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馬を殺したからす(1)

时间: 2022-10-17    进入日语论坛
核心提示:馬を殺したからす小川未明 北(きた)の海(うみ)の方(ほう)にすんでいたかもめは、ふとして思(おも)いたって南(みなみ)の方(ほう)
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馬を殺したからす

小川未明


 北(きた)の海(うみ)の方(ほう)にすんでいたかもめは、ふとして思(おも)いたって南(みなみ)の方(ほう)へと飛(と)んできました。途中(とちゅう)でにぎやかな街(まち)が下(した)の方(ほう)にあるのを見(み)ました。そこにはおほりがあって、水(みず)がなみなみと青(あお)く、あふれるばかりでありましたから、しばらくそこへ下(お)りて暮(く)らしました。
 この街(まち)は、この国(くに)の一番(ばん)の都(みやこ)でありまして、人々(ひとびと)はそのほりの中(なか)にすんでいる魚(うお)を捕(と)ることができなく、また下(お)りている鳥(とり)を撃(う)つことができないおきてでありましたから、かもめには、このうえなく都合(つごう)がよく、暮(く)らしいいところでありました。
 ほりの中(なか)にいる魚(うお)は、それは北(きた)の海(うみ)にいる魚(うお)の味(あじ)とは較(くら)べものになりません。どろ臭(くさ)くて骨(ほね)が堅(かと)うございましたけれど、容易(ようい)に捕(と)ることができましたので、荒波(あらなみ)の上(うえ)で、仕事(しごと)するように骨(ほね)をおらなくてすんだのであります。
 かもめは、もうずっと南(みなみ)の方(ほう)へいくという考(かんが)えは捨(す)ててしまいました。だいいち、人間(にんげん)というものが、ここにいても、すこしも怖(おそ)ろしくありませんので、水(みず)もそのわりあいに暖(あたた)かであるし、その年(とし)の冬(ふゆ)は、この街(まち)の中(なか)で暮(く)らそうと考(かんが)えました。
 かもめは、さまざまな街(まち)のにぎやかな光景(こうけい)や、できごとなどを見守(みまも)りました。そして、こんなおもしろいところがこの世界(せかい)にあるということを、ほかの鳥(とり)らはまだ知(し)らないだろう。よく、よく、この有(あ)り様(さま)を記憶(きおく)しておいて、彼(かれ)らに教(おし)えてやらなければならないなどと空想(くうそう)しました。
 寒(さむ)い冬(ふゆ)が過(す)ぎて、春(はる)になると、ほりばたの柳(やなぎ)が芽(め)をふきました。そして、桜(さくら)の花(はな)が美(うつく)しく咲(さ)きました。このころが、都(みやこ)もいちばんにぎやかな時分(じぶん)とみえて、去年(きょねん)の秋(あき)以来(いらい)見(み)なかった景気(けいき)でございました。
 うかうかとしているうちに、春(はる)も過(す)ぎてしまいました。子供(こども)らがそれでも隠(かく)れてこのほりにときどき釣(つ)りなどにやってくる夏(なつ)となりました。いままで、かもめはなんの不足(ふそく)もなく、また考(かんが)えることもなく暮(く)らしてきましたが、このころからようやく考(かんが)えはじめました。それは、ほりの水(みず)の中(なか)にすんでいたかもめは、ふたたび青(あお)い、青(あお)い、海(うみ)が恋(こい)しくなったからです。風(かぜ)が強(つよ)く吹(ふ)いて、波(なみ)が岩角(いわかど)に白(しろ)く、雪(ゆき)となってはね上(あ)がり、地平線(ちへいせん)が黒(くろ)くうねうねとして見(み)える海(うみ)が恋(こい)しくなりました。
 かもめは、北(きた)の方(ほう)の故郷(こきょう)に帰(かえ)ろうと心(こころ)にきめました。そして、その名残(なごり)にこの街(まち)の中(なか)の光景(こうけい)をできるだけよく見(み)ておこうと思(おも)いました。ある太陽(たいよう)の輝(かがや)く、よく晴(は)れた日(ひ)の午前(ごぜん)のことでありました。白(しろ)いかもめは、都(みやこ)の空(そら)を一(ひと)まわりいたしました。すると、大(おお)きな木(き)のこんもりとした社(やしろ)の境内(けいだい)を下(した)にながめました。子供(こども)らが豆(まめ)を買(か)って、地面(じめん)の上(うえ)に群(むら)がっているはとに投(な)げやっていました。
 かもめはそれを見(み)ると、まったく驚(おどろ)きました。都(みやこ)というところは不思議(ふしぎ)なところだ。ここにさえいれば、遊(あそ)んでいても暮(く)らしていくことができるのだ思(おも)いました。
