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いいおじいさんの話(1)

时间: 2022-10-14    进入日语论坛
核心提示:いいおじいさんの話小川未明 美(うつく)しい翼(つばさ)がある天使(てんし)が、貧(まず)しげな家(いえ)の前(まえ)に立(た)って、
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いいおじいさんの話

小川未明


 美(うつく)しい翼(つばさ)がある天使(てんし)が、貧(まず)しげな家(いえ)の前(まえ)に立(た)って、心配(しんぱい)そうな顔(かお)つきをして、しきりと内(うち)のようすを知(し)ろうとしていました。
 外(そと)には寒(さむ)い風(かぜ)が吹(ふ)いています。星(ほし)がきらきらと枯(か)れた林(はやし)のいただきに輝(かがや)いて、あたりは一面(めん)に真(ま)っ白(しろ)に霜(しも)が降(お)りていました。天使(てんし)は見(み)るもいたいたしげに、素跣(すはだし)で霜柱(しもばしら)を踏(ふ)んでいたのであります。
 天使(てんし)は自分(じぶん)の身(み)の寒(さむ)いことなどは忘(わす)れて、ただこの貧(まず)しげな家(いえ)のようすがどんなであろうということを、知(し)りたいと思(おも)っているふうに見(み)えました。家(いえ)の内(うち)にはうす暗(ぐら)い燈火(とうか)がついて、しんとしていました。まだ眠(ねむ)る時分(じぶん)でもないのに話(はな)し声(ごえ)もしなければ、笑(わら)い声(ごえ)もしなかったのであります。
 このとき、ちょうど同(おな)じ村(むら)に住(す)んでいる、人(ひと)のいいおじいさんが、山(やま)の小舎(こや)でおそくなるまで働(はたら)いて、そこを通(とお)りかかったのであります。そして、おじいさんは天使(てんし)を見(み)ると、そばへいってどうしたのかと問(と)うたのであります。
 天使(てんし)はおじいさんを見上(みあ)げて、
「近(ちか)いうちに、この家(いえ)へ天(てん)から子供(こども)を一人(ひとり)よこそうと思(おも)うのですが、心配(しんぱい)でなりません。この寒(さむ)いのに、子供(こども)がどうしてつらいめをしないものでもないと思(おも)うと、なんとなく案(あん)じられて、私(わたし)はこの家(いえ)のようすを見(み)にやってきたのであります。それだのにこの家(いえ)はしんとして、笑(わら)い声(ごえ)ひとつしないので、どうしたのであろうと考(かんが)えていたのであります。」といいました。
 おじいさんは天使(てんし)のいうことを聞(き)いて、もっともだといわぬばかりにうなずきました。
「それにちがいありません。俺(わし)がよく亭主(ていしゅ)の心持(こころも)ちを聞(き)いてみます……。」と、おじいさんは申(もう)しました。
 天使(てんし)は木枯(こが)らしの吹(ふ)く中(なか)を、いずこへとなく歩(ある)いて去(さ)りました。その後(あと)を見送(みおく)って、おじいさんは、よくこのときの神(かみ)さまのお心持(こころも)ちがわかったのでした。
「ほんとうにこの家(いえ)の亭主(ていしゅ)にも困(こま)ったものだ。女房(にょうぼう)がもうじきお産(さん)をするというに、働(はたら)いた金(かね)はみんな酒(さけ)を飲(の)んでしまう……。なんということだ。今夜(こんや)もあの居酒屋(いざかや)に酔(よ)いつぶれているにちがいない……。」と、おじいさんは村(むら)はずれの居酒屋(いざかや)をさして、疲(つか)れている足(あし)を運(はこ)びました。
 いってみると、はたして亭主(ていしゅ)は、そこで酔(よ)っているのでした。おじいさんは意見(いけん)をしてやろうと思(おも)いましたが、このようすではなにをいっても、いまはこの男(おとこ)の耳(みみ)にはいらないと思(おも)いましたので、明日(あす)酔(よ)いのさめているときにするつもりで、家(いえ)にもどったのであります。
 その亭主(ていしゅ)は大工(だいく)でありました。あくる日(ひ)、仕事場(しごとば)で彼(かれ)は休(やす)みの時間(じかん)に火(ひ)を焚(た)いてあたっていました。
 いい天気(てんき)でありました。冬(ふゆ)ではあったが日(ひ)があたたかに当(あ)たると、小鳥(ことり)が枯(か)れた木立(こだち)にきて鳴(な)いています。青(あお)い煙(けむり)は、さびしくなった圃(はたけ)の上(うえ)をはって、林(はやし)の中(なか)へとただよってゆきました。彼(かれ)はぼんやりと、なにか頭(あたま)の中(なか)で考(かんが)えているらしく見(み)えたのであります。
「こんにちは。」といって、おじいさんは若者(わかもの)のそばへ近(ちか)づきました。
 若者(わかもの)はだれかと思(おも)って見(み)ると、人(ひと)のよいおじいさんなものですから、
「こんにちは、いいお天気(てんき)ですの、風(かぜ)が寒(さむ)いから火(ひ)におあたんなさい。」といいました。
 それから二人(ふたり)は、いろいろな話(はなし)をしましたが、そのうちにおじいさんは、
「おまえさんのところにも、もうじき赤(あか)ん坊(ぼう)が産(う)まれるようだが、もし子供(こども)がいらないなら、ほしいという人(ひと)があるから、やる気(き)はないか?」といいました。
 これを聞(き)くと、若者(わかもの)は急(きゅう)に怒(いか)りだしました。
「大事(だいじ)な子供(こども)をなんで他人(たにん)にやれるものか。おじいさんいくら人(ひと)がよくても、また頼(たの)まれたからといって、そんなばかなことをいうものじゃない。」といったのであります。
 おじいさんは、にこにこと笑(わら)って、
「それは俺(おれ)が悪(わる)かった。おまえさんは酒(さけ)ばかり飲(の)んで、女房(にょうぼう)の身(み)の上(うえ)も思(おも)わなければ、赤(あか)ん坊(ぼう)が産(う)まれる仕度(したく)もしていないようすなので、おまえさんは子供(こども)がかわいくないのだろうと思(おも)ったからいったのだ。赤(あか)ん坊(ぼう)は、この寒(さむ)い時分(じぶん)に生(う)まれてくるのだから、それを思(おも)ったら、あたたかに仕度(したく)しておいてやらなければならん……。そうでないかな。」と、おじいさんはいいました。
 若者(わかもの)は、酒(さけ)に酔(よ)っていませんから、よくおじいさんのいうことがわかりました。自分(じぶん)が悪(わる)かったと思(おも)いました。若者(わかもの)は頭(あたま)をかきながら、
「私(わたし)がわるかった。ほんとうに、まだ子供(こども)のことを考(かんが)えていなかった。女房(にょうぼう)が、わがままですこし気(き)にいらないことがあると、がみがみいうもんだから、つい外(ほか)で飲(の)んでしまうのだが、考(かんが)えてみりゃ子供(こども)のために我慢(がまん)するんだった……。」と、若者(わかもの)は心(こころ)から感(かん)じたのであります。
 おじいさんは、たいそう喜(よろこ)びました。その後(のち)のこと、夜(よる)、この大工(だいく)の家(いえ)の前(まえ)を通(とお)りますと、大工(だいく)は家(いえ)にいて、女房(にょうぼう)の話(はな)し声(ごえ)もすれば、なんとなく陽気(ようき)でありました。

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