そのネコは、なかなかにかしこくて、しかも美しいネコだったので、その人は「天(てん)」という名前をつけて、大変かわいがっていました。
けれども、ネコの名前に「天」というのは、なんだか変なので、その人の息子が、
「ネコに『天』という名は、立派すぎて変ですよ。ちがう名前にしたらどうですか?」
と、いいました。
でも父親は、
「いやいや、うちのネコは素晴らしいネコなんだ。だから素晴らしい名前でいいんだよ」
そういって、息子の話しを聞きいれようとしません。
そこで息子は、となりの家のおじいさんにたずねてみました。
「お父さんがネコの名前に『天』という名をつけたのですが、おかしいとおもいませんか?」
おじいさんはしばらく考えてから、ネコ好きの人の家へやってきました。
「あなたはなぜ、ネコに『天』という名をつけたのですか? もっとネコらしい名前にした方が、よいのじゃありませんか?」
おじいさんがそういうと、ネコ好きの人は、
「いやいや、うちのネコには『天』という名前がピッタリです。なぜなら天は、この世の中で一番高いところにあるものですからね」
そういって、相手にしようともしません。
そこでおじいさんは、負けずにいいました。
「だけど、くもはその天を見えないようにかくしてしまうことができますよ」
「???そうか、なるほど!」
ネコ好きの人は、感心したようにうなずきました。
「そういわれればそうだ。では、ネコの名前は『くも』にかえよう」
ネコ好きの人がそういうと、おじいさんはまた言葉をつづけます。
「でも、くもは風にふきとばされてしまいますね」
「それもそうだな。では、風という名前にかえましょう」
「いや、風はいくらふいても、壁にとめられてしまいます」
「よし、それじゃ名前は壁にしよう」
「でも、壁はネズミに穴を開けられてしまいますよ」
「じゃあ、ネズミという名前にしましょうか」
「ネコにネズミという名をつけるのもおかしいでしょう。それに、ネズミよりも強いものはネコですよ」
「ああ、なるほど。ネコが一番強いというわけだ。よし、家のネコの名前はネコにきまった」
「それがいい。やっぱりネコには、ネコという名前がピッタリですよ」
おじいさんは手をたたいて、ニッコリほほえみました。