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ある夜の姉と弟

时间: 2022-10-14    进入日语论坛
核心提示:ある夜の姉と弟小川未明 ある日(ひ)のこと、義夫(よしお)は、お母(かあ)さんにつれられて町(まち)へいくと、露店(ろてん)が並(
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ある夜の姉と弟

小川未明 


 ある日(ひ)のこと、義夫(よしお)は、お母(かあ)さんにつれられて町(まち)へいくと、露店(ろてん)が並(なら)んでいました。くつしたや、シャツなどを拡(ひろ)げたのや、バナナを積(つ)み上(あ)げて、パン、パンと台(だい)をたたいているのや、小間物(こまもの)を並(なら)べたのや、そうかと思(おも)うと、金(かな)だらいの中(なか)で金魚(きんぎょ)を泳(およ)がしているのや、いろいろでありましたが、あるところへくると、ちょうど自分(じぶん)くらいの男(おとこ)の子(こ)が、集(あつ)まっている店(みせ)がありました。それは、やどかりのはいった、箱(はこ)をござの上(うえ)へ置(お)いて、売(う)っているのでした。やどかりは、小(ちい)さなはしごの上(うえ)へ登(のぼ)ったり、たがいに組(く)み打(う)ちをやったり、転(ころ)げ合(あ)ったりしていました。どれも脊中(せなか)にかわいらしい貝(かい)を負(お)っている、歩(ある)くときはかにに似(に)た不思議(ふしぎ)な虫(むし)でありました。いったいどこから、持(も)ってきたのだろうかと、義夫(よしお)は、しばらくお母(かあ)さんと立(た)ってながめていました。
「あんな大(おお)きいのがいるよ。」と、このとき義夫(よしお)は、目(め)をみはりました。
 そのやどかりは大(おお)きな白(しろ)いとげのある貝(かい)を負(お)っていました。
「よくあんな大(おお)きな貝(かい)を負(お)って歩(ある)けますね。」
「おばさん、こんなのどこにいるの。」と、きいた子供(こども)があります。義夫(よしお)は、自分(じぶん)も心(こころ)にそう思(おも)っていたので、いいことをきいてくれたと思(おも)いました。
「この白(しろ)い大(おお)きいのは、小笠原島(おがさわらじま)からきたのですよ。みんな、遠(とお)い南(みなみ)の方(ほう)からきたものばかりです。」と、やどかりを商(あきな)うおばさんは、いいました。
 小笠原(おがさわら)といえば、ずっと南(みなみ)のやしの木(き)が茂(しげ)る熱帯(ねったい)の地(ち)であると思(おも)いました。
「お母(かあ)さん、あの爆発(ばくはつ)した三宅島(みやけじま)より、もっと遠(とお)いんですね。」と、義夫(よしお)は、いいました。
「僕(ぼく)、ほしいな。」
「およしなさい。家(いえ)へ持(も)って帰(かえ)ると、じき死(し)にますからね。」と、お母(かあ)さんは、困(こま)ったようなお顔(かお)をなさいました。
 それでほかの学用品(がくようひん)など買(か)ってもらって、家(いえ)へ帰(かえ)ったけれど、やはり、やどかりの姿(すがた)が目(め)に残(のこ)っていました。また話(はなし)が耳(みみ)に残(のこ)っていました。
「どうしてやどかりに、こんないろんな形(かたち)があるの。」と、ほかの子供(こども)が、きいたら、
「やどかりは、自分(じぶん)の好(す)きな貝(かい)がらをさがして、幾度(いくど)も、幾度(いくど)も、その中(なか)へ入(はい)ってみて、気(き)にいったのを自分(じぶん)のすみかとするのだそうです。」と、おばさんのいったことなどが思(おも)い出(だ)されたのでした。
 義夫(よしお)は、お姉(ねえ)さんにお願(ねが)いして、買(か)ってもらおうかと思(おも)いました。そのうちに、晩方(ばんがた)になると、幾度(いくど)も時計(とけい)を見上(みあ)げて、もうお姉(ねえ)さんはどこを歩(ある)いているだろうと空想(くうそう)しました。そして、お姉(ねえ)さんが、お勤(つと)めから帰(かえ)ってくると、
「お姉(ねえ)さん、僕(ぼく)に、やどかりを買(か)ってくれない?」といって、頼(たの)みました。
「町(まち)に、売(う)っていたの?」
