んだまねでもしてみよう。みんなはほんとうに死んだと思って、かしたお金のことをゆるしてくれるかもしれないぞ」
仕立て屋はそう思いついて、おかみさんにかんおけを買ってこさせました。
そしてその中に入って、死んだふりをしました。
おかみさんが、かんおけの前で泣きまねをすると、仕立て屋が死んだといううわさがすぐに広がりました。
「仕立屋が死んだってさ」
「しまった。おれはあの男に金をかしてあったんだがなあ」
「おれもだよ。でも、死んでしまったものはしょうがない」
お金をかしてあった人たちは、返してもらえないのをざんねんがりましたが、死んでしまったのではしかたがないと、あきらめました。
ところが一人だけ、あきらめない男がいました。
けちんぼうで有名な、クツ屋でした。
クツ屋は貧乏でしたが、それでも仕立屋に、お昼のパン代をかしていたのです。
わずかな金額ですが、貧乏なクツ屋にとっては大金です。
クツ屋はなんとかして、そのお金を取り返そうと思いました。
「ようし、お寺にいって、仕立屋のからだから、パン代ぶんだけ服をはぎ取ってこよう」
その晩おそく、クツ屋はお寺へ出かけていきました。
仕立屋のはいったかんおけは、お堂の中にはこびこまれていました。
仕立屋は、かんおけの中がせまいので、きゅうくつでたまりません。
でも自分は死んだことになっているので、つらいのをがまんして、ジッと目をつぶっていました。
やがて、ま夜中になりました。
仕立屋は、もうどうしても、ジッとしていることができません。
「もう、みんなねているだろう。かんおけからちょっと出てひと休みしても、だいじょうぶだろう」
こう思って、かんおけから出ようとしました。
一方、クツ屋は仕立屋のからだから服をはぎ取ってやろうと、お堂のすみにかくれていました。
そのとき、ドカドカと音がして、おおぜいの男たちがお堂の中にはいってきました。
「おや、あの男たちも、仕立屋の服をはぎ取りにきたのかな」
と、クツ屋は思いましたが、そうではありません。
この男たちは、ドロボウだったのです。
あちこちでぬすんできたお金を、このお堂の中でわけようと思って、やってきたのでした。
「おい、金をわけたら、にぎやかに酒でものむとしないか」
「よかろう。こんやは金もたくさん手にはいったんだからな」
ドロボウたちは、かんおけのそばまでいって、お金のはいった袋をおろしました。
そして、うす暗いロウソクのあかりの下で、お金をわけはじめました。
みんな、おなじずつ取りましたが、まだあとにいくらかのこりました。
「その金は、どうする?」
「こんやのことを考えたのはおれだから、おれがもらおう」
「いや、こんやはおれがいちばんよくはたらいた。だから、おれがもらうのがあたりまえだ」
「まて、まて、二人とも。おれが一番年上だから、おれがもらおう」
みんなは、かってなことばかりいっています。
すると、なかの一人がいいだしました。
「じゃ、いちばん勇気のある者がもらうことにしないか?」
「と、いうと?」
「このかんおけの中の死人に、ナイフをつきさした者がもらうことにしよう」
みんなは、こわごわながらもさんせいしました。
ドロボウたちは、ナイフを取り出しました。
「おまえからやれよ」
「いや、おまえがさきにやれ」
これを聞いた棺おけの中の仕立て屋は、ブルブルとふるえだしました。
そして、
「い、い、いのちだけは、どうかおたすけください!」
と、さけびながら、棺おけの中からとびだしたのです。
それを見たクツ屋が、大あわてでどなりました。
「こら!」
ドロボウたちは、ビックリ。
「おばけだー!」
「ゆうれいだー!」
「神さま、おたすけくださーい!」
と、さけびながら、にげていきました。
さて、仕立屋とクツ屋は、目から火花を出してにらみ合っています。
「やい、きさまは生きてたのか!」
「おまえは、こんな夜中になにしにきたんだ!」
二人は、いまにもつかみかかろうとしましたが、そこらじゅうにちらばっているたくさんのお金を見ると、すぐにけんかをやめました。
二人はお金をあつめて、半分ずつにわけました。
「これで、なかなおりしようや」
と、仕立屋がいいましたが、
「なかなおりするまえに、おまえにかしてあるパン代を返してくれ」
「なんだと。おれのおかげで、おまえはこんなにたくさんの金を手にいれたんじゃないか。パン代ぽっち、いいだろう」
「だめだ、だめだ。パン代はかえしてくれ」
クツ屋は、どうしてもしょうちしません。
さて、逃げ出したドロボウたちは、お堂へおいてきたお金がおしくてなりません。
「おばけにおどかされたなんて、なさけないとは思わないか」
「まったくだ。おばけをこわがってちゃ、ドロボウはできないな」
みんなは元気をだして、お堂にもどっていきました。
お堂のそばまでいくと、中からどなりたてる声がきこえてきました。
「パン代返してくれ。おれのパン代を返せ。やい、さっさとパン代返せ!」
それをきいたドロボウは、ふるえあがりました。
「あんなにたくさんのお金があるのに、どうして、パン代のことばかり、いっているのだ?」
「やっぱり、おばけなんだよ」
ドロボウどもは、まっさおになってにげていきました。