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生きた人形(1)

时间: 2022-10-14    进入日语论坛
核心提示:生きた人形小川未明 ある町(まち)の呉服屋(ごふくや)の店頭(てんとう)に立(た)って一人(ひとり)の少女(しょうじょ)が、じっとそ
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生きた人形

小川未明


 ある町(まち)の呉服屋(ごふくや)の店頭(てんとう)に立(た)って一人(ひとり)の少女(しょうじょ)が、じっとそこに飾(かざ)られた人形(にんぎょう)に見(み)いっていました。人形(にんぎょう)は、美(うつく)しい着物(きもの)をきて、りっぱな帯(おび)をしめて、前(まえ)を通(とお)る人(ひと)たちを誇(ほこ)らしげにながめていたのです。
「私(わたし)が、もしあのお人形(にんぎょう)であったら、どんなにしあわせだろう……。なんの苦労(くろう)もなしに、ああして、平和(へいわ)に、毎日(まいにち)暮(く)らしていくことができる。そして、前(まえ)を通(とお)る男(おとこ)も、女(おんな)も、みんな自分(じぶん)を振(ふ)りかえって、うらやましげに見(み)ていくであろうに……。」と、彼女(かのじょ)は、ひとり言(ごと)をしていたのでした。
 このようすを、さっきからながめていた、この店(みせ)の主人(しゅじん)は、頭(あたま)をかしげました。
「なんという器量(きりょう)のいい娘(むすめ)さんだろう……。しかし、ようすを見(み)ると、あまり豊(ゆた)かな生活(せいかつ)をしているとは思(おも)われない。さっきから、ああして、人形(にんぎょう)に見(み)とれているが、ものは相談(そうだん)だ。あの娘(むすめ)さんは、雇(やと)われてきてくれないだろうか?」と、主人(しゅじん)は考(かんが)えたのでした。
「もし、もし。」といいながら、彼女(かのじょ)のかたわらへ寄(よ)って、主人(しゅじん)は、軽(かる)く、その肩(かた)をたたきました。
 少女(しょうじょ)は、びっくりして、振(ふ)り向(む)きますと、主人(しゅじん)が、にこにこした笑(わら)い顔(がお)をして立(た)っていました。
「おまえさんは、さっきから、なにを考(かんが)えておいでなさる?」と、主人(しゅじん)は、やさしく問(と)いかけました。
 少女(しょうじょ)は、ちょっとはじらいましたが、正直(しょうじき)に、
「もし、私(わたし)が、このお人形(にんぎょう)であったら、世(よ)の中(なか)の苦労(くろう)ということも知(し)らず、そのうえこんなに美(うつく)しい顔(かお)をして、どんなにか幸福(こうふく)だろうと思(おも)っていたのです。人間(にんげん)が、なんでも思(おも)ったとおりになりさえすれば、この世(よ)の中(なか)に、不幸(ふこう)というものはないと考(かんが)えていたのでした。」と、答(こた)えました。
 人(ひと)のよさそうな主人(しゅじん)は、けたけたと笑(わら)いました。
「お嬢(じょう)さん、あなたのお顔(かお)は、この人形(にんぎょう)よりはよっぽど、美(うつく)しゅうございますよ。もし、あなたさえ聞(き)いてくださるなら、この人形(にんぎょう)の着物(きもの)をあなたにあげて、そのうえ給金(きゅうきん)もさしあげますから、明日(みょうにち)から、人形(にんぎょう)の代(か)わりになってくださいませんか?」と、主人(しゅじん)は、少女(しょうじょ)に向(む)かっていいました。
「お人形(にんぎょう)の代(か)わりにですって?」
「そうです。生(い)きた人形(にんぎょう)となって、この店(みせ)さきにすわってくださるのです。」
「私(わたし)が、お人形(にんぎょう)になるのでございますか?」と、少女(しょうじょ)は、黒(くろ)い、うるおいのある目(め)を大(おお)きくみはりました。
「そうしたら、どんなに、この店(みせ)の評判(ひょうばん)となるでしょう。あなたは、たしかに、この人形(にんぎょう)よりは、幾倍(いくばい)美(うつく)しいかしれない。」と、主人(しゅじん)はいいました。
 少女(しょうじょ)は、じょうだんでなく、ほんとうに主人(しゅじん)が相談(そうだん)をしましたので、自分(じぶん)には、願(ねが)いのあることでもありますから、なにをして働(はたら)くのも同(おな)じだと考(かんが)えて、とうとう翌日(よくじつ)から、この店(みせ)の飾(かざ)りをつとめる、生(い)きた人形(にんぎょう)になることを承諾(しょうだく)しました。