「うん、お姉(ねえ)さん見(み)たのかい。」
「見(み)ないけれど、明日(あす)の晩(ばん)にいって買(か)ってあげましょうね。」と、お姉(ねえ)さんは、答(こた)えました。
「お母(かあ)さん、お姉(ねえ)さんに、やどかりを買(か)ってもらっていいでしょう。」と、義夫(よしお)は、ききました。
「買(か)ってくださるなら、おもらいなさい。けれど、じきに死(し)にますが、かわいそうでない?」
「塩水(しおみず)に入(い)れておけば、生(い)きているよ。」
 また、一日(にち)はたちました。そして、今日(きょう)も太陽(たいよう)は、昨日(きのう)の夕方(ゆうがた)のように、雲(くも)を赤(あか)く染(そ)めて西(にし)の空(そら)に沈(しず)みました。
「お姉(ねえ)さんは、まだ帰(かえ)ってこないかなあ。」と、義夫(よしお)は、外(そと)をながめていました。
「義夫(よしお)、お姉(ねえ)さんは、疲(つか)れてお帰(かえ)りなさるんだよ。お湯(ゆ)に入(はい)って、ご飯(はん)を食(た)べてからにしなさい。」と、お母(かあ)さんは、自分(じぶん)かってであってはいけないと、おしかりになりました。
 お姉(ねえ)さんは、元気(げんき)よく、いつものように、朗(ほが)らかな顔(かお)をして、お勤(つと)めから帰(かえ)ってきました。
「義夫(よしお)さん、お湯(ゆ)へ入(はい)ると、もう外(そと)へ出(で)たくないから、これから、いっしょにいってきましょう。」と、昨日(きのう)の約束(やくそく)を忘(わす)れずに、いわれました。
「すぐ、いってもいいの。」
「ええ、まいりましょう。」
「約束(やくそく)を守(まも)って、お姉(ねえ)さんはえらいなあ。」
「だれだって、お約束(やくそく)は守(まも)らなければ、いけませんよ。」
 姉(あね)と弟(おとうと)は、出(で)かけました。燈火(あかり)がついて、町(まち)はにぎやかでした。
「あのおばさん、きているかしらん。」
 しかし、その日(ひ)は、縁日(えんにち)で、いつもよりかいっそう露店(ろてん)も人出(ひとで)も多(おお)かったのです。
 やどかりを売(う)るおばさんは、いつものところで店(みせ)を出(だ)していました。子供(こども)たちは、昼間(ひるま)よりかたくさんいました。
 けれど、義夫(よしお)のほしいと思(おも)った、あの白(しろ)い大(おお)きなやどかりは、姿(すがた)が見(み)えず、売(う)れてしまったのです。お姉(ねえ)さんからほかのを買(か)ってもらったが、がっかりしてしまいました。
 義夫(よしお)は前(まえ)を向(む)いて、さっさと歩(ある)きました。気(き)がついてうしろを振(ふ)り向(む)くと、お姉(ねえ)さんは、かくれてしまいました。
「なにしてんだろうな。」と、やどかりの入(はい)ったブリキかんを下(さ)げながら、つぶやきました。やっと追(お)いついたお姉(ねえ)さんは、
「義夫(よしお)さんは、現金(げんきん)ね。ご用(よう)がすむとさっさと歩(ある)くんですもの。」
「お姉(ねえ)さんがのろいのだい。」
 けれど、義夫(よしお)は、このとき、自分(じぶん)のことしか考(かんが)えぬ自分(じぶん)がなんとなくさびしく感(かん)じられました。町(まち)をはずれて、たんぼ道(みち)へさしかかりました。
「あの青(あお)い火(ひ)はなんだろう?」と、ふいに義夫(よしお)は、立(た)ち止(ど)まって、怖(おそ)ろしそうに、ささやきました。
「なんでしょう、子供(こども)がいたずらしているのよ。」
 青(あお)い火(ひ)の方(ほう)へ近(ちか)づくと、だれか、きゅうりの実(み)をうつろにして、内(うち)へろうそくをともして畑(はたけ)の中(なか)へ立(た)てておいたのです。二人(ふたり)が笑(わら)うと、
「お化(ば)けだぞう。」と、野菜(やさい)の茂(しげ)った間(あいだ)から勇(ゆう)ちゃんの声(こえ)がしました。
 あたりは、すっかり暗(くら)くなって、さらさらと風(かぜ)がとうもろこしの葉(は)を鳴(な)らして、頭(あたま)の上(うえ)には、星(ほし)の光(ひかり)が、きらきらと輝(かがや)いていました。

 

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