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赤い姫と黒い皇子

时间: 2022-09-06    进入日语论坛
核心提示:赤い姫と黒い皇子小川未明 ある国(くに)に美(うつく)しいお姫(ひめ)さまがありました。いつも赤(あか)い着物(きもの)をきて、黒
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赤い姫と黒い皇子

小川未明

 


 ある国(くに)に美(うつく)しいお姫(ひめ)さまがありました。いつも赤(あか)い着物(きもの)をきて、黒(くろ)い髪(かみ)を長(なが)く垂(た)れていましたから、人々(ひとびと)は、「赤(あか)い姫君(ひめぎみ)」といっていました。
 あるときのこと、隣(となり)の国(くに)から、お姫(ひめ)さまをお嫁(よめ)にほしいといってきました。お姫(ひめ)さまは、その皇子(おうじ)をまだごらんにならなかったばかりでなく、その国(くに)すら、どんな国(くに)であるか、お知(し)りにならなかったのです。
「さあ、どうしたものだろうか。」と、お姫(ひめ)さまは、たいそうお考(かんが)えになりました。それには、だれか人(ひと)をやって、よくその皇子(おうじ)の身(み)の上(うえ)を探(さぐ)ってもらうにしくはないと考(かんが)えられましたから、お伴(とも)の人(ひと)をその国(くに)にやられました。
「よく、おまえはあちらにいって、人々(ひとびと)のうわさや、また、どんなごようすの方(かた)だか見(み)てきておくれ。」といわれました。
 そのものは、さっそく皇子(おうじ)の国(くに)へ出(で)かけていきました。すると、隣(となり)の国(くに)から、人(ひと)が今度(こんど)のご縁談(えんだん)について探(さぐ)りにきたといううわさが、すぐにその国(くに)の人々(ひとびと)の口(くち)に上(のぼ)りましたから、さっそく御殿(ごてん)にも聞(き)こえました。
「どうしても、あの、美(うつく)しい姫(ひめ)を、自分(じぶん)の嫁(よめ)にもらわなければならぬ。」と、皇子(おうじ)は望(のぞ)んでいられるやさきでありますから、ようすを探(さぐ)りにきたものを十分(ぶん)にもてなして帰(かえ)されました。
 やがて、そのものは、立(た)ち帰(かえ)りました。お待(ま)ちになっていたお姫(ひめ)さまは、どんなようすであったかと、すぐにおたずねになりました。
「それは、りこうな、りっぱな皇子(おうじ)であらせられます。御殿(ごてん)は金銀(きんぎん)で飾(かざ)られていますし、都(みやこ)は広(ひろ)く、にぎやかで、きれいでございます。」と、家来(けらい)は答(こた)えました。
 お姫(ひめ)さまは、うれしく思(おも)われました。しかし、なかなか注意深(ちゅういぶか)いお方(かた)でありましたから、ただ一人(ひとり)の家来(けらい)のいったことだけでは、安心(あんしん)をいたされませんでした。ほかに、もう一人(ひとり)、家来(けらい)をやって、よくようすを探(さぐ)らせようとお考(かんが)えになったのです。
「こんどは、ひとつ姿(すがた)をかえてやろう。それでないと、ほんとうのことはわからないかもしれぬ。」と思(おも)われましたので、お姫(ひめ)さまは、家来(けらい)を乞食(こじき)に仕立(した)てて、おつかわしになりました。
 いろいろの乞食(こじき)が、東西(とうざい)、南北(なんぼく)、その国(くに)の都(みやこ)をいつも往来(おうらい)していますので、その国(くに)の人(ひと)も、これには気(き)づきませんでした。
 乞食(こじき)に姿(すがた)をかえたお姫(ひめ)さまの使(つか)いのものは、いろいろなうわさを聞(き)くことを得(え)ました。そして、そのものは、急(いそ)いで帰(かえ)りました。
 お姫(ひめ)さまは、待(ま)っておられたので、そのものが帰(かえ)るとすぐに自分(じぶん)の前(まえ)にお召(め)しなされて、聞(き)いたことや見(み)たことを、すっかり話(はな)すようにといわれました。
