ホレーナは、ほんとうの娘でしたが、マルーシカは、まま子でした。
ホレーナは、わがままで、いじわるで、なまけものでした。
一日じゅう、きれいにきかざって、遊んでくらしています。
マルーシカは、気だてのやさしい働きもので、朝から晩まで働いていました。
それなのにお母さんは、ホレーナばかりかわいがって、マルーシカをきらいました。
それというのも、マルーシカが、ホレーナとくらべものにならないほどきれいなのが、気にいらなかったのです。
お母さんはひっきりなしに、マルーシカをどなりつけては、こきつかいました。
けれどもマルーシカは、すこしもいやがらずに、休むまもなく働きつづけました。
働けば働くほど、マルーシカは、ますます美しくなっていきました。
それにひきかえホレーナは、いくらきれいなきものをきても、ますますみにくくなっていきました。
それを見て、お母さんは、
(きれいな、ままっ子のマルーシカを、家においたってろくなことはありゃしない。いまに、ホレーナのおむこさんをとられてしまうだろう)
と、考えました。
それでお母さんとホレーナは、なんとかして、マルーシカを追いだそうと考えはじめました。
新年がすぎてまもない、寒い寒い日のことでした。
ホレーナはきゅうに、
「わたし、スミレのにおいがかぎたくなったわ」
と、いいだしました。
「マルーシカ。森ヘいって、スミレの花を集めてきてよ。おびにかざりたいの」
「まあ、おねえさん。ま冬にスミレがさいているなんて、聞いたこともありませんわ」
マルーシカが、おどろいてこたえると、
「なによこの子は! わたしのいいつけを、聞かないつもりかい!」
と、ホレーナはどなりました。
「そうだよ。いますぐいっておいで。スミレをつんでこなかったら、家にはいれないよ」
お母さんはマルーシカを追いだして、戸にカギをかけてしまいました。
マルーシカはなきながら、森へいきました。
森は雪にうもれて、人っ子一人見えません。
マルーシカはあてもなく、森を歩きまわりました。
こごえそうになったマルーシカは、
「神さま、いっそのこと、天国ヘおめしください」
と、いのりました。
そのとき、とつぜん遠くのほうに、チラチラと火が見えました。
マルーシカは元気をだして、その火のほうヘいってみました。
そこは小高い山になっていて、大きなたき火が、あかあかともえていました。
たき火のまわりには、十二の石がならんでいて、そこに十二人の男がすわっていました。
それは、一月から十二月までの、月たちだったのです。
冬の月たちは、白いひげをながくはやしたおじいさんで、秋の月、夏の月と、だんだんわかくなって、春の月は、美しい若者でした。
一月が、一番高いところの石にすわっていました。
マルーシカは思いきって、そばヘいきました。
「おねがいです。どうか、たき火にあたらせてください。寒くて死にそうなのです」
十二の月は、マルーシカをたき火にあたらせてくれました。
「娘さん。こんな寒い森に、どうしてやってきたのかね?」
と、一月が聞きました。
「はい。スミレをつみに」
と、マルーシカはこたえました。
「いまは、スミレをつむときじゃないよ」
「知っています。でも、おねえさんとお母さんが、どうしてもスミレをとってこいっていうんです。スミレを持って帰らなければ、家ヘいれてもらえません。どこでスミレをつんだらいいでしょう?」
十二の月は、マルーシカをかわいそうに思いました。
一月のおじいさんが立ちあがると、一番わかい月につえをわたして、
「三月のきょうだいよ。しばらく、わしの席をゆずろう」
と、いいました。
三月は、一番高いところの石にすわって、たき火の上でつえをふりました。
するとたちまち、たき火から火花がふきあがって、雪をとかしはじめたのです。
木々は芽(め)をふき、ブナのわか木の下で、草があおあおと色づきました。
草のあいだから、花のつぼみがゆれはじめました。
そうです、春がきたのです。
そして、しげみの葉かげでスミレがさきました。
「さあ、はやくスミレをおつみ、マルーシカ。いそいで」
と、わかい三月が、せきたてました。
