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犬と古洋傘

时间: 2022-10-17    进入日语论坛
核心提示:犬と古洋傘小川未明 ある村(むら)から、毎日(まいにち)町(まち)へ仕事(しごと)にいく男(おとこ)がありました。どんな日(ひ)でも
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犬と古洋傘

小川未明


 ある村(むら)から、毎日(まいにち)町(まち)へ仕事(しごと)にいく男(おとこ)がありました。どんな日(ひ)でも、さびしい道(みち)を歩(ある)かなければならなかったのです。
 ある日(ひ)のこと、男(おとこ)はいつものごとく考(かんが)えながら歩(ある)いてきました。寒(さむ)い朝(あさ)で、自分(じぶん)の口(くち)や、鼻(はな)から出(で)る息(いき)が白(しろ)く凍(こお)って見(み)えました。また田圃(たんぼ)には、霜(しも)が真(ま)っ白(しろ)に降(お)りていて、ちょうど雪(ゆき)の降(ふ)ったような、ながめでありました。
 このとき、どこからか、赤(あか)ん坊(ぼう)の泣(な)く声(こえ)がしました。男(おとこ)は思(おも)わず歩(あゆ)みを止(と)めて、あたりを見(み)まわしたのであります。
「はてな、赤(あか)ん坊(ぼう)の泣(な)く声(こえ)がきこえたが……。」
 しかし、人(ひと)の影(かげ)はなし、近(ちか)くに人家(じんか)もなかったから、たぶん、空耳(そらみみ)だろうと思(おも)って、また歩(ある)き出(だ)しました。
 すると、今度(こんど)は、前(まえ)よりも、もっと近(ちか)く、赤(あか)ん坊(ぼう)の泣(な)く声(こえ)がきこえてきたのです。
「たしかに赤(あか)ん坊(ぼう)だ、どこだろう?」
 彼(かれ)は、もう自分(じぶん)の耳(みみ)を疑(うたが)いませんでした。きっと、この近傍(きんぼう)にだれか赤(あか)ん坊(ぼう)を捨(す)てたものがあるにちがいないと思(おも)いました。
「そんな悪(わる)いことをするやつは、どこのやつだろう。」と、男(おとこ)は、この寒空(さむぞら)に捨(す)てられた、かわいそうな赤(あか)ん坊(ぼう)を、早(はや)くさがし出(だ)して、どうかしてやらなければと思(おも)って、声(こえ)のきこえる方(ほう)へ近(ちか)づいていきました。
 見(み)ると、それは、赤(あか)ん坊(ぼう)でなく、やぶの中(なか)に、まだ生(う)まれてから間(ま)がない、やっと目(め)の開(あ)いたばかりの小犬(こいぬ)が三びき、箱(はこ)の中(なか)に入(い)れて捨(す)ててありました。
 彼(かれ)は、赤(あか)ん坊(ぼう)でなく、小犬(こいぬ)でよかったと思(おも)いましたが、その捨(す)てられた小犬(こいぬ)の、いじらしいようすを見(み)ると、また別(べつ)の不憫(ふびん)さが心(こころ)の中(なか)にわいてきて、
「こんな、まだ独(ひと)り歩(ある)きのできぬ小犬(こいぬ)をだれが捨(す)てたのだろう、情(なさ)け知(し)らずの人間(にんげん)だ。」と、思(おも)いましたが、自分(じぶん)は、どうすることもできません。
「ああ、かわいそうなものを見(み)たな。」と、ただ、気持(きも)ちを暗(くら)くして、かわいそうとは思(おも)いながらも、そのまま、男(おとこ)はいってしまいました。
「こんな寒空(さむぞら)に、それに食(た)べ物(もの)もないのでは、きっと死(し)んでしまうだろう。」と、三びきの小犬(こいぬ)のことを思(おも)いながら、道(みち)を急(いそ)いだのです。
 しかし、いくら思(おも)うまいとしても、白(しろ)と黒(くろ)の三びきの小犬(こいぬ)が、重(かさ)なり合(あ)って、彼(かれ)の顔(かお)を見(み)たとき、尾(お)をぴちぴちと振(ふ)って、助(たす)けてくれといわぬばかりに鳴(な)いたいじらしい姿(すがた)を、男(おとこ)は、いつまでも目(め)から取(と)ることができませんでした。
 彼(かれ)は、町(まち)へ着(つ)くと、いつものごとく仕事(しごと)にとりかかりました。仕事(しごと)をしている間(あいだ)は、犬(いぬ)のことを忘(わす)れていましたが、その日(ひ)の仕事(しごと)が終(お)わって帰(かえ)り道(みち)にさしかかると、朝(あさ)見(み)た犬(いぬ)のことが、思(おも)い出(だ)されて、
