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赤い手袋

时间: 2022-09-06    进入日语论坛
核心提示:赤い手袋小川未明 政雄(まさお)は、姉(ねえ)さんからこさえてもらいました、赤(あか)い毛糸(けいと)の手袋(てぶくろ)を、学校(
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赤い手袋

小川未明

 


 政雄(まさお)は、姉(ねえ)さんからこさえてもらいました、赤(あか)い毛糸(けいと)の手袋(てぶくろ)を、学校(がっこう)から帰(かえ)りに、どこでか落(お)としてしまったのです。
 その日(ひ)は、寒(さむ)い日(ひ)で、雪(ゆき)が積(つ)もっていました。そして、終日(いちにち)、空(そら)は曇(くも)って日(ひ)の光(ひかり)すらささない日(ひ)でありましたが、みんなは元気(げんき)で、学校(がっこう)から帰(かえ)りに、雪投(ゆきな)げをしたり、また、あるものは相撲(すもう)などを取(と)ったりしたので、政雄(まさお)も、いっしょに雪(ゆき)を投(な)げて遊(あそ)びました。そのとき、手袋(てぶくろ)をとって、外套(がいとう)の隠(かく)しの中(なか)に入(い)れたような気(き)がしましたが、きっとよく入(い)れきらなかったので、途中(とちゅう)で落(お)としてしまったものとみえます。
 政雄(まさお)は、家(うち)に帰(かえ)ってから、はじめてそのことに気(き)づきました。いよいよなくしてしまいますと、なつかしい赤(あか)い手袋(てぶくろ)が目(め)についてなりませんでした。それも、そのはずであって、毎日(まいにち)学校(がっこう)の往来(ゆきき)に、手(て)にはめてきたばかりでなく、町(まち)へ買(か)い物(もの)にやらされたときも、この赤(あか)い手袋(てぶくろ)をはめてゆき、お湯(ゆ)にいったときも、この赤(あか)い手袋(てぶくろ)をはめてゆき、また、夜(よる)、かるたを取(と)りに近所(きんじょ)へ呼(よ)ばれていったときも、この赤(あか)い手袋(てぶくろ)をはめていったからであります。
 それほど、自分(じぶん)に親(した)しいものでありましたから、政雄(まさお)は、惜(お)しくてなりません。それよりも、もっと、こんなに寒(さむ)いのに、雪(ゆき)の上(うえ)に落(お)ちていることが、手袋(てぶくろ)にとってかわいそうでなりませんでした。
「どんなにか手袋(てぶくろ)は、家(うち)に帰(かえ)りたいと思(おも)っているだろう。」と考(かんが)えると、政雄(まさお)は、どうかして探(さが)してきてやりたい気持(きも)ちがしたのであります。
 けれど、そのとき、やさしい姉(ねえ)さまは、政雄(まさお)をなぐさめて、
「わたしが、またいい代(か)わりをこしらえてあげるから、この風(かぜ)の寒(さむ)いのに、わざわざ探(さが)しにいかなくてもいいことよ。」とおっしゃったので、ついに政雄(まさお)は、その赤(あか)い手袋(てぶくろ)のことをあきらめてしまいました。
 ちょうど、その日(ひ)の暮(く)れ方(がた)でありました。空(そら)は曇(くも)って、寒(さむ)い風(かぜ)が吹(ふ)いていました。あまり人通(ひとどお)りもない、雪道(ゆきみち)の上(うえ)に、二つの赤(あか)い手袋(てぶくろ)がいっしょに落(お)ちていました。
 いままで、暖(あたた)かい外套(がいとう)のポケットに入(はい)っていた手袋(てぶくろ)は、冷(つめ)たい雪(ゆき)の上(うえ)にさらされてびっくりしていたのです。
 このとき、町(まち)の方(ほう)から、七つ、八つの男(おとこ)の子(こ)が、手足(てあし)の指(ゆび)を真(ま)っ赤(か)にして、汚(きたな)らしい着物(きもの)をきて、小(ちい)さなわらじをはいて、とぼとぼやってきました。
 この子(こ)は、遠(とお)い村(むら)に住(す)んでいる乞食(こじき)の子(こ)であったのです。昼(ひる)は町(まち)に出(で)て、お銭(あし)や、食(た)べ物(もの)をもらって歩(ある)いて、もはや、日(ひ)が暮(く)れますので、自分(じぶん)の家(いえ)へ帰(かえ)ってゆくのでした。子供(こども)はとぼとぼときかかりますと、雪(ゆき)の上(うえ)に、真(ま)っ赤(か)な手袋(てぶくろ)が落(お)ちているのが目(め)につきました。
 子供(こども)は、すぐには、それを拾(ひろ)おうとせずに、じっと見(み)ていましたが、そのうち、小(ちい)さな手(て)を出(だ)して、それを拾(ひろ)い上(あ)げて、さも珍(めずら)しそうに見(み)とれていました。子供(こども)は、前(まえ)には、こんな美(うつく)しいものを手(て)にとって見(み)たことがなかったのです。町(まち)へ出(で)まして、いろいろりっぱなものを並(なら)べた店頭(みせさき)を通(とお)りましても、それは、ただ見(み)るばかりで、名(な)すら知(し)らなかったのであります。
 子供(こども)は、なんと思(おも)いましたか、その赤(あか)い手袋(てぶくろ)を自分(じぶん)のほおにすりつけました。また、いくたびとなく、それに接吻(せっぷん)しました。けれど、それをけっして、自分(じぶん)の手(て)にはめてみようとはいたしませんでした。
 子供(こども)は、たいせつなものでも握(にぎ)ったように、それを抱(だ)くようにして、さびしい、雪道(ゆきみち)の上(うえ)を、自分(じぶん)の家(いえ)のある村(むら)の方(ほう)を指(さ)して、とぼとぼと歩(ある)いてゆきました。
 日暮(ひぐ)れ方(がた)を告(つ)げる、からすの声(こえ)が、遠(とお)くの森(もり)の方(ほう)で聞(き)こえていました。
 子供(こども)は、やがて大(おお)きな木(き)の下(した)にあった、みすぼらしい小屋(こや)の前(まえ)にきました。そこが子供(こども)の家(いえ)であったのです。
 小屋(こや)の中(なか)には、青(あお)い顔(かお)をして、母親(ははおや)が黙(だま)ってすわっていました。そのそばに、薄(うす)いふとんをかけて、十ばかりになる子供(こども)の姉(あね)が病気(びょうき)でねていました。その姉(あね)の女(おんな)の子(こ)の顔(かお)は、やせて、もっと蒼(あお)かったのであります。
「姉(ねえ)ちゃん、いいものを持(も)ってきてあげたよ。」と、子供(こども)はいって、赤(あか)い手袋(てぶくろ)を姉(あね)のまくらもとに置(お)きました。けれど、姉(あね)は返事(へんじ)をしませんでした。細(ほそ)い手(て)をしっかり胸(むね)の上(うえ)に組(く)んで、このときもう姉(ねえ)さんは死(し)んでいたのです。

 

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