「私(わたし)は、つい皇子(おうじ)を目(ま)のあたりに見(み)られませんでした。しかし、たしかに聞(き)いてまいりました。皇子(おうじ)は御殿(ごてん)から外(そと)に出(で)られますときは、いつも黒(くろ)い馬車(ばしゃ)に乗(の)っていられます。そして、いつも皇子(おうじ)は、黒(くろ)のシルクハットをかぶり、燕尾服(えんびふく)を着(き)ておいでになります。そして片目(かため)なので、黒(くろ)の眼鏡(めがね)をかけておいでになるということです。」と申(もう)しあげました。
 お姫(ひめ)さまは、これを聞(き)くと、前(まえ)の家来(けらい)の申(もう)したこととたいそう違(ちが)っていますので、びっくりなさいました。すぐに縁談(えんだん)を断(ことわ)ってしまおうかとも思(おも)われましたが、もし、そうしたら、きっと皇子(おうじ)が復讐(ふくしゅう)をしに攻(せ)めてくるだろうというような気(き)がして、すぐには決(けっ)しかねたのであります。
 やさしい心(こころ)のお姫(ひめ)さまは、片目(かため)であるという皇子(おうじ)の身(み)の上(うえ)をかわいそうにも思(おも)われました。そして、お嫁(よめ)にいって、なぐさめてあげようかとも思(おも)われました。毎日(まいにち)のように、赤(あか)い姫君(ひめぎみ)は、ぼんやりと遠(とお)くの空(そら)をながめて、物思(ものおも)いに沈(しず)んでいられました。すると、高(たか)い黒(くろ)のシルクハットをかぶって、黒(くろ)の燕尾服(えんびふく)を着(き)て、黒塗(くろぬ)りの馬車(ばしゃ)に乗(の)った皇子(おうじ)の幻(まぼろし)が浮(う)かんで、あちらの地平線(ちへいせん)を横切(よこぎ)るのが、ありありと見(み)えるのでありました。
 雨(あめ)の降(ふ)る日(ひ)も、この黒塗(くろぬ)りの馬車(ばしゃ)は駆(か)けていきました。風(かぜ)の吹(ふ)く日(ひ)も、黒(くろ)のシルクハットをかぶって燕尾服(えんびふく)を着(き)た皇子(おうじ)を乗(の)せた、この馬車(ばしゃ)の幻(まぼろし)は走(はし)っていきました。
 お姫(ひめ)さまは、もう、どうしたら、いちばんいいであろうかと迷(まよ)っていられました。
「ああ、こうして、幻(まぼろし)にうなされるというのも、わたしの運命(うんめい)であろう。」と、あるときは、思(おも)われました。
「わたしさえ、我慢(がまん)をすれば、それでいいのだ。」と、あるときは考(かんが)えられました。そのうちに、皇子(おうじ)のほうからは、たびたび催促(さいそく)があって、そのうえに、たくさんの金銀(きんぎん)・宝石(ほうせき)の類(るい)を車(くるま)に積(つ)んで、お姫(ひめ)さまに贈(おく)られました。また、お姫(ひめ)さまは、二ひきの黒(くろ)い、みごとな黒馬(くろうま)を皇子(おうじ)に貢(みつ)ぎ物(もの)とせられたのです。
 いよいよ、赤(あか)い姫君(ひめぎみ)と黒(くろ)い皇子(おうじ)とがご結婚(けっこん)をなされるといううわさがたちました。そのとき、一人(ひとり)のおばあさんの予言者(よげんしゃ)が、姫君(ひめぎみ)の前(まえ)に現(あらわ)れて申(もう)しあげたのであります。このおばあさんは、これまでいろいろなことについて予言(よげん)をしました。そして、みんなそれが当(あ)たったというので、この国(くに)の人々(ひとびと)からおそれられ、よく知(し)られていました。
「このご結婚(けっこん)は、赤(あか)と黒(くろ)との結婚(けっこん)です。赤(あか)が、黒(くろ)に見込(みこ)まれている。お姫(ひめ)さま、あなたは、皇子(おうじ)に生(い)き血(ち)を吸(す)われることとなります。この結婚(けっこん)は不吉(ふきつ)でございます。もし、ご結婚(けっこん)をなされば、この国(くに)に疫病(えきびょう)が流行(りゅうこう)します。」と、おばあさんの予言者(よげんしゃ)はいいました。
 お姫(ひめ)さまは、これを聞(き)いて、心配(しんぱい)なされました。どうしたらいいだろうかと、それからというものは、毎日(まいにち)、赤(あか)い、長(なが)いそでを顔(かお)にあてては、泣(な)いて悲(かな)しまれたのであります。
