ある日、雨がふって川の水がふえたのに、いつものように一人で泳ぎはじめました。
すると、ドドーッと流れる水が、男の子を押し流してしまったのです。
「助けてえ!」
男の子がおぼれかけていると、川の底からユラユラと、浮きあがってきたものがありました。
それは、水の国の妖精(ようせい)です。
いつもは、おぼれ死んだ人を自分の城へつれていくのですが、男の子を見て、助けてやりたくなりました。
一人でたいくつだったので、いっしょにくらそうと思ったのです。
水の妖精は、波のゆりかごで男の子をねむらせると、そっとだいて帰りました。
そして、水晶(すいしょう)のヘやの、水晶のベッドに寝かせました。
それから水晶の柱のかげにかくれて、男の子のようすを見ていました。
しばらくして、目をさました男の子は、
「あれ? ここはどこ?」
あたりをキョロキョロと、見回しました。
水晶のテーブルの上には、水晶のおもちゃがたくさんあります。
男の子はしばらくの間、それで遊んでいましたが、けれど急に、
「あーん、あーん!」
と、泣きだしたのです。
水の妖精は、そばへいって聞きました。
「ぼうや、どうして泣くの?」
「帰りたい! お家へ帰りたい!」
「でも、ここのほうがおもしろいわよ。こんなにすてきなおもちゃがあるもの」
「でも、家のほうがいい。帰りたいよう!」
水の妖精はこまってしまい、夜、男の子がねむると、銀のへやへつれていきました。
つぎの朝、目をさました男の子は、なにもかも銀でできているへやにビックリ。
そして、銀のテーブルの上の銀のおもちゃで遊びはじめました。
でも、すぐにあきてしまい、シクシク泣きだしました。
水の妖精は、聞きました。
「ぼうや、どうして泣くの?」
「お兄さんやお姉さんと、遊びたいの!」
やがて泣き疲れて寝てしまった男の子を、水の妖精は、今度は金のへやへ連れていきました。
目をさました男の子は、金色のまぶしいへやにビックリ。
金のテーブルの上の金のおもちゃで、しばらく遊びましたが、けれどもまた、すぐに泣きだしました。
「ぼうや、どうして泣くの?」
「お父さんや、お母さんに会いたいよう!」
「こんなにたくさんの金があっても?」
「そうさ、決まってるじゃないか」
男の子は、お父さんやお母さんの笑顔を思い出しました。
そして、みんなでいっしょに遊びにいった日のことを、水の妖精に話しました。
水の妖精は、城の宝石を全部、男の子の前につみあげました。
キラキラ光る、宝石の山です。
「これをみんなあげるわ。それでもお父さんやお母さんのほうがいいの?」
「うん。お父さんやお母さんのほうがいい!」
水の妖精は、いっしょに暮らすのをあきらめました。
男の子が眠ると、もとの川岸へ連れていきました。
水の妖精は、また一人ぼっちかと思うと、悲しくて涙がポロリとこぼれおちました。
男の子は目をさますと、急いで服を着ました。
「あれ? 水の妖精といたのに、夢だったのかな?」
でも、ポケットには宝石がいっぱいはいっていました。
男の子は、家へとんで帰りました。
「ただいま! ぼくだよ」
「まあ、おまえ、どこにいってたの!」
「心配したんだぞ!」
お父さんもお母さんも、兄さんも姉さんも、かわるがわる男の子を強く抱きしめました。