「ありがとう」
マルーシカは大喜びで、スミレをつみはじめました。
たちまち、大きな花たばができました。
マルーシカは、なんどもお礼をいって帰りました。
スミレをいっぱいかかえたマルーシカを見て、ホレーナとお母さんはビックリです。
マルーシカがヘやへはいると、家じゅうが、スミレのにおいでいっぱいになりました。
「いったい、どこでつんできたの」
ホレーナは、くやしそうに聞きました。
「森の中の山の上に、いちめんにさいていましたわ」
と、マルーシカはこたえました。
あくる日、ホレーナは、きゅうにイチゴがほしくなりました。
「マルーシカ。森ヘいってイチゴを見つけてきてよ」
「まあ、おねえさん。雪の中でイチゴがなるなんて、聞いたこともありませんわ」
「なによこの子は! わたしのいいつけを聞かないつもりかい! いますぐいっておいで。イチゴをとってこなかったら、家へいれないからね!」
と、ホレーナはおどかしました。
マルーシカはまた、雪の中に追いだされてしまいました。
マルーシカは、泣きながら森ヘいきました。
けれども森には、雪があつくふりつもっていて、人っ子一人見えません。
マルーシカは、こごえそうになりました。
そのとき、むこうにきのうと同じような火が見えました。
マルーシカは元気をだして、たき火のそばへたどりつきました。
たき火はあたたかそうに、あかあかともえています。
「娘さん。どうしてまたきたのかね?」
と、一月がたずねました。
「はい、イチゴをつみに」
と、マルーシカはこたえました。
「いまは、ま冬。雪の中でイチゴはならないよ」
「知っています。でも、イチゴをつんでいかなければ、家にいれてもらえません。どこへいったらイチゴが見つかるでしょうか?」
すると一月は立ちあがって、むかいがわにすわっている月に、つえをわたしました。
「六月のきょうだい。しばらくのあいだ、わしの席をゆずろう」
六月は、一番高い石にのぼって、たき火の上でつえをふりました。
火は大きくもえあがり、たちまち雪をとかしました。
木々は青葉におおわれ、小鳥がさえずりはじめ、あたりいちめんに花がさきました。
そうです、夏がきたのです。
しげみの下が、星をちりばめたように白くなり、その白い星は見る見るうちにイチゴになって、まっ赤にじゅくしました。
「さあ、はやくおつみ、マルーシカ」
と、六月がやさしくいいました。
「ありがとう」
マルーシカは、おいしそうなイチゴを、前かけにいっぱいつみました。
そして十二の月たちに、くりかえしお礼をいって帰りました。
イチゴをつんで帰ってきたマルーシカを見て、ホレーナとお母さんはビックリ。
マルーシカがヘやのなかにはいると、家じゅうがイチゴのにおいで、いっぱいになりました。
「いったい、どこにあったの」
ホレーナは、おこって聞きました。
「森の中の山の上に。いちめんになっていましたわ」
と、マルーシカはこたえました。
ホレーナとお母さんは、おなかいっぱいイチゴをたべました。
それなのに、マルーシカには、ひとつもくれません。
ホレーナは、つぎの日にはリンゴがほしくなりました。
「マルーシカ。森へいってリンゴをとってきてよ」
「まあ、おねえさん。雪の森にリンゴがなるなんて、聞いたことがありませんわ」
「なによ、この子は。わたしのいいつけを聞かないつもりかい! いますぐいっておいで。赤いリンゴを持ってこなければ、家ヘいれないよ!」
ホレーナとお母さんは、マルーシカを雪の中に追いだしました。
マルーシカは泣きながら、森へいきました。
森には雪があつくふりつもっていて、人っ子一人見えません。
どこをさがしても、リンゴなんて見つかるはずはありません。
マルーシカはこごえて、もう動けなくなりました。
そのときとつぜん、あの火が森のおくで、チラチラと見えました。
マルーシカは元気をふるいおこして、たき火のほうへ歩いていきました。
あかあかともえるたき火をかこんで、十二の月たちは、すわっていました。
「十二の月さん。おねがいです。すこしあたらせてください」
十二の月たちは、やさしくマルーシカをたき火のそばにすわらせてくれました。