 ついに、このかもめは、北(きた)をさして長(なが)い旅(たび)に上(のぼ)りました。彼(かれ)は、去年(きょねん)きた時分(じぶん)のことなどを思(おも)い出(だ)していろいろの感慨(かんがい)にふけりました。高山(こうざん)を一つ越(こ)えて、もうやがて向(む)こうに海(うみ)が見(み)えようとするころでありました。かもめは、一羽(わ)のからすに出(で)あいました。
 からすはカーカーとなきながら、やはり里(さと)の方(ほう)をさして飛(と)んでゆくところでありました。おしゃべりのからすはすぐ、自分(じぶん)の上(うえ)を飛(と)んでゆくかもめを見(み)つけて、声(こえ)をかけずにいられませんでした。
「かもめさん、かもめさん、たいへんにお疲(つか)れのようだが、どこへいっておいでになりました。」と、からすは問(と)いました。
 すると、かもめは、急(いそ)ぐ翼(つばさ)をゆるくして、からすとしばらくの間(あいだ)道連(みちづ)れになりました。
「私(わたし)は二、三日(にち)前(まえ)に、ずっと南(みなみ)の都(みやこ)から出立(しゅったつ)しました。去年(きょねん)の冬(ふゆ)はにぎやかな都(みやこ)で送(おく)りました。もう夏(なつ)になって、北(きた)の海(うみ)が恋(こい)しくなったので帰(かえ)るところですよ。」と、かもめは答(こた)えました。
「それは、いいことをなさいましたね。私(わたし)などは、いつもこんなさびしい田舎(いなか)にばかり日(ひ)を暮(く)らしています。いつになったら、そんなところへいってみられるかわかりません。」と、からすは歎息(たんそく)いたしました。
「なんのいけないことがあるもんですか、あなたの心(こころ)がけですよ。幾日(いくにち)も、幾日(いくにち)も、南(みなみ)をさしてゆけば、しぜんにいかれますよ。」と、かもめはいいました。
「たとえ、そこへいっても、どうして食(た)べていけるかわかりません。石(いし)を投(な)げつけられたり、みんなに目(め)の敵(かたき)にされていじめられるばかりです。」と、からすは身(み)の不運(ふうん)を歎(なげ)きました。
 かもめは、都(みやこ)では、はとがみんなにかわいがられて、子供(こども)らから豆(まめ)をもらって、平和(へいわ)にその日(ひ)を遊(あそ)び暮(く)らしていることを話(はな)しました。
「どうしてほかの鳥(とり)は、みんなそう幸福(こうふく)なのでしょう。」と、からすはうらやみました。
 するとかもめは、からすをなぐさめて、いいますのには、
「からすさん、私(わたし)の見(み)たはとの中(なか)には、ちょうどあなたのように、色(いろ)の真(ま)っ黒(くろ)く見(み)えるのがありましたよ。だから、あなたも知(し)らぬ顔(かお)をして、その仲間入(なかまい)りをしていられたら、だれも不思議(ふしぎ)に思(おも)うものはありますまい。ひとつ都(みやこ)にいって、大胆(だいたん)にそうなさってはいかがですか。」と、かもめはいいました。
「そうですか、ひとつ考(かんが)えてみましょう。」と、からすは答(こた)えました。
 やがて、かもめとからすとは、別(わか)れてしまいました。かもめは海(うみ)の方(ほう)にゆき、からすは里(さと)の方(ほう)にゆきました。かもめは、いつしか、昔(むかし)と同(おな)じ生活(せいかつ)をしましたけれど、からすは里(さと)へいっても、あまりおもしろいことはありませんでした。いつか、かもめから聞(き)いたことを思(おも)い出(だ)して、
「都(みやこ)へいって、はとの仲間入(なかまい)りをすれば、なにもせんで楽(らく)に暮(く)らしていける。」と、考(かんが)えましたので、ついにその気(き)になって、南(みなみ)に向(む)かって旅立(たびだ)つことにいたしました。
 からすは、かもめのように空(そら)を高(たか)く、また速(はや)く飛(と)ぶことはできませんでした。それでも幾日(いくにち)かかかって、にぎやかな都(みやこ)に到着(とうちゃく)いたしました。
「なるほど、にぎやかなきれいなところだ。いつも、お祭(まつ)り騒(さわ)ぎをしているところだ。」と、思(おも)いました。
 からすは、さっそく、社(やしろ)の境内(けいだい)へ飛(と)んでゆきました。するといままで、見慣(みな)れない鳥(とり)が近(ちか)くにやってきたので、気(き)の弱(よわ)いはとは、一時(じ)に騒(さわ)ぎたてました。からすは、これは困(こま)ったと思(おも)いました。見(み)るとかもめのいったように、黒(くろ)っぽい色(いろ)のはともいました。これはだんだん彼(かれ)らに馴(な)れていかなければならぬと、初(はじ)めは離(はな)れたところで、からすは地面(じめん)に降(お)りて餌(え)を探(さが)していました。

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