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生きた人形(2)

时间: 2022-10-14    进入日语论坛
核心提示:「それで、おまえさんは、家(いえ)なしになってしまったのですかい。」と、おばあさんはいった。「家(いえ)なしに?」 少女(し
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「それで、おまえさんは、家(いえ)なしになってしまったのですかい。」と、おばあさんはいった。
「家(いえ)なしに?」
 少女(しょうじょ)は、なんというさびしい言葉(ことば)だろう? こういわれると、胸(むね)がふさがるように悲(かな)しかったのでした。なるほど、考(かんが)えれば、もうどこにも自分(じぶん)の帰(かえ)る家(うち)はない。ただこのうえは、ひとりの兄(あに)をどうしてもさがさなければならぬという、日(ひ)ごろの願(ねが)いに、気(き)がひきたったのです。
「お母(かあ)さんがなくなられたので、私(わたし)は、兄(にい)さんをさがしに、故郷(こきょう)を出(で)ました。しかし、旅(たび)をしている間(あいだ)に、持(も)っているだけの旅費(りょひ)を使(つか)いはたしましたから、この町(まち)で働(はたら)いて、また旅(たび)をしようと思(おも)っています。」と、答(こた)えました。
「それは、感心(かんしん)なことだ。けれど、あてもなく歩(ある)いたって、兄(にい)さんにめぐりあうことは、むずかしいもんだ。」と、おばあさんはいった。
 これを聞(き)くと、少女(しょうじょ)は、月(つき)の下(した)で、霜(しも)になやんだ弱(よわ)い花(はな)のようにしおれてしまいました。
「おばあさん、どうしたら、私(わたし)はこの世(よ)の中(なか)で、ただ一人(ひとり)の兄(にい)さんにめぐりあうことができるでしょうか……。」と、訴(うった)えたのです。
 白髪頭(しらがあたま)のおばあさんは、考(かんが)えていましたが、
「それは、方々(ほうぼう)の人(ひと)の出入(でい)りするところへいって、いろいろの人(ひと)に、おまえさんの兄(にい)さんの話(はなし)をして聞(き)いてみなければ、わかりっこはないよ。私(わたし)がいいところへつれていってあげるから、明日(あす)の晩(ばん)に、町(まち)はずれの橋(はし)の上(うえ)にいって待(ま)っておいで……。きっとだよ。私(わたし)は、おまえさんの身(み)の上(うえ)を悪(わる)くとりはからわないから。」と、おばあさんはいいました。
 少女(しょうじょ)は、しんせつなおばあさんだと思(おも)って、その夜(よ)は別(わか)れて帰(かえ)りました。
 翌日(よくじつ)になると、少女(しょうじょ)は、人形(にんぎょう)のかわりになって、店(みせ)さきでつとめるのも今日(きょう)かぎりだと思(おも)うと、町(まち)の景色(けしき)を見(み)るにつけ、なんとなく、もの悲(かな)しかったのであります。
 呉服店(ごふくてん)の主人(しゅじん)というのは、気軽(きがる)なおもしろい人(ひと)でした。少女(しょうじょ)は、自分(じぶん)の身(み)の上(うえ)を打(う)ちあけて話(はな)したのは、おばあさんと主人(しゅじん)の二人(ふたり)ぎりでしたが、主人(しゅじん)はどうかして、兄(にい)さんにあわしてやりたいと、蔭(かげ)ながら心配(しんぱい)していましたので、新聞記者(しんぶんきしゃ)に話(はな)したものとみえて、このことが土地(とち)の新聞(しんぶん)に載(の)りました。すると、生(い)きた人形(にんぎょう)の身(み)の上話(うえばなし)が、たちまち町(まち)の中(なか)にひろまったのでした。
 ちょうど、その日(ひ)のことであります。青年(せいねん)が、呉服店(ごふくてん)へたずねてきました。
「私(わたし)が、兄(あに)です。」といって、少女(しょうじょ)に面会(めんかい)を求(もと)めました。けれど、彼女(かのじょ)は、子供(こども)の時分(じぶん)に別(わか)れたので、兄(にい)さんの顔(かお)をおぼえていません。
「ほんとうに、お兄(にい)さんでしょうか?」と、少女(しょうじょ)は、美(うつく)しい目(め)で、じっと青年(せいねん)を見(み)つめていました。
「なにしろ十年(ねん)もたったのだから、忘(わす)れてしまったのに無理(むり)はない。けれど、僕(ぼく)には、雪(ゆき)ちゃんの小(ちい)さな時分(じぶん)のかわいらしい姿(すがた)が、ありありと目(め)に残(のこ)っているよ。」と、青年(せいねん)はいって、
「僕(ぼく)も、覚悟(かくご)をして家(いえ)を出(で)たのだから、りっぱな画家(がか)にならなければ、帰(かえ)らないと思(おも)っていたのだ……。」と、語(かた)りました。そして、ふところから、お母(かあ)さんの写真(しゃしん)を出(だ)して、妹(いもうと)に見(み)せたのであります。