 生(い)きた人形(にんぎょう)が、店飾(みせかざ)りになったといううわさが四方(ほう)に広(ひろ)まりますと、町(まち)の人々(ひとびと)は、みんな、一度(ど)それを見(み)ようと前(まえ)へやってきたので、この呉服店(ごふくてん)の前(まえ)は、いつもにぎやかでありました。
「なかなか美人(びじん)じゃないか?」
「あの、青(あお)っぽい着物(きもの)が、ばかに似合(にあ)っている。」
 こんなように、そこに立(た)った人々(ひとびと)の口(くち)から交(か)わされたのです。
「きっと、これから、生(い)きた店飾(みせかざ)りが流行(りゅうこう)することだろう……。」と、また空想(くうそう)にふけりながらゆくものもありました。
 いままで、客(きゃく)を前(まえ)に集(あつ)めた人形(にんぎょう)は、ただ美(うつく)しいばかりで、笑(わら)うこともなければ、動(うご)くこともなかった。どうせ、お人形(にんぎょう)だというので、見(み)る人(ひと)たちも、それを要求(ようきゅう)するものはなかったけれど、これが、生(い)きている人間(にんげん)だとわかると、中(なか)には、美(うつく)しい少女(しょうじょ)に向(む)かって話(はな)しかけるものもありました。けれど、店(みせ)の飾(かざ)りとなっているうえは、だれとても、みだりに話(はな)してはいけないということになっていましたので、少女(しょうじょ)は、返事(へんじ)をしなかったのでありますが、あまりおかしいときには、ついにっこりと笑(わら)うこともありました。そして、また体(からだ)も動(うご)かさずにいられませんでした。
「なるほど、この人形(にんぎょう)は生(い)きている!」といって、いまさらのように感歎(かんたん)する人(ひと)もあったのです。
「やはり、生(い)きているほうが、見(み)ていても張(は)り合(あ)いがあっていいな。死(し)んでいる人形(にんぎょう)では、つまらない。よく、考(かんが)えついたものだな。」
 こんなことをいって、ほめる男(おとこ)もありました。こういうふうに、昨日(きのう)までの、ものをいわない人形(にんぎょう)は、どこへか隠(かく)されてしまって、生(い)きている人形(にんぎょう)の評判(ひょうばん)は、日(ひ)にまし高(たか)くなりました。
 少女(しょうじょ)は、夜(よる)になってから、店(みせ)が閉(し)まると、自分(じぶん)の宿(やど)へ帰(かえ)りました。いろいろの人(ひと)が、帰(かえ)り道(みち)に声(こえ)をかけました。しかし、少女(しょうじょ)は、心(こころ)に願(ねが)いがあったので、気(き)がしまっていましたから、けっして、よけいな言葉(ことば)などはかわしません。さっさと道(みち)を歩(ある)いてゆきました。
 ある月夜(つきよ)の晩(ばん)のことです。少女(しょうじょ)があるいてゆきますと、うしろから自分(じぶん)を呼(よ)びとめるものがあります。それは、いつにないやさしい声(こえ)であったから、ふと立(た)ちどまってふり向(む)きますと、おばあさんでありました。
「おまえさんには、青(あお)い色(いろ)がよく似合(にあ)うこと。ほんとうに、美(うつく)しい娘(むすめ)さんだ。しかし生(う)まれはこの町(まち)の人(ひと)でないようだが、どうして、この町(まち)へきましたか。知(し)った人(ひと)でもおありなさるのかね。」と、たずねました。
 少女(しょうじょ)は、おばあさんなので安心(あんしん)して、つい自分(じぶん)の身(み)の上(うえ)を語(かた)ったのです。
「いいえ、私(わたし)は、まったく一人(ひとり)ぽっちなのでございます。お母(かあ)さんと二人(ふたり)で、家(うち)にいましたときは、どんなに幸福(こうふく)でしたか……。お母(かあ)さんは、私(わたし)をかわいがってくださいました。お父(とう)さんのお顔(かお)を知(し)りません。ごく私(わたし)の小(ちい)さいときになくなられたんですもの。そして、兄(にい)さんがありましたけれど、私(わたし)の六つのときに、家出(いえで)をして、そののちたよりがないので、かわいそうなお母(かあ)さんは、死(し)ぬまで、兄(にい)さんは、どこにどうしているだろうといっていなされました……。」
 おばあさんは、少女(しょうじょ)の話(はなし)を月(つき)の下(した)で、すこしも聞(き)きもらすまいと耳(みみ)を傾(かたむ)けていました。

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