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縛られたあひる(1)

时间: 2022-11-04    进入日语论坛
核心提示:縛られたあひる小川未明 流(なが)れの辺(ほと)りに、三本(ぼん)のぶなの木(き)が立(た)っていました。冬(ふゆ)の間(あいだ)、枝
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縛られたあひる

小川未明


 流(なが)れの辺(ほと)りに、三本(ぼん)のぶなの木(き)が立(た)っていました。冬(ふゆ)の間(あいだ)、枝(えだ)についた枯(か)れ葉(は)を北風(きたかぜ)にさらさらと鳴(な)らしつづけていました。他(た)の木立(こだち)はすべて静(しず)かな眠(ねむ)りに就(つ)いていたのに、このぶなの木(き)だけは、独(ひと)り唄(うた)をうたっていたのです。
 ここからは、遠(とお)い町(まち)の燈火(あかり)がちらちらと見(み)られました。ちょうど霧(きり)のかかった港(みなと)に集(あつ)まった船(ふね)の灯(ともしび)のように、もしくは、地平線(ちへいせん)近(ちか)く空(そら)にまかれたぬか星(ぼし)のように、青(あお)い色(いろ)のもあれば、紅(あか)い色(いろ)のもあり、中(なか)には真新(まあたら)しい緑色(みどりいろ)のもありました。そして、その一つ一つに、いろいろの生活(せいかつ)があるごとく思(おも)われました。木(き)たちには、人間(にんげん)の生活(せいかつ)というものがよく理解(りかい)されていなかったようです。人間(にんげん)は、ただわがままで、無考(むかんが)えで、快楽(かいらく)を追(お)っているとしか思(おも)われませんでした。まったく生(い)き物(もの)の悲(かな)しみというものを知(し)らないもののごとくにしか考(かんが)えられませんでした。だから、彼(かれ)らは、かってに林(はやし)を切(き)り倒(たお)し、土地(とち)を掘(ほ)り返(かえ)して、自分(じぶん)たちの生活(せいかつ)についてはすこしの同情(どうじょう)ももっていないもののように見(み)えたのです。
 三本(ぼん)の木(き)は、たがいに頭(あたま)を寄(よ)せ合(あ)って、かなたの町(まち)の方(ほう)を見(み)ていました。天気(てんき)のいい日(ひ)には、白(しろ)い煙(けむり)や、黒(くろ)い煙(けむり)が立(た)ち上(のぼ)っていました。もし木立(こだち)は、その煙(けむり)が、自分(じぶん)たちの屍(しかばね)を焚(や)く煙(けむり)であったと知(し)ったら、どんなに驚(おどろ)いたことでしょう。やがて、夕日(ゆうひ)が沈(しず)んで暗(くら)くなると、燈火(あかり)がちらちらと閃(きらめ)きはじめました。ところが、その群(むら)がった火(ひ)の中(なか)から、飛(と)び出(だ)したように、ぽつ、ぽつと、町(まち)をはなれて、幾(いく)つかずつ火(ひ)が寂(さび)しい野原(のはら)の一方(ぽう)に散(ち)っていくのでした。ある夜(よる)のこと、すぐ近(ちか)くにみずみずしい冴(さ)えた魔物(まもの)の目(め)のような燈火(あかり)がついたのです。これを見(み)た、一本(ぽん)の木(き)は、
「おや、あすこへも、やってきたぞ!」といいました。
「なるほど、いつここへくるかもしれない。」と、他(た)の一本(ぽん)の木(き)は、不安(ふあん)そうに、答(こた)えました。
 三本(ぼん)の木(き)は、その夜(よ)、北風(きたかぜ)に声(こえ)を合(あ)わせて、いつになく悲(かな)しい唄(うた)をうたったのであります。
 明(あ)くる日(ひ)、朝日(あさひ)の影(かげ)が、下(した)の流(なが)れの上(うえ)に射(さ)したとき、小(ちい)さな魚(さかな)たちは、もうじき春(はる)がくるのを喜(よろこ)ぶように、銀色(ぎんいろ)の腹(はら)を見(み)せながら水(みず)の中(なか)で踊(おど)ったのでした。そして、のねずみは、穴(あな)の入(い)り口(ぐち)で、目(め)をこすりながら、
「昨夜(ゆうべ)は、ぶなの木(き)さんが、悲(かな)しい歌(うた)をうたっていたが、人間(にんげん)どもがこのあたりをうろついて、木(き)を切(き)る話(はなし)でもしたのかな。いやこのごろの世間(せけん)の不安(ふあん)ってありゃしない。いつこの川辺(かわべ)のおれたちの巣(す)も掘(ほ)り返(かえ)されてしまうかわかったものでない。危(あぶ)ないとなったら、どこへか引(ひ)っ越(こ)しをしなけりゃならん。」と、ひとり言(ごと)をしていました。
 午後(ごご)でした。なんだか、急(きゅう)に頭(あたま)の上(うえ)が騒々(そうぞう)しいので、のねずみは目(め)をさましました。そこで、穴(あな)の中(なか)から出(で)て、のいばらや、藤(ふじ)づるの下(した)をくぐりぬけて、ぶなの木(き)のところまできてみると、いつ造(つく)ったか、そこには、みすぼらしい犬(いぬ)でも入(はい)りそうな小舎(こや)ができていました。屋根(やね)には、さびたブリキ板(いた)を載(の)せ、周囲(しゅうい)は、破(やぶ)れた板(いた)が立(た)てかけてありました。のねずみはのぞくと、天井(てんじょう)から、ぼろきれが釣(つ)るしてあり、バケツには、川水(かわみず)が汲(く)んであって、頭髪(とうはつ)の伸(の)びた父親(ちちおや)らしい乞食(こじき)が、曲(ま)がった指頭(ゆびさき)で、もらってきた銭(ぜに)を数(かぞ)えていました。そのそばに、十(とお)ばかりの男(おとこ)の子(こ)が、口(くち)をもぐもぐさせて、なにか食(た)べているようすでした。これを見(み)たのねずみは、板(いた)のすきまへ頭(あたま)を突(つ)っ込(こ)んだままどうしようかと、しばらくためらっていましたが、
「ぶなの木(き)さんも、こんな人間(にんげん)どもが下(した)に住(す)んではさぞ困(こま)ることだろう。しかし、町(まち)の方(ほう)から、子供(こども)たちが釣(つ)りにやってこなくなるだろうから、魚(さかな)たちには、都合(つごう)がいいかもしれない。」
 そんなことを思(おも)いながら、小舎(こや)の中(なか)へは遠慮(えんりょ)して、圃(たんぼ)の方(ほう)へ走(はし)ってゆきました。

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