「どうなったろう?」という、好奇心(こうきしん)も起(お)こって、なんだか、そのやぶの近(ちか)くになると、重苦(おもくる)しいような気(き)さえしました。
 彼(かれ)は、やぶのそばへきて、耳(みみ)をすましました。
 もう泣(な)き声(ごえ)はきこえません。
「はてな、みんな死(し)んでしまったのかしらん。」
 怖(おそ)ろしいものでも見(み)るようにして、のぞいてみると、三びきのうち二ひきは死(し)んでしまって、一ぴきだけが、こもから出(で)て死(し)んだ兄弟(きょうだい)のまわりをまわっていました。
 この一ぴきも、晩(ばん)には、死(し)ぬであろうと思(おも)います。
 男(おとこ)は、胸(むね)の中(なか)が苦(くる)しくなりました。よほど、この一ぴきを家(いえ)へつれていって、助(たす)けてやろうかとも考(かんが)えました。
 だが、その世話(せわ)が、またたいへんだとも思(おも)いました。見(み)なければ、知(し)らずにしまったことだ、そうだ、おれは、見(み)なかったことにして、このままいってしまおう……と、気(き)の弱(よわ)い彼(かれ)は自分(じぶん)の心(こころ)をはげまして、そのまま小犬(こいぬ)を見捨(みす)てて、家(いえ)へ帰(かえ)ってしまいました。
 その夜(よ)は、前(まえ)の晩(ばん)よりも寒(さむ)く、それに、風(かぜ)さえ烈(はげ)しかったのであります。
 男(おとこ)は、たびたび目(め)をさまして、床(とこ)の中(なか)で、後(あと)に一ぴき生(い)き残(のこ)っていた、いじらしい犬(いぬ)の姿(すがた)を思(おも)い出(だ)していました。
 翌日(よくじつ)、彼(かれ)は、その道(みち)を通(とお)るのが、なんとなく心(こころ)がとがめて、ほかの道(みち)を遠(とお)まわりして仕事(しごと)にいきました。帰(かえ)るときも同(おな)じでした。二、三日(にち)の間(あいだ)というものは、その道(みち)を通(とお)ることができなかったのです。
 ある日(ひ)、雨(あめ)が降(ふ)りそうだったので、男(おとこ)は、急(いそ)ぐために、その道(みち)を通(とお)ったのでありました。
「どうなったろうな? きっと、三びきとも死(し)んでいるにちがいない。それともしんせつな人(ひと)があって、功徳(くどく)にどこへか葬(ほうむ)ってやったかもしれないが。」と、犬(いぬ)の捨(す)てられた場所(ばしょ)に近(ちか)づくにつれて、男(おとこ)は思(おも)ったのでした。そして、そのまま過(す)ぎることができずに、ついやぶ蔭(かげ)をのぞいて見(み)ると、犬(いぬ)の死骸(しがい)もなければ、犬(いぬ)の入(はい)っていたこもも見(み)えませんでした。そして、その場所(ばしょ)に一本(ぽん)の古洋傘(ふるこうもり)が置(お)いてありました。
 男(おとこ)は、その洋傘(こうもり)を拾(ひろ)って、開(あ)けてみると、まだりっぱにさせる品物(しなもの)でした。
「このまま腐(くさ)らしてしまうのは惜(お)しいものだ。さいわい、雨(あめ)が降(ふ)りそうだから、拾(ひろ)っていこう。」と、男(おとこ)は、その古(ふる)い洋傘(こうもり)を持(も)って、立(た)ち去(さ)りましたが、家(いえ)に着(つ)かぬうちに、雨(あめ)がぽつぽつ降(ふ)り出(だ)してきました。
「いわぬことか、いいものを拾(ひろ)ってきた。」といって、洋傘(こうもり)を開(ひら)いてさして歩(ある)きますと頭(あたま)の上(うえ)で、クンクン小犬(こいぬ)のなき声(ごえ)がしました。彼(かれ)は、びっくりして、洋傘(こうもり)を投(な)げ出(だ)すと、いっしょうけんめいに駈(か)け出(だ)しました。
「あのとき、おれが拾(ひろ)ってやれば、一ぴきにしろ犬(いぬ)の命(いのち)は助(たす)かったのだ。一本(ぽん)の洋傘(こうもり)より、生(い)き物(もの)の命(いのち)のほうが、どれほど大切(たいせつ)かしれないのだ。」と、正直(しょうじき)な男(おとこ)だけに悟(さと)ったのでした。

 

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