 皇子(おうじ)とお姫(ひめ)さまの、約束(やくそく)の結婚(けっこん)の日(ひ)が、いよいよ近(ちか)づいてまいりました。お姫(ひめ)さまは、どうしたらいいだろうかと、お供(とも)の人々(ひとびと)におたずねになりました。
 このとき、黒(くろ)いシルクハットをかぶって、燕尾服(えんびふく)を着(き)た皇子(おうじ)を乗(の)せた、黒(くろ)い馬車(ばしゃ)の幻(まぼろし)が、ありありとお姫(ひめ)さまに見(み)えたのであります。お姫(ひめ)さまはぞっとなされました。
「なんでも執念深(しゅうねんぶか)い皇子(おうじ)だといいますから、お姫(ひめ)さまは、早(はや)くこの町(まち)から立(た)ち去(さ)って、あちらの遠(とお)い島(しま)へお逃(に)げになったほうが、よろしゅうございましょう。あちらの島(しま)は、気候(きこう)もよく、いつでも美(うつく)しい、薫(かお)りの高(たか)い花(はな)が咲(さ)いているということであります。」と、お供(とも)のものは申(もう)しました。
 お姫(ひめ)さまは、だれも気(き)のつかないうちに、あちらの島(しま)へ身(み)を隠(かく)すことになさいました。ある日(ひ)のこと三人(にん)の侍女(こしもと)とともに、たくさんの金銀(きんぎん)を船(ふね)に積(つ)まれました。そして、赤(あか)い着物(きもの)をきたお姫(ひめ)さまは、その船(ふね)におすわりになりました。
 青(あお)い海(うみ)を、静(しず)かに、船(ふね)は港(みなと)から離(はな)れて、沖(おき)の方(ほう)へとこぎ出(で)たのです。空(そら)は澄(す)んでいました。そして、遠(とお)く、かなたには、島(しま)の影(かげ)がほんのりと浮(う)かんでいたのであります。
 船(ふね)には、たくさんの金銀(きんぎん)が積(つ)み込(こ)んでありましたから、その重(おも)みでか、船(ふね)は沖(おき)へ出(で)てしまって、もう、陸(りく)の方(ほう)がかすんで見(み)られなくなった時分(じぶん)から、だんだんと沈(しず)みかけたのでした。どんなに、三人(にん)の侍女(こしもと)とお姫(ひめ)さまは驚(おどろ)かれたでありましょう。
「やはり、皇子(おうじ)が、わたしをやらないように引(ひ)っ張(ぱ)っているのです。」
と、お姫(ひめ)さまは歎(なげ)かれました。
「いいえ、お姫(ひめ)さま。これは、あまり金(きん)や銀(ぎん)をたくさん船(ふね)に積(つ)み込(こ)んであるからであります。金(きん)や銀(ぎん)の重(おも)みを去(さ)れば、船(ふね)は、軽(かる)くなって浮(う)き上(あ)がるでありましょう。」と、侍女(こしもと)らはいいました。
「そんなら、みんな金(きん)や、銀(ぎん)を海(うみ)の中(なか)に投(ほう)り込(こ)んでおしまいなさい。」
と、お姫(ひめ)さまは、侍女(こしもと)たちに命(めい)ぜられました。
 侍女(こしもと)たちは、金(きん)や、銀(ぎん)を手(て)に取(と)って、一つずつ海(うみ)の中(なか)に投(な)げ込(こ)みました。陸(りく)の方(ほう)では、これを知(し)っているわずかの人(ひと)だけが、お姫(ひめ)さまの船(ふね)を見送(みおく)っていたのですが、このとき、海(うみ)の上(うえ)が光(ひか)って、水(みず)の中(なか)に沈(しず)んでいくまばゆい光(ひかり)を、その人々(ひとびと)はながめました。そして、お姫(ひめ)さまの赤(あか)い着物(きもの)に、日(ひ)が映(うつ)って、海(うみ)の上(うえ)を染(そ)めるよう見(み)えたのです。
 しかし、不思議(ふしぎ)なことには、船(ふね)はだんだんと水(みず)の中(なか)に深(ふか)く沈(しず)んでいきました。侍女(こしもと)たちが手(て)に手(て)を取(と)って投(な)げる金銀(きんぎん)の輝(かがや)きと、お姫(ひめ)さまの赤(あか)い着物(きもの)とが、さながら雲(くも)の舞(ま)うような、夕日(ゆうひ)に映(うつ)る光景(こうけい)は、やはり陸(りく)の人々(ひとびと)の目(め)に見(み)られたのです。
「お姫(ひめ)さまの船(ふね)が、海(うみ)の中(なか)に沈(しず)んでしまったのだろうか。」と、陸(りく)では、みんなが騒(さわ)ぎはじめました。
