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少女と老兵士(1)

时间: 2022-11-07    进入日语论坛
核心提示:少女と老兵士小川未明某幼稚園ぼうようちえんでは、こんど陸軍病院りくぐんびょういんへ傷痍軍人しょういぐんじんたちをおみまい
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少女と老兵士

小川未明


某幼稚園ぼうようちえんでは、こんど陸軍病院りくぐんびょういんへ傷痍軍人しょういぐんじんたちをおみまいにいくことになりましたので、このあいだから幼おさない生徒せいとらは、歌うたのけいこや、バイオリンの練習れんしゅうに余念よねんがなかったのです。きょうも、「父ちちよあなたは、強つよかった」を、バイオリンを弾ひくものと、うたうものとで調子ちょうしを合あわせたのでありました。
「よくできました。これでおしまいにしましょうね。あしたは、お国くにのために、負傷ふしょうをなさった、兵隊へいたいさんたちをおみまいにまいるのですよ。」と、女おんなの先生せんせいがいいました。
門もんから流ながれ出でる生徒せいとらを、二人ふたりの若わかい保姆ほぼが、たがいに十五、六人にんずつ引ひきつれて、いつものごとく、道みちを左右さゆうに、途中とちゅうまで見送みおくったのであります。
「ああ、わたしくたびれたわ。先生せんせい、おんぶしてちょうだい。」と、白しろい帽子ぼうしを被かむった、一人ひとりの女おんなの子こが、お姉ねえさんにでもねだるように、保姆ほぼさんに、いいました。
子供こどものわがままをきくことになれている、そして、できることはしてやっている彼女かのじょは、日ひの照てり返かえす、道みちの上うえへかがんで、背中せなかをまるくして、その子こをおぶおうとしました。すると、かたわらから、
「先生せんせい、わたしもよ。」と、いって、目めのぱっちりした、同おなじ年としごろの女おんなの子こが、いっしょに飛とびつきました。たとえ小ちいさくても、二人ふたりの子供こどもの力ちからに押おされて、若わかい保姆ほぼは、危あやうく前まえのめりになろうとしました。
「いっしょに、おんぶできませんから、ひとりずつになさいね。」
二人ふたりが、手てを放はなした間まに保姆ほぼは、立たち上あがりました。
「赤あかちゃんみたいに、おんぶなんかして、おかしいから、さあ、歩あるいていきましょう。」
先さきへいった、四、五人にんの子供こどもたちは、先生せんせいのくるのを待まっていました。そして、近ちかづくと両手りょうてへほかの子供こどもがひとりずつすがり、もうけっしてだれにも先生せんせいを渡わたさないというふうにして、歩あるいていきました。
「とも子こちゃん、あすこに大おおきなキューピーさんがあってよ。」
さっきの白しろい帽子ぼうしを被かむった子こが、ランドセルの中なかの筆入ふでいれを鳴ならしながら、片側かたがわにある店みせの方ほうに向むかって走はしりました。
「ほんと。」
目めのぱっちりした子こが、その後あとを追おったのであります。
「大おおきなおめめで、大おおきなおぽんぽんね。」
「とも子こちゃんのおめめみたいよ。」
「あら、私わたしの目め、こんなに大おおきくないわ。」
「あら、先生せんせいが見みえなくなったわ。」
二人ふたりは、店みせの前まえをはなれると、駈かけ出だしました。ちょうどそのとき、横合よこあいから、演習えんしゅうにいった兵隊へいたいさんたちが道みちをさえぎりました。砲兵隊ほうへいたいとみえて、馬うまが、大砲たいほうや、いろいろのものを乗のせた車くるまを引ひいて、あとからも、あとからも、ガラガラとつづきました。兵隊へいたいさんの黄色きいろな服ふくは、いくところか、汗あせがにじみ出でて黒くろくなっていました。けれど、くつ音おとをそろえてわき見みもせず、顔かおを前まえに向むけて進すすんでいました。
「通とおれなくて、困こまるわ。」
「しかたがないわ、兵隊へいたいさんですもの。」と、とも子こちゃんは、いいました。
ふと、とも子こちゃんは、頭あたまを上あげて、青あおい空そらをながめました。すると、なんだか急きゅうに悲かなしくなったのです。
「兄にいさんは、どうしていらっしゃるだろう?」

翌日よくじつの午後ごごでありました。先生せんせいに引ひきつれられて、女おんなの子この多おおい、幼稚園ようちえんの生徒せいとたちは、ぞろぞろと町まちの中なかを歩あるいていました。病院びょういんへの途中とちゅうであります。バイオリンを提さげている子こをのぞいて、ほかの子供こどもたちは、なにかしら兵隊へいたいさんをなぐさめるためにあげようとするものを手てに持もっていました。白しろい服ふく、青あおい服ふく、白しろい帽子ぼうし、水色みずいろの帽子ぼうし、ようすはいろいろでありましたが、いずれも小ちいさくてぴちぴちしていて、お人形にんぎょうの行列ぎょうれつのように見みられました。通とおり合あわせるものは、だれでも、この無邪気むじゃきな一人ひとり一人ひとりの顔かおをのぞき込こむようにして、ほほえまぬものはなかったのでした。やがて、ゴー=ストップのところへ出でました。けれど、この虫むしのはうようなのろい行列ぎょうれつは、進すすめも、止とまれも、おかまいなしに歩あるくよりは、どうすることもできなかったので、やはり、のろのろと歩あるいていました。右みぎからも左ひだりからも、前まえからも後うしろからも、きかかった車くるまは、みんな子供こどものために止とまってしまいました。
「兵隊へいたいさんと子供こどもにかかってはなあ。」と、ガソリンの損そんになるのも忘わすれて、運転手うんてんしゅが、笑わらいながらいっていました。
白しろい雲くもの峰みねがくずれたころ、この列れつは、広々ひろびろとした病院びょういんの門もんを入はいって、小砂利こじゃりの上うえへ軽かろやかなくつ音おとをたてたのであります。
 
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