あまりにも太りすぎて、もう歩くのがやっとというありさまです。
女の人はどうにかしてやせたいと思って、ヨタヨタとお医者のところへ行きました。
「先生、わたしはドンドン太るばかりで、今にはれつしそうです。ぜひ、やせるお薬をください」
女の人は、一生懸命に頼みました。
「今日は、しんさつ代だけ払ってお帰りなさい。明日また、来てください」
お医者は高いお金をとって、女の人を返しました。
あくる日、女の人はお医者のところヘ行きました。
お医者は、女の人の頭のてっぺんから足の先までながめました。
それからお医者は、重々しく話し出しました。
「奥さん。
昨日わたしは、2万1783さつの書物を読み、1800万の星をうらなってみました。
それによると、あなたはあと七日しか命がありません。
もうじき死ぬのに、薬もいらないでしょう。
お帰りになって、死ぬ時をお待ちなさい」
「!!!!!!」
太った女の人は、それを聞いてガタガタ震え出しました。
帰る途中も、帰ってからも、死ぬ事ばかり考え続けました。
朝から晩まで、あと何日、あと何時間生きていられるかと、そればかり考え続けました。
何にも、のどを通りません。
夜も、ねむれません。
女の人は日ましに、いいえ、一時間ごとにやせていきました。
七日間が、すぎました。
女の人は覚悟を決めると、しずかに横になって死ぬのを待ちました。
けれども、いっこうに死にません。
八日すぎても、九日すぎても、やっぱり死にません。
十日目になると、とうとう女の人はがまん出来なくなって、お医者のところへかけつけました。
すっかりやせた女の人は、らくらくと走る事が出来ました。
「あなたは、何て下手くそなお医者なんでしょう!
あんなにお金を取っておきながら、人をだましたのね!
七日したら死ぬっておっしゃいましたけど、もう今日は十日目ですよ。
この通り、ピンピンしているじゃありませんか!」
女の人は、ものすごい勢いで文句を言いました。
お医者は落ち着きはらって聞いていましたが、ふと女の人に聞き返しました。
「ちょっとうかがいますが、あなたは今、太っていますか? やせていますか?」
女の人は、答えました。
「やせましたとも!
死ぬのがおそろしくて、食べ物ものどを通りませんでしたからね!」
すると、お医者は言いました。
「そうでしょう。
その、おそろしいと思う気持が、やせ薬だったのですよ。
これでもあなたは、わたしを下手くそ医者だと言われるのですか?」
「あっ???」
女の人は気がついて、笑い出しました。