 赤(あか)い姫君(ひめぎみ)と黒(くろ)い皇子(おうじ)の結婚(けっこん)の日(ひ)のことであります。皇子(おうじ)は、待(ま)てども待(ま)てども、姫君(ひめぎみ)が見(み)えないので、腹(はら)をたてて、ひとつには心配(しんぱい)をして、幾人(いくにん)かの勇士(ゆうし)を従(したが)えて、自(みずか)らシルクハットをかぶり、燕尾服(えんびふく)を着(き)て、黒塗(くろぬ)りの馬車(ばしゃ)に乗(の)り、姫(ひめ)から贈(おく)られた黒馬(くろうま)にそれを引(ひ)かせて、お姫(ひめ)さまの御殿(ごてん)のある城下(じょうか)を指(さ)して駆(か)けてきたのです。
 城下(じょうか)の人々(ひとびと)は、今度(こんど)のことから、なにか起(お)こらなければいいがと心配(しんぱい)していました。ちょうどそのとき、皇子(おうじ)がやってこられるといううわさを聞(き)きましたので、みんなは家(いえ)の中(なか)に入(はい)って、かかり合(あ)いにならぬように、戸(と)を堅(かた)く閉(し)めてしまいました。
 はたして夜(よる)になると、家(いえ)の前(まえ)をカッポ、カッポと鳴(な)らして通(とお)るひづめの音(おと)をみんなは聞(き)きました。その後(あと)からつづいて、幾(いく)つかの乱(みだ)れたひづめの音(おと)が、入(い)り混(ま)じって聞(き)こえてきました。みんなは、息(いき)を潜(ひそ)めて黙(だま)って、その音(おと)に耳(みみ)を傾(かたむ)けたのです。すると、ひづめの音(おと)は、だんだんあちらに遠(とお)ざかっていきました。
 しばらくすると、こんどは、あちらから、こちらへ、カッポ、カッポと鳴(な)り近(ちか)づくひづめの音(おと)が聞(き)こえました。つづいて入(い)り乱(みだ)れた幾(いく)つもの音(おと)を聞(き)いたのでありました。あちらにお姫(ひめ)さまがいないので、彼(かれ)らはこちらにきて探(さが)すもののように思(おも)われました。
「お姫(ひめ)さまは、昨夜(さくや)、海(うみ)の中(なか)に沈(しず)んでしまわれたのだもの。いくら探(さが)したって見(み)つかるはずがない。」と、人々(ひとびと)は思(おも)っていました。
 また、ひづめの音(おと)が聞(き)こえました。こんどは、またこちらから、あちらへもどっていくのです。
「姫(ひめ)は、どこへいったのじゃ。」と、叫(さけ)ぶ声(こえ)が、闇(やみ)の中(なか)でしました。
 やがて、そのひづめの音(おと)が、聞(き)こえなくなると、後(あと)には、夜風(よかぜ)の空(そら)を渡(わた)る音(おと)がかすかにしました。しかしこうして、ひづめの音(おと)は、夜中(よなか)、家々(いえいえ)の前(まえ)をいくたびも往来(おうらい)したのであります。そして、夜明(よあ)けごろに、この一隊(たい)は、海(うみ)の方(ほう)を指(さ)して、走(はし)っていきました。人々(ひとびと)は、その夜(よ)は眠(ねむ)らずに、耳(みみ)を澄(す)まして、このひづめの音(おと)を聞(き)いていました。
 夜(よ)が明(あ)けたときには、もうこの一隊(たい)は、この城下(じょうか)には、どこにも見(み)えませんでした。前夜(ぜんや)のうちに、皇子(おうじ)の馬車(ばしゃ)も、それについてきた騎馬(きば)の勇士(ゆうし)らも、波(なみ)の上(うえ)へ、とっとと駆(か)け込(こ)んで、海(うみ)の中(なか)へ入(はい)ってしまったものと思(おも)われたのであります。
 夕焼(ゆうや)けのした晩方(ばんがた)に、海(うみ)の上(うえ)を、電光(でんこう)がし、ゴロゴロと雷(かみなり)が鳴(な)って、ちょうど馬車(ばしゃ)の駆(か)けるように、黒雲(くろくも)がいくのが見(み)られます。それを見(み)ると、この町(まち)の人々(ひとびと)は、
「赤(あか)い姫君(ひめぎみ)を慕(した)って、黒(くろ)い皇子(おうじ)が追(お)っていかれる。」と、いまでも、いっているのでありました。

 

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