お父さんは十人の子どもたちにお腹いっぱいご飯を食べさせるため、もうかる仕事を探す旅に出ました。
お父さんが山に入ると、一軒の小さな家がありました。
家の前には、二人の男が立っています。
お父さんは、近づいて行ってたのみました。
「すみません。仕事を探しに行く途中なのですが、もう日が暮れてしまいました。今夜一晩、泊めてもらえませんか?」
「いいよ、さあどうぞ」
家の中に入れてもらうと、十二人の男たちがテーブルをかこんでお茶を飲んでいました。
お父さんがすわると、となりの男が声をかけました。
「あんた、仕事を探しに行くそうだね。ところであんたの土地の一月は、どんな具合だね?」
「はい、寒い日もありますが、でも一月が一番身が引きしまるので、私は一月が好きですよ」
すると、今聞いてきたとなりの男がたずねました。
「二月は、どんなふうかね?」
「二月は冷たい風の中に春のにおいがして、気持ちが明るくなりますよ」
するとまた、そのとなりの男がたずねました。
「なら、三月は好きかな?」
「ええ。三月は暖かくて、いい気持ちですよ」
それから順々に、となりの男が聞いてきました。
「では、四月はどう思う?」
「四月は、ピクニック。家族が、幸せになる月です」
「五月は?」
「五月は花が咲き、鳥が歌い出す。楽しい月です」
「六月は、どうだね?」
「六月はムギが大きくなるので、ありがたい月です」
「七月は、いかがかな?」
「七月はムギのかり入れが始まる月なので、ウキウキします」
「八月は?」
「八月は天気が良くて、家族全員が元気に過ごせます」
「九月は、どうですかね?」
「九月はお祭があって、村中が喜びます」
「十月は、どうじゃ?」
「十月は、ブドウの取り入れ月です。思い出しても笑顔になります」
「十一月は?」
「十一月は、落ちついた月です。私は好きです」
「十二月は、どう思うかな?」
「十二月は、クリスマスがありますからね。子供たちと一緒に、楽しみにしています」
お父さんが言い終わると、十二人の男たちはテーブルの上に一本の棒(ぼう)を置いて言いました。
「わしらは、みんなあんたが気にいったよ。
この棒を、あんたにあげよう。
家に帰ったらテーブルに置いて、『棒よ、作れ』と言えばいい。
そうすれば、あんたのほしい物が出してくれるはずじゃ」
お父さんは棒をもらって家に帰ると、さっそく子どもたちとお母さんを集めて、テーブルの上に棒を置いて言いました。
「棒よ、作れ」
すると棒がカタカタと動き出して、あっという間に金貨や洋服やたくさんのごちそうがテーブルの上にならんだのです。
「わあ、すごいや!」
子どもたちは大喜びで、ごちそうを食べ始めました。
さて、たった一日で大金持ちになったこの家族を見て、となりの家の欲張り男が不思議に思ってたずねました。
お父さんは山の中の一軒家であった事を、全て話しました。
「こうして聞かれた事に正直に答えたら、この棒をくれたのさ」
「なるほど、聞かれた事に正直にか」
すると欲張り男は、さっそく山へ出かけて行きました。
そして一軒家を見つけると、中に入ってすわりました。
十二人の男たちは、欲張り男にたずねました。
「あんたは、一月をどう思うかね?」
「寒くて、大嫌いだ」
「二月は、どうかね?」
「ごめんだね。いつも吹雪(ふぶき)ばかりで」
「三月は?」
「春だというのに、小雪が降って来る。いやな月だ」
「四月は、どう思う?」
「雨ばかりの、ゆううつな月だね」
「五月は、どうだ?」
「天気の悪い日が多くて、こまるね」
「じゃ、六月は?」
「じめじめと暑いのは、嫌いだ」
「七月は?」
「カミナリの季節なんか、なくなればいいんだ」
「八月は、どうか?」
「暑いくせに、いきなり冷たい風が吹いたりするからな」
「九月は、どうかね?」
「作物をだめにする、困った月だ」
「十月は、どんなふうか?」
「ブドウ畑でたき火をする、めんどうな月だね」
「十一月は?」
「寒いし、雨降りが多いし」
「なら、十二月はどうかな?」
「寒くて寒くて、こごえそうだよ。一番嫌いな月だ」
十二人の男たちは、棒を渡して言いました。
「これをやろう。『棒よ、動け』と命じるがよい」
「よしきた!」
欲張り男は棒をにぎりしめると、自分の家に走って帰りました。
そしておかみさんをよんでテーブルに棒を置くと、大声で言いました。
「棒よ、動け!」
すると棒はカタカタと動き出して、欲張り男とおかみさんをポカポカなぐり続けたのです。