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縛られたあひる(2)

时间: 2022-11-04    进入日语论坛
核心提示: はたして、乞食(こじき)の親子(おやこ)は、ぶなの木(き)の根(ね)もとで火(ひ)を焚(た)きました。青(あお)い煙(けむり)が、幹(
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 はたして、乞食(こじき)の親子(おやこ)は、ぶなの木(き)の根(ね)もとで火(ひ)を焚(た)きました。青(あお)い煙(けむり)が、幹(みき)を伝(つた)い、小枝(こえだ)を分(わ)けて、冴(さ)えた、よくふき清(きよ)めたガラス張(ば)りのような空(そら)へ上(のぼ)ってゆきました。このごろ、ぶなの木(き)は、春(はる)の近(ちか)づいたせいか、空(そら)を見(み)ると、去年(きょねん)の夏(なつ)、飛(と)んできたかわらひわのことを思(おも)い出(だ)すのでした。かわらひわは、毎日(まいにち)のように、どこからか飛(と)んできて、枝(えだ)に止(と)まって、いい声(こえ)でさえずりをきかせたり、また、遠(とお)い旅(たび)の話(はなし)などをきかせてくれたのでした。そして、別(わか)れる時分(じぶん)に、さも名残惜(なごりお)しそうにして、
「また、来年(らいねん)の若葉(わかば)のころには、きっときますから、どうぞ、みなさんお達者(たっしゃ)でいてください。」といったのでありました。
三本(ぼん)のぶなの木(き)は、そのかわらひわのいったことを思(おも)い出(だ)すにつけ、こんな乞食(こじき)が、ここへやってきたのでは、たとえ自分(じぶん)たちが、無事(ぶじ)でいても、かわらひわは、おそらく、二度(ど)とここへはきて止(と)まることもあるまいと考(かんが)えたのでありました。それは、なんという情(なさ)けない、また悲(かな)しいことだったでしょう。日(ひ)が沈(しず)んでから、その日(ひ)も募(つの)り出(だ)した、北風(きたかぜ)に、木(き)は、昨日(きのう)にもまして悲(かな)しい声(こえ)で唄(うた)をうたったのであります。
二、三日後(にちご)の、暮(く)れ方(がた)のことでした。だいぶ暖(あたた)かになったので、水(みず)の中(なか)の魚(さかな)が、しきりと輪(わ)を描(えが)いて泳(およ)いでいました。このとき、乞食(こじき)の子(こ)は、町(まち)の方(ほう)から、一羽(わ)のあひるを抱(だ)いて帰(かえ)ってきました。それより、一足(ひとあし)先(さき)に小舎(こや)へもどっていた父親(ちちおや)は、それを見(み)て、
「どこでさらってきた?」と、たずねました。
「犬(いぬ)がくわえてきたのを追(お)い払(はら)って、捕(と)らえてきたのだよ、どこにも傷(きず)がついていないようだ。」と、子供(こども)は、あひるを大事(だいじ)そうに両腕(りょううで)の間(あいだ)に入(い)れて、いつまでも放(はな)そうとはしませんでした。
「焼(や)いて、食(た)べたら、うまかろう。」と、父親(ちちおや)は、じっと、ふるえている羽(はね)の紫色(むらさきいろ)をした鳥(とり)を見(み)つめました。
「俺(おれ)はいやだ、殺(ころ)すなんて。」と、子供(こども)は、白目(しろめ)を出(だ)して、父親(ちちおや)の顔(かお)をにらみました。
「どうする気(き)だ?」と、父親(ちちおや)は、そっけなく問(と)いました。
「おら、飼(か)っておくのだ。」
「ばかめ、そんなもの飼(か)っておいてみろ、おまえが盗(ぬす)んできたことになるぞ。」
子供(こども)は、考(かんが)えていましたが、
「明日(あした)殺(ころ)そうよ。今夜(こんや)だけ、川(かわ)の中(なか)へ、一晩(ひとばん)、足(あし)を縛(しば)って放(はな)しておくから、それならいいだろう?」
「かってにしろよ。」
父親(ちちおや)は、無理(むり)に今夜(こんや)あひるを殺(ころ)すとはいいませんでした。せめて、一晩(ひとばん)は、子供(こども)の自由(じゆう)にさせておいてやろうと思(おも)いました。
「しっかり足(あし)を縛(しば)っておくだぞ、さあ、この繩(なわ)でな。」といって、父親(ちちおや)は、手(て)ごろなじょうぶそうな繩(なわ)を取(と)り出(だ)して、子供(こども)の足(あし)もとへ投(な)げました。
子供(こども)は、だまって、繩(なわ)を拾(ひろ)って、あひるの足(あし)を結(むす)んでいました。もう水(みず)の上(うえ)は、ほの白(じろ)く夜(よる)の空(そら)の色(いろ)を映(うつ)しているだけで、水(みず)ぎわに生(は)えているやぶの姿(すがた)がわからないほど、暗(くら)くなっていました。子供(こども)は、しばらく、その暗(やみ)を透(すか)かして、水(みず)の面(おもて)がさざなみをたて、あちらこちら泳(およ)いでいる、あひるのようすをながめていましたが、手(て)に握(にぎ)っている、繩(なわ)の端(はし)をいばらの木(き)の根(ね)につなぐと、さも満足(まんぞく)そうに、小舎(こや)の中(なか)へもどっていきました。それからのこと、暗(くら)がりで泳(およ)いでいたあひるは、足(あし)についた繩(なわ)の重(おも)みで、身動(みうご)きができなくなったのか、岸(きし)へ上(あ)がって、やぶ蔭(かげ)にうずくまってしまいました。
今夜(こんや)も、ぶなの木(き)は、悲(かな)しい唄(うた)をうたいつづけました。たぶん、あひるは、何事(なにごと)も夢(ゆめ)のようで、意外(いがい)であった、この一日(にち)のでき事(ごと)を思(おも)い出(だ)していたのでしょう、目(め)をぱちくりさして、太(ふと)いくちばしで、傷(きず)のついているらしい、翼(つばさ)の下(した)のあたりをなめながら、気(き)にしていました。そのうちに、つい自分(じぶん)が、どこにどうしているということも忘(わす)れて、あの居心地(いごこち)のよかった古巣(ふるす)が、この付近(ふきん)にでもあると思(おも)ったのか、急(きゅう)に恋(こい)しくなって探(さが)しはじめました。しかし、それは、ますます彼(かれ)の体(からだ)を窮地(きゅうち)に陥(おとしい)れるものだということに気(き)づかなかったのです。

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