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あほう鳥の鳴く日(3)

时间: 2022-09-19    进入日语论坛
核心提示:「みんなが、そのような、正(ただ)しい考(かんが)えを持(も)っていましたら、どんなにこの世(よ)の中(なか)がいいでしょう? 私
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「みんなが、そのような、正(ただ)しい考(かんが)えを持(も)っていましたら、どんなにこの世(よ)の中(なか)がいいでしょう? 私(わたし)は、この話(はなし)をみんなに知(し)らしたいと思(おも)います。私(わたし)は、珍(めずら)しい鳥(とり)をあなたにあげますから、いつまでも飼(か)ってやってください。そして、私(わたし)を忘(わす)れずにいてください。」と、昔(むかし)の子供(こども)はいいました。
 口笛(くちぶえ)を上手(じょうず)に吹(ふ)く彼(かれ)は、山(やま)の方(ほう)へはいっていきました。そして、どこからか、一羽(わ)の珍(めずら)しい鳥(とり)を捕(つか)まえてきました。
「なんという鳥(とり)ですか。」と、年上(としうえ)の若者(わかもの)がきくと、
「どうか、あほう鳥(どり)という名(な)をつけておいてください。この鳥(とり)をあなたにさしあげます。」と、年若(としわか)の子供(こども)は答(こた)えた。
 二人(ふたり)は、ついに南(みなみ)と北(きた)に別(わか)れました。
 それから、幾(いく)十年(ねん)……たったことでしょう。ある町(まち)の二階(かい)を借(か)りて、年(とし)とった男(おとこ)が、鳥(とり)と二人(ふたり)でさびしい生活(せいかつ)をしていました。
 男(おとこ)は頭(あたま)の髪(かみ)が半分(はんぶん)白(しろ)くなりました。鳥(とり)も年(とし)をとってしまいました。男(おとこ)は、鳥(とり)の焼(や)き画(え)を描(か)くことや、象眼(ぞうがん)をすることが上手(じょうず)でありました。終日(しゅうじつ)、二階(かい)の一間(ひとま)で仕事(しごと)をしていました。その仕事場(しごとば)の台(だい)の前(まえ)に、一羽(わ)の翼(つばさ)の長(なが)い鳥(とり)がじっとして立(た)っています。ちょうど、それは鋳物(いもの)で造(つく)られた鳥(とり)か、また、剥製(はくせい)のように見(み)られたのでありました。
 男(おとこ)は、夜(よる)おそくまで、障子(しょうじ)を開(あ)け放(はな)して、ランプの下(した)で仕事(しごと)をすることもありました。夏(なつ)になると、いつも障子(しょうじ)が開(あ)けてありましたから、外(そと)を歩(ある)く人(ひと)は、この室(しつ)の一部(ぶ)を見上(みあ)げることもできました。
 ちょうど隣(となり)の家(いえ)の二階(かい)には、中学校(ちゅうがっこう)へ、教(おしえ)えに出(で)る博物(はくぶつ)の教師(きょうし)が借(か)りていました。博物(はくぶつ)の教師(きょうし)は、よく円形(えんけい)な眼鏡(めがね)をかけて、顔(かお)を出(だ)してこちらをのぞくのであります。
 博物(はくぶつ)の教師(きょうし)は、あごにひげをはやしている、きわめて気軽(きがる)な人(ひと)でありましたが、いつも剥製(はくせい)の鳥(とり)を、なんだろう? ついぞ見(み)たことのない鳥(とり)だが、と思(おも)っていました。男(おとこ)が、気(き)むずかしい顔(かお)をして仕事(しごと)をしているので、つい口(くち)を出(だ)さずにいましたが、ある日(ひ)のこと、教師(きょうし)は、
「あれは、なんという鳥(とり)の剥製(はくせい)ですか?」と、唐突(とうとつ)にききました。
 下(した)を向(む)いて仕事(しごと)をしていた男(おとこ)は、隣(となり)の屋根(やね)から、こちらを向(む)いて、みょうな男(おとこ)が顔(かお)を出(だ)してものをいったので、気(き)むずかしい顔(かお)を上(あ)げてみましたが、急(きゅう)に笑顔(えがお)になって、
「やあ、お隣(となり)の先生(せんせい)ですか。さあ、どうぞ、そこからお入(はい)りください。」と、男(おとこ)はいいました。
 男(おとこ)は、その人(ひと)が、学校(がっこう)の先生(せんせい)であるのを、前(まえ)からものこそいわなかったけれど、知(し)っていたのです。
「なんという鳥(とり)ですか? 珍(めずら)しい鳥(とり)ですな。」と、先生(せんせい)は、はいろうともせずにたずねたのであります。
「あほう鳥(どり)といいます。」と、男(おとこ)は答(こた)えました。
「あほう鳥(どり)?」といって、先生(せんせい)は、聞(き)いたことのない名(な)なので、びっくりしたように目(め)を円(まる)くしました。
「なんにしてもいい剥製(はくせい)ですな。」と、先生(せんせい)は、ため息(いき)をもらしました。
