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日月ボール(2)

时间: 2022-11-04    进入日语论坛
核心提示: 清(せい)さんが、まだ若(わか)いときのこと、あちらの山(やま)を越(こ)したことがありました。いいお天気(てんき)の日(ひ)で、
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 清(せい)さんが、まだ若(わか)いときのこと、あちらの山(やま)を越(こ)したことがありました。いいお天気(てんき)の日(ひ)で、空(そら)はよく晴(は)れて雲(くも)の影(かげ)もありませんでした。山(やま)や、谷(たに)の木(き)の葉(は)は、きらきらと日(ひ)に輝(かがや)いていました。ちょうど高(たか)い山(やま)の頂(いただき)にさしかかると、一人(ひとり)の男(おとこ)が、石(いし)に腰(こし)をかけて、なにか、しきりにやっています。見(み)ると、金光(きんびか)りのする、日月(じつげつ)ボールでけいこをしているのでした。こんなところで、どうしたのだろうかと思(おも)うと、きちがいででもあるような気(き)がして、怖(おそ)ろしくなって急(いそ)いで、山(やま)を下(くだ)ったというのであります。
「小父(おじ)さん、どうして、そんな山(やま)の上(うえ)で、日月(じつげつ)ボールをしていたんだろうね。」
「だから、きちがいかと思(おも)ったのさ。」
「きちがいでなかった?」
「それは、わからない。」
「どうして、そのボールは、金光(きんびか)りをしていたんでしょうね。」
「きっと、金粉(きんぷん)を塗(ぬ)ったのだろう。そうでなかったら、重(おも)くて、けいこなんか、できやしない。」
「不思議(ふしぎ)だな。」
「ああ、それからは、小父(おじ)さんは、夜(よる)になって、あちらの空(そら)で、星(ほし)が、ぴかぴか光(ひか)るのを見(み)ると、あの男(おとこ)が、いまでも、あの高(たか)い山(やま)の上(うえ)で石(いし)に腰(こし)をかけて、日月(じつげつ)ボールをやっているように思(おも)うのさ……。」
 清(せい)さんは、こんな話(はなし)をしました。孝(こう)ちゃんは、たとい、きちがいにしても、どうして、一人(ひとり)で、そんなところへいったのだろう? そしてそれから、その人(ひと)は、どうしたろう……と、考(かんが)えずにいられませんでした。
「小父(おじ)さん、きちがいにちがいないね。」
「いや、そうでないかもしれぬ。」
「そうでないのなら……。」
「ほんとうに、孝坊(こうぼう)のように、だれも、ゆかない山(やま)ん中(なか)で、一心(しん)に、日月(じつげつ)ボールをうまくなろうとけいこしていたのかもわからないじゃないか。」と、清(せい)さんは、笑(わら)いました。
「だって、そんな人(ひと)は、ないだろう。」と、孝(こう)ちゃんは、いいました。
 清(せい)さんは、また、その後(ご)、その男(おとこ)に似(に)た男(おとこ)を見(み)たというのです。それは、ある小(ちい)さな町(まち)の祭(まつ)りの日(ひ)でした。神社(じんじゃ)の境内(けいだい)に、見(み)せものや、食(く)い物(もの)店(みせ)が出(で)ました中(なか)にまじって、いいかげんに年(とし)とった男(おとこ)が、日月(じつげつ)ボールを売(う)っていたというのであります。
 その男(おとこ)は、赤(あか)い日月(じつげつ)ボールを手(て)に持(も)って、上手(じょうず)に、ポン、ポン、受(う)けていました。
「さあ、だれでも、じきにうまくなれますよ。こういうように、一度(ど)も、落(お)とさずにうまくやれたら、ここに並(なら)べてある、外国(がいこく)の切手(きって)でも貨幣(かへい)でも、また水晶(すいしょう)・さんご、なんでも、欲(ほ)しいと思(おも)うものをあげます。はやく、日月(じつげつ)ボールを買(か)ってけいこをなさい。じきにうまく、それは、おもしろいようにできますよ。」
 男(おとこ)は、横(よこ)を向(む)きながら、また、話(はなし)をしながら、上手(じょうず)に日月(じつげつ)ボールを落(お)とさずに、ポン、ポン、やっていました。
 子供(こども)たちは、その男(おとこ)を取(と)り巻(ま)いて、感心(かんしん)して見(み)ていました。そして箱(はこ)の中(なか)に、並(なら)べてある珍(めずら)しいものにも見(み)とれていました。清(せい)さんは、その男(おとこ)が、山(やま)の上(うえ)で、日月(じつげつ)ボールをやっていた男(おとこ)に似(に)ていたというのでした。
「日月(じつげつ)ボール一本(ぽん)二十銭(せん)、買(か)わずにやってみようというなら五銭(せん)、うまくやれば、外国(がいこく)の古(ふる)い切手(きって)でも、貨幣(かへい)でも、紫水晶(むらさきずいしょう)でも、なんでもあげます……。」
 その男(おとこ)は熱心(ねっしん)にしゃべっていたのです。
「その男(おとこ)は、子供(こども)をだます、悪(わる)い男(おとこ)だったが、そのとき持(も)っていたのは、金光(きんびか)りでなく、赤(あか)い日月(じつげつ)ボールだった。」と、清(せい)さんはいいました。
「ほんとうのこと?」と、孝(こう)ちゃんは、清(せい)さんの顔(かお)を見上(みあ)げました。
「ああ、ほんとうにあったことさ。」
 清(せい)さんは、まじめに答(こた)えました。清(せい)さんのぼろ自動車(じどうしゃ)にも、ときどき、お客(きゃく)がありました。清(せい)さんは、人間(にんげん)がいいから、近所(きんじょ)の人々(ひとびと)は、しぜん乗(の)るようになったのでした。このときも、ちょうどお客(きゃく)があって、清(せい)さんは、出(で)かけてゆきました。

 

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