「娘さん。どうしてまた、きたんだね?」
一月が、聞きました。
「赤いリンゴを、さがしに」
と、マルーシカがこたえました。
「いまは、ま冬。ま冬に赤いリンゴはならないよ」
「知っています。でも、ホレーナとお母さんが、どうしても赤いリンゴをとってこいっていうんです。おねがいです。もう一度だけ、わたしを助けてください」
一月は自分の席から立ちあがると、九月につえをわたしました。
「九月のきょうだい。しばらくのあいだ、わしの席をゆずろう」
九月は一番高い石にのぼって、つえをふりました。
ほのおがもえあがって、雪はとけました。
けれども木の葉はしげらずに、黄ばんだ葉が地面にちりはじめました。
そうです、秋がきたのです。
マルーシカが上を見あげると、大きなリンゴの木の、高い高い枝に、りっぱな赤いリンゴがなっていました。
「マルーシカ。はやく木をおゆすり」
九月は、せきたてました。
マルーシカは、リンゴの木をゆすりました。
するとリンゴが、ひとつおちてきました。
もう一度ゆすると、またひとつおちてきました。
「さあ、はやくひろってお帰り」
「ありがとう」
マルーシカはふたつのリンゴをひろって、十二の月たちにお礼をいうと、いそいで家へ帰りました。
リンゴを持って帰ってきたマルーシカを見ると、ホレーナとお母さんはビックリしました。
マルーシカが家へはいると、家じゅうがリンゴのにおいで、いっぱいになりました。
「いったい、どこでもいできたの?」
と、ホレーナは聞きました。
「森の中の山の上で。まだたくさんなっていましたわ」
と、マルーシカはこたえました。
まだたくさんあると聞いたとたん、ホレーナはマルーシカにとびかかりました。
「まあこの子は! どうしてもっととってこなかったの! きっと、とちゅうでたべてしまったのね!」
「そんなことしませんわ。ふたつしか、とってこられなかったんですもの」
と、マルーシカはいいました。
「おまえなんか、死んじまえ!」
「ホレーナのいうとおり、こうしてくれるわ!」
ホレーナとお母さんは、こん棒でマルーシカをぶとうとしました。
「キャァァーーー! 助けてー!」
マルーシカは、台所のペチカ(→だんろの一種)のかげにかくれました。
「ふん! あとでたっぷり、ぶってやるから!」
くいしんぼうのホレーナは、追いかけるのをやめてリンゴをかじりました。
「わあ! なんておいしいの!」
こんなにおいしいリンゴをたべたのは、生まれてはじめてです。
「お母さん。ふくろをちょうだい。わたし自分でいってくる。ありったけのリンゴをおとしてやるわ!」
と、ホレーナはさけびました。
「だっておまえ、そとは雪だよ」
お母さんはあわててとめましたが、ホレーナは身じたくをすると、袋を持って森へとびだしました。
森は雪にうずまって、なにもありません。
ホレーナは、グルグル歩きまわりましたが、リンゴは見つかりません。
そのときとつぜん、ホレーナはむこうに火を見つけました。
その火をめあてにいくと、たき火のそばへでました。
そのまわりを、十二の月たちがかこんでいます。
「じゃまね、のきなさいよ!」
ホレーナは、十二の月たちを押しのけるようにして、たき火の前に立ちました。
「おまえは、なにをしにきたんだ?」
一月は、腹をたててたずねました。
「バカなおじいさん。なにをしようとわたしの勝手でしょう!」
一月は顔をしかめると、つえを高くあげてふりました。
たちまち、黒雲が空をおおい、たき火がスーッと消えました。
雪がはげしくふりだし、つめたい風がふいてきます。
いつまでまってもホレーナが帰らないので、お母さんは森へさがしにいきました。
雪はますますはげしくふりつづけ、風はますますつよくふきつけました。
心のやさしいマルーシカは、ホレーナとお母さんをまちつづけましたが、とうとう二人は帰ってきませんでした。
そして春が来ると、マルーシカは三月のように美しい若者と結婚して、いつまでもしあわせにくらしました。
このお話をもとにして、ソ連のマルシャークが書いたのが、有名な児童劇『十二月(森は生きている)』です。