「いや、剥製(はくせい)ではありません。生(い)きているのです。もう年(とし)をとったので、いつもこうして眠(ねむ)っています。」と、男(おとこ)は答(こた)えました。
 先生(せんせい)は、不思議(ふしぎ)なことが、あればあるものだと、ふたたび、びっくりしました。この先生(せんせい)もどちらかといえば、あまり人(ひと)と交際(こうさい)をしない変人(へんじん)でありましたが、こんなことから、隣(となり)の男(おとこ)と話(はなし)をするようになりました。
 ある朝(あさ)、あほう鳥(どり)が鳴(な)きました。男(おとこ)は、なにかあるな? と胸(むね)に思(おも)いました。
 はたして、隣(となり)の先生(せんせい)がやってきました。そして、大事(だいじ)に扱(あつか)うから、ちょっとあほう鳥(どり)を学校(がっこう)へ貸(か)してくれないかと頼(たの)みました。男(おとこ)は、あほう鳥(どり)をひとり手放(てばな)すのを気遣(きづか)って、自分(じぶん)も学校(がっこう)まで先生(せんせい)といっしょについていきました。
 こんなことから、男(おとこ)は、多数(たすう)の生徒(せいと)らに向(む)かって、昔(むかし)、南(みなみ)のある町(まち)を歩(ある)いているときに、子供(こども)を助(たす)けたこと、それから、その子供(こども)といっしょに働(はたら)いたこと、子供(こども)は、どんな鳥(とり)でも自分(じぶん)の友(とも)だちにすることができたこと、この鳥(とり)は、その青年(せいねん)が分(わか)れるときにくれて、いままで長(なが)い月日(つきひ)の間(あいだ)を、この鳥(とり)と自分(じぶん)は、いっしょに生活(せいかつ)をしてきたことなどを、物語(ものがた)ったのであります。
 それから、正直(しょうじき)な「鳥(とり)の老人(ろうじん)」として、この町(まち)の付近(ふきん)には評判(ひょうばん)されました。この人(ひと)の、鳥(とり)の焼(や)き画(え)や象眼(ぞうがん)は、急(きゅう)に、名人(めいじん)の技術(ぎじゅつ)だとうわさされるにいたりました。
 暗(くら)い、夜(よる)のことであります。この年(とし)とった男(おとこ)は、ランプの下(した)で仕事(しごと)をしていますと、急(きゅう)にじっとしていたあほう鳥(どり)が羽(は)ばたきをして、奇妙(きみょう)な声(こえ)をたてて、室(しつ)の中(なか)をかけまわりました。いままでこんなことはなかったのです。
「おまえは、気(き)でも狂(くる)ったのではないか!」と、男(おとこ)は、鳥(とり)に向(む)かっていいました。けれど、鳥(とり)は、なかなかおちつくようすはありませんでした。
「先生(せんせい)に、きてみてもらおう。」と、男(おとこ)は、もうこのごろでは、親(した)しくなった、隣(となり)の先生(せんせい)を呼(よ)んだのでありました。
「鳥(とり)は、ものに感(かん)じやすいというから、今夜(こんや)、変(か)わったことがあるのかもしれない。あるいは地震(じしん)でもな……気(き)をつけましょう。」と、先生(せんせい)は、しきりに騒(さわ)ぐ鳥(とり)を見(み)ながらいいました。
 はたして、その夜(よ)、この町(まち)に大火(たいか)が起(お)こりました。そして、ほとんど、町(まち)の大半(たいはん)は全滅(ぜんめつ)して、また負傷(ふしょう)した人(ひと)がたくさんありました。
 この騒(さわ)ぎに、あほう鳥(どり)の行方(ゆくえ)が、わからなくなりました。男(おとこ)はどんなにか、そのことを悲(かな)しんだでしょう。彼(かれ)は、焼(や)け跡(あと)に立(た)って、終日(しゅうじつ)、あほう鳥(どり)の帰(かえ)ってくるのを待(ま)っていました。しかし、とうとう、鳥(とり)は帰(かえ)ってきませんでした。煙(けむり)に巻(ま)かれて、焼(や)け死(し)んだものか、南(みなみ)の故郷(こきょう)に、逃(に)げていったものか、いずれかでなければなりません。
「私(わたし)は、べつに、この町(まち)にいなければならない身(み)ではないのです。もう一度(ど)、鳥(とり)のすんでいた国(くに)にいってみようと思(おも)います。」と、男(おとこ)は、先生(せんせい)にいいました。
「そうですか、そんなら、私(わたし)も、あなたといっしょにいって、その口笛(くちぶえ)の名人(めいじん)について、珍(めずら)しい鳥(とり)の研究(けんきゅう)をいたします。」と、先生(せんせい)がいいました。
 こうして、男(おとこ)と先生(せんせい)は、旅(たび)に出(で)かけました。遠(とお)くの空(そら)に、白(しろ)い雲(くも)が漂(ただよ)っていました。三人(にん)が落(お)ち合(あ)った日(ひ)、どんな話(はなし)を、たがいに睦(むつ)まじく語(かた)り合(あ)うでありましょう。


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