「一日(にち)だって、お母(かあ)さんのことを思(おも)い出(だ)さない日(ひ)とてなかった。」といって、青年(せいねん)は涙(なみだ)を落(お)としました。
 少女(しょうじょ)は、いま、彼(かれ)をほんとうの兄(あに)だと信(しん)じて、疑(うたが)うことができない。一時(じ)に、喜(よろこ)びと悲(かな)しみとで胸(むね)がいっぱいになって、張(は)り裂(さ)けるようでありました。
「兄(にい)さん! 兄(にい)さん! ああ、私(わたし)は、とうとう兄(にい)さんにめぐりあった。お母(かあ)さん……なぜ死(し)になされたの、お母(かあ)さん……。」と、兄(あに)にすがりついたのでした。そして、もし、今日(きょう)兄(にい)さんにめぐりあわなければ、晩(ばん)には、あのおばあさんにつれられて、また遠(とお)く、どこかへいってしまったであろう……と話(はな)しました。
「それは、片目(かため)の白髪(しらが)のおばあさんじゃなかったかい?」と、兄(あに)は聞(き)きました。
「片目(かため)だったかもしれません。たいへんにしんせつな……。」
 すると、かたわらに、いっさいの話(はなし)を聞(き)いていた主人(しゅじん)も、また兄(あに)もびっくりして、
「あのおばあさんに、見(み)こまれたら、どうしても逃(に)げられはしないということだ。怖(おそ)ろしいかどわかしのおばあさんなのだ! 仲間(なかま)が、幾人(いくにん)あるかもわからない。きっと船着(ふなつ)き場(ば)の町(まち)へ、おまえを売(う)るつもりだったろう。なんにしても、早(はや)くこの町(まち)から逃(に)げ出(だ)さなければいけない。」といいました。
 その晩(ばん)のことであります。あちらには、港(みなと)のあたりの空(そら)をあかあかと燈火(とうか)の光(ひかり)が染(そ)めていました。そして、汽笛(きてき)の音(おと)や、いろいろの物音(ものおと)が、こちらの町(まち)の方(ほう)まで流(なが)れてきました。また一方(ぽう)は、はるかに、青黒(あおぐろ)い山脈(さんみゃく)が、よく晴(は)れた月(つき)の明(あか)るい空(そら)の下(した)に、えんえんと連(つら)なっていました。その広野(こうや)を青(あお)い着物(きもの)をきて、頭(あたま)に淡紅色(うすべにいろ)の布(ぬの)をかけて、顔(かお)を隠(かく)し、白(しろ)い馬(うま)に乗(の)って馬子(まご)に引(ひ)かれながら、とぼとぼと山(やま)の方(ほう)を指(さ)してゆく女(おんな)がありました。
 馬(うま)はだまっていました。乗(の)っている人(ひと)もだまっていました。そして、馬(うま)を引(ひ)いてゆく人(ひと)もだまっていました。ただ月(つき)の光(ひかり)に、あたりはぼうっと夢(ゆめ)のようにかすんで、はてしもない広(ひろ)い野原(のはら)に、これらの人(ひと)たちは、絵(え)のごとく浮(う)いて見(み)えたのです。
 このとき、黒(くろ)い人影(ひとかげ)が、その後(あと)を追(お)ってきました。二人(ふたり)、三人(にん)、めいめい手(て)に棒(ぼう)を持(も)ってわめいてきました。とうとう彼(かれ)らは、馬(うま)に追(お)いつくと、行(ゆ)く手(て)をさえぎって、
「青(あお)い着物(きもの)をきている。この女(おんな)だ。もうけっして逃(に)がしはしないぞ。」と、追(お)ってきたものどもはいいました。
 馬子(まご)は、たまげて、その人(ひと)たちのようすをながめました。
「おい、この女(おんな)をどこへつれてゆくつもりだ?」と、一人(ひとり)は、たずねました。
「この方(かた)は、おしでございます。そして、今夜(こんや)の中(うち)に、あの山(やま)のいただきのお寺(てら)までおつれもうしますので。夜(よ)が明(あ)けると尼(あま)さんにおなりなさるのだそうでございます……。」と、馬子(まご)は、答(こた)えました。
「まあ、いいから、ここから、馬(うま)を町(まち)までもどせ!」と、追(お)っ手(て)はせまりました。
 ふたたび、月(つき)の明(あか)るい野原(のはら)を歩(ある)いて、一行(こう)は、町(まち)はずれの橋(はし)の上(うえ)までまいりますと、白髪(しらが)のおばあさんがそこに立(た)って待(ま)っていました。
「よく、私(わたし)にだまって逃(に)げたな。」と、おばあさんは、怒(いか)って、馬(うま)から女(おんな)を引(ひ)き下(お)ろして、女(おんな)のかぶっていた布(きれ)を取(と)りのけて、怖(おそ)ろしい目(め)で、顔(かお)をにらみました。
「え、これは、ほんとうの人形(にんぎょう)だ。私(わたし)は、生(い)きている人形(にんぎょう)をつれてこいといったのだ!」と、おばあさんは叫(さけ)びました。みんなも、あっけにとられて、人形(にんぎょう)を見(み)ました。
 こうしている間(あいだ)に、ほんとうの少女(しょうじょ)は、もう兄(にい)さんといずくへか、この町(まち)から去(さ)った時分(じぶん)であります。

 

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