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縛られたあひる(3)

时间: 2022-11-04    进入日语论坛
核心提示: 穴(あな)の中(なか)から、頭(あたま)を出(だ)して、いっさいを知(し)りつくしたのねずみは、あひるが、不格好(ぶかっこう)なよ
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 穴(あな)の中(なか)から、頭(あたま)を出(だ)して、いっさいを知(し)りつくしたのねずみは、あひるが、不格好(ぶかっこう)なようすで、あわてるのを見(み)て、はじめはにくらしい奴(やつ)だ、いいきみだというくらいに思(おも)ったのが、だんだん気(き)の毒(どく)になりました。それには、前(まえ)にこんなことがあったから――いつかこの流(なが)れへ下(お)りた白鳥(はくちょう)が、旅(たび)のおもしろい話(はなし)をきかしてやるからと、たくさんの魚(さかな)たちを集(あつ)めておいて、ふいに、かわいらしい小(こ)ぶなを三びきも食(た)べて、どこかへ逃(に)げていってしまったことを知(し)っていたからです。けれど、この愚(おろ)かなあひるには、そんな芸当(げいとう)は、どう見(み)てもできそうはありませんでした。それどころか、自分(じぶん)でぐるぐると繩(なわ)をなにかの枝(えだ)に巻(ま)きつけて、苦(くる)しまぎれに、ウエー、ウエーと悲鳴(ひめい)を上(あ)げているのでした。ちょうどその声(こえ)は、ぶなの木(き)がざわざわと体(からだ)を揺(ゆ)すって歌(うた)うのに、調子(ちょうし)を合(あ)わせて、頓狂(とんきょう)な拍子(ひょうし)でも取(と)るようにきかれたのでした。
 りこうなのねずみは、この風(かぜ)のうちに、いつもにない不安(ふあん)を感(かん)じたのです。昼間(ひるま)、もうだいぶ青々(あおあお)と伸(の)びた麦圃(むぎばたけ)を通(とお)っている時分(じぶん)にも、ただならぬ風(かぜ)のけはいを予知(よち)したのであるが、日(ひ)が暮(く)れてから、いっそうその不安(ふあん)は濃(こ)くなってきたのでした。
「この美(うつく)しい、すみよかった場所(ばしょ)がこんなになってしまった。このとおりあひるは縛(しば)られて明日(あした)の命(いのち)がわからないし、ぶなの木(き)は、根本(ねもと)が焦(こ)がされている。そして、川(かわ)の魚(さかな)も、私(わたし)たちも、安心(あんしん)してはいられない。すべてのものが息詰(いきづ)まっているのだ。なにか思(おも)いがけないことでも起(お)こらなければ、もう二度(ど)と昔(むかし)のように、平和(へいわ)な楽(たの)しい太陽(たいよう)の光(ひかり)は見(み)られないだろう……。」
 穴(あな)の入(はい)り口(ぐち)から、夜(よる)の空(そら)を仰(あお)いで、こんなことを考(かんが)え込(こ)んでいたのねずみの姿(すがた)も、そのうち、いつしか消(き)えてしまいました。
 真夜中(まよなか)ごろ、子供(こども)は、あらしの叫(さけ)びで目(め)をさましたのです。小舎(こや)が、ぐらぐらと動(うご)いて、ブリキのはがれる音(おと)がしていました。
「たいへんな風(かぜ)だ。」
「いつでも逃(に)げる用意(ようい)をしていれよ。バケツとふろしき包(づつ)みを忘(わす)れんでな。」と、父親(ちちおや)がいいました。
 子供(こども)は、外(そと)へ飛(と)び出(だ)しました。空(そら)は、気味悪(きみわる)いほの白(じろ)さで、ぶなの木(き)が、腰(こし)を折(お)れそうに曲(ま)げて、風(かぜ)の襲(おそ)うたびにくびを垂(た)れるのが見(み)られました。
「父(とう)ちゃん、あちらの空(そら)が、火事(かじ)のように明(あか)るいよ。」と、子供(こども)は、外(そと)から叫(さけ)びました。
「大風(おおかぜ)のときは、そういうもんだ。このあらしが過(す)ぎれば暖(あたた)かになるぞ。」
 ちょうどこのとき、その声(こえ)を打(う)ち消(け)して、どっとたたきつけるごとく吹(ふ)きつけた風(かぜ)に、小舎(こや)は、めりめりとこわれて、ブリキ板(いた)がどこかへ飛(と)んでしまって、なにかにぶつかった音(おと)がしました。
「雨(あめ)が降(ふ)ってきた!」と、子供(こども)が、大声(おおごえ)で告(つ)げました。
「さあ、いつものところへ逃(に)げろよ。」と、父親(ちちおや)はそこらにあったものをひっつかむようにして、闇(やみ)の中(なか)へ駈(か)け出(だ)しました。子供(こども)は、川(かわ)ぶちまで飛(と)んでくると、あひるは、いまにものどをくくられて死(し)にそうな悲(かな)しい鳴(な)き声(ごえ)をあげていました。子供(こども)は、刃先(はさき)の鋭(するど)い小刀(こがたな)で、足(あし)を縛(しば)った繩(なわ)を切(き)りました。そして、そのままあひるを放(はな)して、バケツとふろしき包(づつ)みを下(さ)げて、父親(ちちおや)の後(あと)を追(お)いかけました。
 雨(あめ)と風(かぜ)と雷(かみなり)の、ものすごい一夜(や)でした。その夜(よ)が明(あ)けはなれたときに、流(なが)れの水(みず)は満々(まんまん)として、岸(きし)を浸(ひた)して、春(はる)の日(ひ)の光(ひかり)を受(う)けて金色(こんじき)に輝(かがや)いていました。また、ぶなの木(き)は、古(ふる)い枯(か)れ葉(は)をことごとく振(ふ)り落(お)として、その後(あと)から、新(あたら)しい緑色(みどりいろ)の芽(め)を萌(きざ)していました。乞食(こじき)は、ふたたびその木(き)の下(した)に寄(よ)りつかず、どこへいったやら、あひるの影(かげ)も見(み)えなかったのであります。いずれ彼(かれ)らの消息(しょうそく)は、りこうな、敏捷(びんしょう)なのねずみによって、探(たず)ね出(だ)されて、ぶなの木(き)や魚(さかな)たちにもわかることでありましょう。

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